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Case 25-3

2020年9月26日 完成


 圧倒的な強さを誇る七殺(ザミディムラ)の前に現れたのは銃剣を持った妖精であった。

 その正体を迫るのに少し時を遡る必要があった。




【5月19日20時23分 磯始地区・隠し通路?】




「ここは……?」


 三刀坂(みとさか)が身に覚えのない世界に戸惑う。

 化物(カマイタチ)と化した七殺(ザミディムラ)沈降帯(アンカー)に巻き込まれて、あの真っ青な辰之中に囚われたはずである。


 であればこんな真っ暗闇はあり得ない。

 身体が妙に浮ついて気持ち悪い。


(そうだ……!

 八朝(やとも)君は!?)


 辺りを見渡しても何一つ手掛かりになりそうなものはない。

 ただ、右手が何かを掴んでいるような違和感に気付く。


依代(アーム)なの……?)


 それは自分の中にある『重量』を吸い出し、相手に撃ち込む事で重圧をかける異能力である。

 訝しむように依代(アーム)を隅々まで点検する、引き金を引いても何も起きない。


(もしかして……弾切れ……?)


 もう一度目を凝らして闇を見つめる。

 すると薄らぼんやりと、にらみ合う八朝(やとも)七殺(ザミディムラ)の後ろで固まって動けない自分の姿を見つける。


「そういえばここって確か……」


 八朝(やとも)曰く、再現が及ばぬ渡れずの横断歩道(フォレストラット)の向こう側の『岩盤』である、と。

 石の中に埋められてどうして動けようか……途方に暮れている三刀坂(みとさか)が不意に気づく。


「あれ……そういえば七殺(ザミディムラ)達が動いていない……」


 にらみ合うように見えた場面も実はかなり僅かに動いている。

 向こう側の時間がほぼ停止し、自分側の時間が際限なく加速されている。


(こんな芸当が出来る人っていったら……)


 有名なのは篠鶴機関の長である金牛(かなうし)であるが、この場にいる訳がない。

 そして『伝令の石(アンゲルスリシオン)』の力でも不可能ではないが、ミチザネ(アルキオネⅢ)事件の時に使いきった筈。


 だが、後者に関して無視できない人物がいた。

 八朝(やとも)に頼まれて石を保管し、篠鶴機関の探知の網(フォレストラット)に掛からないよう隠蔽した人物。


 咄嗟にある詠唱(スペル)を口にする。


Immofa b( 万象に)e baqrqdj(命じる ) / Sptrhe( 悪し) jw(き  を) dhnomu(阻め ) / Ocufuvdm(翠力の) ai jmthjqa(守り手)x』


 すると闇の中から見た事のない文字が浮かび始める。

 妖精魔術(エルフグラム)が反応している……するとこの場所は……


「エリスちゃん……なの?」


 文字の瞬きが、在りし日の彼女の容易な返事に見えた気がした。

 両頬を叩いて下らない感傷を吹き飛ばす。


 他にも初級地属性電子魔術(テラグラム1)詠唱(スペル)を試してみても同じことが起きた。


 ここからなら電子魔術(グラム)が届く。


「待ってて!

 今から助けに行くから!!」


 息を思いきり吸い込み、ある詠唱(スペル)を口にする。


『我に無間の償いありて、審判の痛苦より解き放て!』


 『弾圧』の逆となる重量減少の闇属性電子魔術(グラムアンブラ)

 何度も使えていたそれが、何故か全く反応しない。


 何度試しても同じ……やがて闇の中の地面を思いっきり叩く。


「どうして!?」


 そうしているうちに八朝(やとも)達に掛けられていた時間停滞が解かれ、徐々に元の時間へと戻っていく。

 七殺(ザミディムラ)に切り刻まれていく様子が、三刀坂(みとさか)を焦らせていく。


(エリスちゃんみたいに妖精になれれ……ば……?)


 意味不明な事を口にした気がした。

 妖精になった所で意味はない、ましてやそれを目論んで闇属性電子魔術(グラムアンブラ)を連発した自分は一体何を……。


 さらに何かを思い出した。

 それはエリスが常に浮遊魔術を使い続けている事をふとした拍子に聞いた時の返事であった。


『ふうちゃんが言うには32グラムある魂の重量をゼロにしたら、少なくともこのRAT(からだ)からは抜け出せるんだって』


『あたしは魂と肉体の内と外がひっくり返っているだけだから、それだけで元に戻れる

 だから浮遊魔術を使い続けているんだ!』


 やがて三刀坂(みとさか)が短い白昼夢から覚めると、決意したかのように喉に魔力を込める。


『万象に命じる、摂理に依りて、我が身を星と為す』


 エリスが使っていた浮遊魔術とは少し違う浮遊魔術を発動させる。

 目論見通り周りの闇が少しずつ晴れ渡って薄らいでいく。


 だが同時に思い出たちまで自分の中から剥がれていく。

 両親の死んだ瞬間、本物の八朝との思い出、陸上部で部員たちを守るために必死で頑張った記憶。


(……!

 嫌……そんなの……!)


 『影踏みの牛鬼』から守ってくれた八朝(やとも)の記憶までも虫食いになった瞬間、弾かれたように叫ぶ。


『……!!!

 我に無間の罪ありて、呵責なく劫火へとその身を()……』


 駄目だ!


 これでは闇属性電子魔術(グラムアンブラ)であっても電子魔術(グラム)ではない。

 消えそうになる記憶達を握り潰すように、引き寄せいるように魔力を込めて叫ぶ。


lsqf kx e(我に無)tlbc fn u(間の罪)rba zsf i(ありて)w / zsrzxzm m(呵責な)bhj ynvh(く劫火)p zd ul(へと) / hgmp jx o(その身を)n lrqwxp(焼べよ)!』


 意識が闇の中から剥がれ飛んでいく。

 その代わりに薄らいで単なる映像に成り下がった記憶達から彩り(感情)が戻っていく。


 目を開くと七殺(ザミディムラ)がトドメを刺そうと雷速の遠距離斬撃を放つ瞬間であった。

 今ならできる、と自分に活を入れていつもの固有名(スペル)を叫ぶ。


『Isfjt!』 

続きます


因みにBADENDルート(柚月を魔物として討伐する方)ではエリスの幻覚を見るシーンとなり、Case25の結末が少し違ったものになります

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