Case 26-2
2020年9月29日 完成
普段通り学園に通う八朝に衝撃的な知らせが届いた。
鹿室が十死の諸力に入った……その事実関係を精査していく。
【5月20日12時43分 篠鶴学園高等部・第二異能部部室】
「どうでした、先生の話?」
「どうも私たちがいなくなった時期とほぼ同じタイミングで……」
「その話ぐらい知っています、先輩」
「え……えぇー……」
三刀坂がこれ以上何も覚えていないのか、神出来に詰め寄れれて言い淀む。
そろそろ耐え切れそうにないので話を切り出してみる事にする。
「……なんでアンタがここに?」
「いちゃ悪いの?」
「いや、昨日は『危なっかしいからもう嫌』って」
「危なっかしいのは十死の諸力じゃなくて先輩たち、ホント見てられない」
昨日の事を反芻する。
情報収集だけと言っておきながら、敵地の懐で隠し通路までのこのこと進み、丸前と七殺の連戦を被る。
今考えてみると生きているのが不思議なぐらいの迂闊さであった。
「言われてみればそうだな」
「言われてみたらじゃなくて、今度からは即決してくださいね」
神出来が溜息を吐く。
それと同時に八朝も今の作業へと戻る。
「話を戻すが、先生はそれぐらいしか知ってなかったぞ」
「……私のクラスもそんな感じ
強いて言えば前にも言った『第二異能部の神隠し』ぐらいしか無かったわよ」
非常に不本意な噂であるが、タイミングがこれ以上に無く良かったので致し方は無い。
だが、これのせいで詳しく詮索できる人が軒並み手を引いてしまったのが痛かった。
鹿室がこの部室に資料を残していない、という事実も拍車をかけている。
「駄目だ、やっぱり残ってない」
「ですよねー」
「この部……全然機能してなかったからねー……」
三刀坂の何気ない呟きが耳に痛かった。
ゴタゴタが連続していたとはいえ、思い返してもこの部がマトモに機能していた記憶が無い。
「……ッ!」
また、記憶が無いである。
本当なら覚えている筈、という思い込みが八朝の頭痛を加速させる。
「先輩、さっきから体調悪そうですが大丈夫ですか?」
「大丈夫、案外心配する必要は無い」
八朝がファイル資料の中からピックアップしたのは前部長の記録であった。
「前の部長さんの契約書?」
「ああ、部長は生徒同士の契約の時もこうやって書類を残しているし、何より鹿室と一度会っている」
前部長は空調の無いこの部屋で涼むために彼を呼んでいる。
何か関係がありそうだと八朝が踏んだのである。
神出来がペラペラと捲っていくと、予想通りの書類が見つかる。
書類の一番下にバーコードのような紋様があり、それが彼女の公式の書類である事を示している。
「前の部長さんって……大分ファンキーな人なんですね」
「……冷静ではあったんだがな」
「違いますよ、4月のまだ肌寒い時期に涼を取る為に呼んだとかおかしくないですか?」
確かに何かおかしい……
あの時は確かに暑かった記憶があるが、それは太陽光が直撃したせいであって……
……あの部室だけ妙に蒸し暑かった。
「そういえば鹿室は『伝令の石』を作ってたよな」
「先輩が言うにはそうですが……」
八朝がこのファイルのあった近くのもの全部をもう一度目を通す。
だが、何も目ぼしいものが見つかっていない。
そして、更に恐ろしい物の痕跡が見つかる。
「これ、何ですか……2月のって全然関係ないんじゃ……」
「待って!
これ……破られている……」
2月と言えば元『異能部』の辻守がこちらにやって来た時期である。
微妙につながりそうで繋がらない何かしか集まらない。
「……ここからじゃ何も情報が得られないな」
「そうは言ってもこれ以上鹿室君の手掛かりなんて見つからないよぅ」
三刀坂がギブアップしたかのように机に突っ伏す。
その際に鞄を倒してしまったのか内容物が床に散らばる。
「すみません先輩!
今すぐ片づけます!」
「んあ……後ででいいよ、そんなの」
神出来が手際よく内容物を戻していく。
ふと、その動きがピタリと止まる。
「お守り……?」
「えっ!
お守り見つかったの!?」
三刀坂の反応に吃驚したのか、神出来がおずおずと差し出す。
クオリティから見て、どうやら手作りのお守りであるらしい。
「兄から貰ったのか?」
「ううん、八朝君から貰ったもの」
三刀坂が懐かしむように目を細める。
「え?
八朝先輩ってここに居るんじゃ……」
神出来が聞こうとして思わず口を押えてしまう。
目の前にいる筈の人間を懐かしむ異様な光景の二人が、何故か今まで以上に危うく見えてしまったからである。
「そういえばその中にはとっておきの赤い石……を……?」
八朝が何かを言いかけて愕然とする。
何故お守りの中身が……しかもあの『伝令の石』だなんて……
三刀坂がお守りの中身を取り出す。
この赤い輝きは間違いなく『伝令の石』に間違いなかった。
「何で知って……もしかし……ッッッ!!!」
三刀坂が頭を抱えて悲鳴を上げる。
「先輩!?
先輩一体どうしたのですか!?」
「なんで……なんでこんな事忘れて……あああ人が人が……!」
譫言のように何かを繰り返している。
もしかすると、前に話していた彼女のトラウマ……篠鶴機関長殺害失敗時の記憶なのかもしれない。
「ちょっと離れてくれ! ■■!」
三刀坂の周囲だけ睡眠の霧吹きを発生せて強制的に精神を落ち着かせる。
神出来が心配そうにおろおろしているが、『これで大丈夫だ』と言って無理矢理落ち着かせる。
「何でこんなもの……待て、書類が何か……」
『伝令の石』を通して赤くなった光の部分で、書類の余白から文字が浮かんでいる。
八朝が慌てて端末のライトをONにして書類の余白を余さず調べていく。
「な……!?
『伝令の石』を作ったのも……俺?」
12月……三刀坂が知っている八朝だったころの書類から見つかる。
『涼音の精神状態が悪い
どうも過去のトラウマが原因のようだ
だから彼女のトラウマをこの『伝令の石』に封じ込めて隔離することにした
いつか涼音がこの辛い記憶に立ち向かえるその日が来るまで
誰にも見つからないお守りの中に』
それは過去の自分の奮闘記とも呼べるべき内容であった。
彼が『闇属性電子魔術』として三刀坂の能力の危険な部分を切除したことも言及されている。
そして……
『12月28日
伝令の石の製法が盗まれた
犯人は知っている……あの鹿室正一郎に違いない
十死の諸力第六席・飛宮のアンサー……彼を止めなくては!』
そこで記録が途切れている。
三刀坂が『今の八朝』になった時期と一致している。
さらに続く……
『4月22日
彼の親友のフリをしている鹿室を呼び出す
お土産の『フィンランドの冷気を詰め込んだ石』は眉唾物だったけど、実勢に涼しかったから良しとする
これを読んでいるのが八朝風太である事を祈ってこの事実を書き残す
鹿室と貴方は親友では無い
闇属性電子魔術による洗脳が原因だと自供してくれた
この書類が自動書記を備えていたことをこれほど感謝したことは無いわ
もう一度言います、彼は貴方の敵よ』
「そんな……」
神出来が言葉を無くす。
八朝も三刀坂が起きるまで何一つ言葉が見つからなかった。
続きます




