Case 25-4
2020年9月26日 完成
2020年9月27日 誤字修正
三刀坂が『何らかの手段』で岩盤と化した辰之中からの脱出に成功する。
狼の特徴が随所にみられる小人となって七殺に再び対峙する。
【5月19日20時23分 磯始地区・隠し通路?】
『馬鹿な!?
ここは渡れずの横断歩道の向こうでしょ!?』
小人に向かって七殺が叫ぶ。
銃剣を構え、今度はフルオートの機銃掃射を放つ。
『ッ!
辛上乙下!』
土を巻き込むように薙刀を振るい、ガラスでできた『微塵切り』を放つ。
庚上庚下とも異なる斬撃が、喩え砕かれようとも空間に残留して切り刻む『亡霊』と化す攻撃の筈が……
きらきらとした破片を巻き上げて消え去っていく。
『そんな……何が起きて……!』
そこに飛んできた待針を躱し、薙刀を地面に突き立てる。
ありったけの力でガラス状の斬撃を旋回させ、斬撃の壁を作り時間稼ぎを行う。
「三刀坂……なのか……?」
後方で呆然とした呟きが聞こえる。
少々罪悪感の混じった声音から、彼が何を考えているか三刀坂が察する。
背中を叩いて『思いっきり■■■使っちゃって!』と励まそうとして口を開く。
だが声が出なかった……だから胸を張るだけに留まる。
「……」
八朝もそれだけで何となく伝わっていた。
縋りつくような罪悪感を振り払おうとして、あまり上手くいっていない。
『大丈夫、キミなら見つけられる……あの時私を守ってくれたように』
一瞬エリスのような声の幻聴が聞こえた。
だが目の前には三刀坂らしき小人しかいない。
でもこれで漸く覚悟が決まった。
『■■■!』
刀印を胸に刺し、赤黒雷をその先に纏わせる。
同時に七殺を覆っていた斬撃の壁が晴れる。
『もう許しはしない!
私の最大最強の斬撃で……お前たちを辰之中ごとバラバラにしてやる!!』
迸る言葉にすら斬撃が伴うほどの迸りが七殺を覆う。
小人は冷静にアイアンサイトを覗き、八朝を来る時を心を殺して待つ。
『辛奇・伏吟相克!』
一閃と共に夥しい斬撃が前後左右上下問わずありとあらゆる空間から発生する。
三刀坂は七殺を結ぶ斜線上の斬撃だけを的確に撃ち落としていく。
だが撃ち落としても亡霊のように残る斬撃が、段々と三刀坂の銃弾を阻んでいく。
あとは後ろに控えている八朝がトドメを刺すだけ。
「……Ghmkv!!!」
一瞬だけ視界上の七殺を阻む斬撃が無くなった。
このチャンスを逃すまいと八朝が■■■を雷速で放つ。
『……方違・壬上己下!』
飛翔し、対象に巻き付いて何度も切り刻む蛇の如き斬撃を繰り出したつもりが……何も起きない。
それが八朝の狙いであった。
『ば……馬鹿な……!?』
元よりこの■■■とは八雷神……即ち死後のイザナミに纏わりつく『死』そのものである。
そしてありとあらゆる『占い』にてタブーとして挙げられるものがあった。
死占……即ち相手の死を占う事である。
言い換えれば占いを利用して相手の死を確定する『呪術』。
権力者に寄り添う為に呪術的要素を捨て去った筈の占いで死の呪詛を放つ矛盾。
迎撃を旨とする七殺だからこそ犯してしまった『対象に死を取る占い』。
その罰として■■の麻痺が七殺の身体を貫いた。
『あぁぁ……あああああああああああああああああああ!』
激しい心痛でのたうち回る七殺。
それもその筈……火雷神が対応するのは胸、そこの麻痺とは即ち心臓麻痺である。
だが、それは八朝も同じことであった。
「どっちが先に……死ぬか……競争だ……な……ッ!!」
八朝が循環不全による昏睡に抗って気合で耐える。
もしも七殺が天ヶ井柚月と同じなら、呼吸循環器系が脆弱だと賭けたのである。
それとは別に三刀坂は八朝に今すぐ駆け寄りたい衝動を抑えて七殺を観察し続ける。
すると、不意に呻き声が小さくなっていく。
『……折角……折角ふう……ちゃんの『死因』が……見つかった……のに!
その為……の……オピオン計画……だった……のに……その為の……身体……だったの……に!』
絶え絶えの言葉で懺悔するようにオピオン計画の核心を口にする。
曰く、初めから八朝には『死の予兆』が存在し、天仰との出会いによって顕在化してしまった。
このままでは八朝が非業の死を遂げると悟って、自身の異能力を『本物』寄りに改造し、オピオンで察知した死の原因となるあらゆるモノを排除してきた。
連続殺人事件はこうして七殺の手で起こされ、非常手段の為に神出来も襲った。
(そんな……じゃあ……)
目の前の殺人鬼が自分と同じ気持ちを抱いていたことに驚く。
いや……自分よりも真剣に身を案じていた相手の不当な死に三刀坂が嘆く。
それを八朝が薄らいでいく意識の中で察してしまう。
(駄目だ……!
七殺は俺が……!)
殺す。
彼女にこれ以上の罪を被せることはできない。
それは自分が初めてこの手で葬った瓜二つの柚月に対するケジメの為。
だが、それ以上に意識の暗黒が勢力を強めて広がっていく。
三刀坂の憐憫が八朝の心にも響き、その頭を意識の泥濘へと沈ませる。
俺……は……!
①「やめろ!!!」
②そのまま意識を失う
続きます(そしてまたも分岐します)




