Case 24-4
2020年9月22日 完成
2020年10月26日 誤字修正
『ロゴスの大樹』に繋がる隠し通路を丸前に塞がれてしまう。
今、彼との最後の死闘が再び切って落とされる。
【5月19日19時44分 磯始地区・隠し通路?】
「オラオラァ!
どうした亡霊! その程度な訳ねーだろ貴様は!!」
「……ッ!」
斬撃の渦を発生させる初見殺しの技『渦動斬』を連発して八朝を苦しめる。
元々彼の能力は『水を切る』程度でしかなかったのに、空気中の水分も纏めて捩じ切る事で本物の斬撃が出現してしまっている。
そして三刀坂の散弾を初級水属性電子魔術でひらりと躱す。
「もういい……興覚めだ
我が受け継ぎし一撃にて、貴様らの末路を血で飾るとしよう」
丸前が刀を地面に刺し、跪いて祈りを捧げる。
『――第一の御使が、ラッパを吹き鳴らした。
すると、血のまじった雹と火とがあらわれて、地上に降ってきた――』
「……ッ!」
八朝が二重の意味で驚愕で固まる。
それは丸前……もとい十死の諸力の秘奥が『ヨハネの黙示録』より引用されていた事。
そして、八朝達の目の前にあり得ざる真っ黒な超重力天体が出現した。
強すぎる重力と潮汐力によって万物が天体を公転しながら吸い込まれていく。
「きゃあ!」
「■■!」
度重なる攻撃で自身の重量を使い果たした三刀坂が真っ先に飛ばされる。
その手を掴み、帽子の状態異常である鈍足を彼女に与える。
「あ、ありがと!」
「その代わり動作が鈍くなるが……」
「飛ばされないだけマシだよ」
三刀坂が脂汗をかいて丸前を睨む。
比喩抜きで星を壊す一撃を前に、八朝が再び立ち上がる。
「どうすればいい?」
三刀坂が信頼の眼差しを向けて来る。
勿論、手段は決まっていた。
「三刀坂、これから石の中に埋まる覚悟はできてるか?」
「へ!?」
三刀坂に作戦内容を告げる。
彼女への負担が凄まじく大きいものであるが、それを語る八朝にあの『確信に満ちた目』が戻っていた。
「……以上になるが」
「じゃ、それでいきましょ」
「……何回か言ったが、下手したらどっちも死ぬぞ」
「大丈夫!
キミがその顔で言ってくれるんだから、絶対にできる」
当の三刀坂からGOサインが入る。
そして丸前の高笑いが止んで、全員の覚悟が決まる。
「今更何を相談しても無駄だ!」
「そう言ってもう2回も俺らに負けたのは何処のどいつだ?」
「……殺す」
その言葉を合図に全員が行動を開始する。
まず、天体のサイズをさらに大きくし、通路の崩壊速度を更に早めていく。
負けても怨敵諸共死に至らしめる丸前の妄執に対し……
『Ghmkv! Ghmkv! Ghmkv! Ghmkv!』
八朝がありったけの霧を呼び出す。
その哀れな姿を前に丸前が吠える。
「はははははは!
醜い……醜いな亡霊!」
「それはどうかな?」
超重力に引き寄せられた霧が成す術なく砕け散る。
そして、八朝に多重の罰則が襲い掛かる。
(……ッ!
まだ……まだ耐えられる!)
最後の霧が砕け散る。
八朝が膝をつき、何とか気絶せずに耐えきる。
そして、超重力天体が激しい光を放って消え去った。
「な!?」
「……俺の世界で特異点は蒸発すると論理的に示されているんでな」
ブラックホールは真空中の真空たらしめる素粒子と反素粒子を同時に吸い込んでいく。
その反素粒子がブラックホールの重量を対消滅を以て削り取り、やがて完全に消滅させる。
これが世にいうブラックホール蒸発理論である。
そしてこの場で最も科学から遠く離れた存在とは即ち依代……即ち魔力であった。
魔力によってブラックホール天体を対消滅させたのである。
「それがどうした!?
天体を破壊されたところで傷一つない俺に対して貴様らは満身創痍!」
『勝てるはずがない』と吐いて、刀を構え直す。
その体が文字通り硬直した。
「……!?」
三刀坂が端末から辰之中を起動させる。
あの星月夜と冠水の異空間が、単なる青一色の閉鎖空間へと変貌する。
(か、身体が……動かない!?)
丸前が身体に起きた異変に驚愕する。
そして彼は、更に恐ろしい者を目撃する。
(亡霊……貴様は動けるのか!?)
三刀坂も端末を手に持つ不自然な姿勢に対して八朝は一歩踏み出す。
(……あの迷宮で鳴下駅らしき構造物の向こう側は壁だった
渡らずの横断歩道の境界もその壁と一致している……ならば)
(その外側で使った辰之中は篠鶴市ではなく岩盤が呼び出される!)
動けない理由はそれで正解である。
だが、彼だけ動ける理由にはなっていない……それを説明するには『本物』との最後の会話を引用するしかない。
『君の身体は僕の辰之中でのアバターだ』
これが正しければ八朝は辰之中に存在していない。
彼のみ辰之中に召喚された岩盤を無視して、現実の『隠し通路』の中で丸前へと突き進む。
『我と袂を分かつ
汝の径は■■!
死を謳う二十二の呪いなり』
あれほど何度も呼びかけに答えなかった旗がしれっと姿を現す。
八朝が内心で『何らかの条件を満たした』と納得しているが真相は誰にも分からない。
その旗の切っ先が刀とかち合うと、それだけで刀が砕け散る。
旗……もとい大アルカナにて『死神』と呼ばれる状態異常を考えれば当然の帰結である。
三刀坂の元へと戻り、辰之中を解除させる。
「……!?
げほっ……げほっ!」
「大丈夫か!?」
「こ、これくらい……陸上部舐めないでよ」
「ほぼ活動していないに等しいだろ、それ」
「そうかも」
三刀坂が自嘲気味に微笑みかける。
だが、安心しきる彼らに一つの異音が伝わる。
「な……!?
アンタ……罰則を!?」
「貴様にできて……俺に、できぬものは……無い!!!」
史上二人目となる罰則に耐えうる異能力者の誕生に八朝達は凍り付く。
これではもう反撃のしようが無い。
「さぁ立て!
第三ラウンドを始めようや……!」
『そうはさせない』
場違いな声が響く。
八朝が信頼していた友にして、稀代の虐殺者の声がこの場の全員の耳に届く。
「……何をしに来た墓標!」
『決まっている……
我が家族である眷属と、我が妹を助けに来たのだ』
次でCase24が終了します




