Case 24-3
2020年9月21日 完成
墓標が『ロゴスの大樹』なるものを求めている事実にまで行き当たる八朝達。
大樹に繋がるであろう隠れ家からの隠し通路を探し当て、マップを片手に突き進む。
【5月19日19時30分 磯始地区・隠し通路?】
途中まではよくある土がむき出しの朽ちたトンネルであった。
だが、少しずつ地面が湿る度に外壁が幻想的に光り始める。
「これって本当に使われていないトンネルだよね!?」
「……俺にはそう見えない」
何らかのエネルギーが流し込まれているらしき光る紋様、段々と金属造りでモノトーンと青を基調とした幻想的な通路へと変わっていく。
下を向くとまるで星月夜のように瞬く水面があった。
「下見てみろ、これってアレだよな」
「うん、辰之中っぽいよね」
三刀坂が間髪入れずにそう答える。
こんな何者でもない通路と『どうして辰之中は星月夜でどこもかしこも冠水しているのか』という根本的な疑問がリンクする。
「ねぇ、ここって確か墓標が使っているんだよね」
「ああ……その筈なのだが……」
「おかしい……
こんな重要そうな通路を異能部にすら守らせないなんて」
「おい、それはどういう事だ?
異能部と十死の諸力に何が?」
神出来が持ち出した証拠資料を片手に説明を始める。
篠鶴機関に内々定する程のエリート集団である異能部が、実は十死の諸力の下部組織だった、というものである。
「その証拠……三刀坂! 障壁魔術を!」
端末を投げ渡された三刀坂が慌てながらも障壁魔術を使用する。
そして天井が爆発した。
土煙が収まると、通路の先が瓦礫で埋まっていた。
「……これではもう進めない」
「一体何が起きたの!?」
「それは今しがた神出来が言ってたことの答え合わせになるな」
八朝が今来た道を睨む。
微かに靴音と、手を叩く音が聞こえる。
「ほぉ……貴様らが『地下遺跡群』に居るとは驚きだ」
「丸前……」
異能部の部員である丸前巧が、依代を手に退路を防ぐ。
「またお友達が増えたようだな亡霊」
「そこをどけ」
「そういう訳にはいかない!
我らの拠点に入り込んだ鼠共を皆殺しにしろとの大命が下ってな!」
刀を正眼に構え、八朝達にせせら笑いを向ける。
確かに三刀坂を除けば戦闘力は無いに等しく、丸前が有利なのは言うまでもない。
三刀坂と神出来が依代を構える。
「それがお前となれば尚更だ!
数が多ければ多いほどお前は強くなる……僥倖だ、是非とも」
「三人纏めて血の海に沈めェ!」
丸前が詠唱を予めストックした初級水属性電子魔術で超加速して間合いを詰める。
狙われたのは神出来である。
三刀坂が狙いを定め散弾を放ち、八朝が待針を投げる。
「……ッ!」
「避けたか、だが意味はない」
丸前の宣告通り神出来の右腕が胴体から断ち切れる。
明らかに刃の射程外から寸断されているのである。
「あああああああ!」
「神出来ちゃん!?」
八朝も命中寸前の待針が両断され、罰則の苦痛に膝をつく。
二方向から攻撃を受けたのにも拘らず、三刀坂の散弾すら効いていない。
「ありがとうよ! 亡霊!
貴様が捨て台詞で吐いた『水を操る力』……確かに我が糧となった!」
丸前が勝ち誇ったように声を荒げる。
血を払う刀の振りから複雑な螺旋模様が現れる。
血霧になって消えていくものが、ある法則に従って渦を作っている。
(あれは……まさか……)
依代が砕けた神出来が倒れ、絶体絶命に陥った八朝が冷や汗を浮かべる。
「名付けて渦動斬!」
「カルマン……流体力学のか!」
「ほう?
やはりお前は我が主の報告通り『流体力学』なるものを口にしたな!」
これでハッキリした。
丸前を雇ったのは間違いなく弘治である事を。
墓標は本気で八朝達を殺しに来ている。
そして、それをしなければならない程に核心に迫りつつあることを……
「さぁ続きを始めよう
貴様ら二人、纏めて斬り伏せる!!!」
再び瞬動と万物を引き裂く渦の斬撃が八朝達に牙を剝く。
続きます




