Case 25-1:言葉で相手を切り裂く閭ス蜉
2020年9月23日 完成
丸前の妨害で『ロゴスの大樹』への道が閉ざされてしまった八朝。
そこに墓標の操る蜻蛉と化物に戻った七殺が現れ……
【5月19日20時18分 磯始地区・隠し通路?】
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!』
最早ヒトの言葉ですらない叫び声が通路を震わせる。
なまじ元の姿のまま人語を忘れたような猛りに八朝達は恐怖よりも不安を覚える。
「これはどういうことだ?」
『ある若者の復讐の果てだよ、我が眷属
彼には『ガワを被せる』ぐらいしかできなかった故にな』
「……用賀か」
用賀の異能力のモチーフとなったペルーン神には変化の逸話が存在していた。
だが、彼はあの事件からも分かる通り頑なに『妖精』への変化に拘っていた。
あの退魔師曰く、妖精は歪曲された自然現象であり永続させるために核が必要となる。
恐らく七殺の認識異常が妖精化の核にされたのだろう。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!』
『安心するがよい
貴様の願い通り八朝は助けてやった、後は己の力で解決するがよい』
そして蜻蛉がどこかに飛び去ろうとする。
七殺が短く呻くと、蜻蛉が真っ二つに寸断された。
(な……!?
東洋系の……呪術か!?)
八朝の推理は遠からず当たっていた。
式占をベースにした口訣による一撃……だがその程度で対象を両断できるような現象は起こせない。
現代までに途絶えた術式である可能性が高い。
「ッ!
■■!」
一か八かで七殺に纏わりつく認識異常を幻惑で上書きしようとする。
投げた輪が先程のように両断される可能性もある。
だが何もせず受け入れたのである。
『■■■■! ■■■■■! ……ちゃん!』
「七殺か?」
『ふうちゃん!
ようやく聞こえたの!?』
無言で首肯する。
心なしか七殺の殺気が弱まった気がした。
『ねぇ!
私……『カマイタチ』に戻っちゃったよ』
「そうらしいな」
『これじゃあふうちゃんと一緒に居られないよ!』
『だから分かるよね?』
その視線が身動き一つ取れない三刀坂へと注がれる。
彼女の口調からしても、最早なりふり構っていられない状況であることは伝わった。
「それはできない」
『どうして!?』
「三刀坂に会わせたい奴がいる、その為にも彼女には生きてもらわないと困る」
『そんなの関係ないじゃん!
私の『漂流』を使って別の人の身体用意したら……』
「そして俺の亜種を増やすんだな」
八朝が苦々しく吐き捨てる。
『偽物』と『本物』の間で苦しむ八朝の心を知ってか知らずか七殺が返す。
『だからどうしたの?
他の人なんか別にどうでも良くない?』
ああ、やはり彼女は天ヶ井柚月ではない。
正真正銘の十死の諸力・十三席であった。
「そうか、それもそうだな」
『!?
そうだよね! だから三刀坂ちゃんを……』
「お前の本物をゴミのように殺した俺の罪悪感も、もう捨て去ってしまっても良いって事だな」
その瞬間に七殺の殺気が蘇った。
今度はその全てが八朝へと注がれる。
『へぇ……殺したんだ
じゃあこのふうちゃんもふうちゃんじゃないんだね』
一人合点する七殺を冷めた目で見つめる。
『それじゃあここも違うんだ……
早く皆を殺して次の世界に『漂流』しなきゃだめだね!』
「そうはさせない……ここでお前を殺して止める」
後ろには辰之中の岩盤で動けない三刀坂。
最早野望すら打ち砕かれた彼女が最初に狙う相手が、八朝の後ろで彫像のように固まっている。
十数秒……その刹那の間静寂が支配した。
『辛乙辛庚!』
『■■■!』
八朝が刀印で左手をなぞり、小さな黒雷を出現させる。
それを七殺……ではなく三刀坂に放つ。
黒雷の状態異常は麻痺。
傍目から見て何の意味のない行動が初手で繰り出される。
対して七殺の言葉が三刀坂の首を捉える。
断ち切ろうと顕出した『黒線』が……ものすごい勢いでほつれて千切れ飛ぶ。
『!?』
「どうした、その程度か?」
先程の意味のない行動は、七殺の能力を無効化させるのを狙ったものであった。
但し、彼女の使った異能力が『式占』の『雷公式』でなければ全てが水泡に帰していた。
彼女の足元の冠水が血のような赤で滲んでいる。
それはあの時異世界らしき所で見た蚩尤の『楓人』と一致する。
即ち、式占に必要な『楓天棗地』のうち『楓天』を満たしている証拠であった。
「お前の異能力は既に掌握したぞ?」
八朝の不敵な笑みに、七殺が叫びで以て応えた。
毎度お読みいただきありがとうございます
DappleKiln(斑々暖炉)でございます
いきなりバトルが始まってしまいました
最早彼らに和解の道はありません
閉鎖哲学に歪んだ七殺と、決意で塗り潰してしまった主人公
彼らの最後の戦いが始まります
それでは、この後もよろしくお願いします




