Case 23-5
2020年9月19日 完成
2020年9月28日 誤字修正
八朝達は今後の方針を定め、一同墓標の隠れ家へと向かう。
その一方で七殺の何かを知っていた用賀が、彼女の潜むある地域へと向かう。
【5月18日13時50分 辰之中(座標不明)】
「あれ、よく分かったねここ」
「我が父より不審なモノが出入りしていると兼ねてより相談があってな、そしたらこのザマだ」
用賀が七殺の挨拶を嫌味満載で返す。
自分を『モノ』扱いされているのを承知しながら七殺が顔色一つ変えない。
「どしたのそんな突然
7年も使われてないココに居ちゃ悪いの?」
「大いに問題だ
お前のような人外だと特にな」
用賀浩次。
三刀坂夫妻と同じくS・ACTの出身で彼も独自の理論で『化物』の正体を探っていた。
彼がテーマにしていたのは脳科学……特に異能力症候群の治療後遺症として名高い失語症の研究を行っていた。
「酷いよ、こんな美少女を前に人外だなんて」
「とぼけるなよ
一言話すたびに空間が捻じれているぞ」
用賀が指摘する通り、この部屋の構造物が『無音で』真っ二つとなる。
その残骸が部屋中に転がっている。
「我が父は『化物』が使う呻き声から失語症と同じ症状が出ている事実を見出した
奇しくもそれは異能力者が普段から使う固有名と同じ法則の意味がない造語」
「お前、言葉を発しただけで人を輪切りにできるんだな」
ここで漸く七殺が潜めていた殺意を露にする。
そして七殺の顔が嘲笑へと歪み始める。
「へぇー!
それだけで私が化物だってわかっちゃうんだ!」
「生憎それが我が父より受け継がれたモノでな」
「そうだね! でも、君の友達は殺してないよ!
アレは墓標が勝手に溶かしちゃっただけだし……」
「異能部に飼葉の情報をリークしたのも墓標だと言うのか?」
用賀が写真を何枚か投げ渡す。
それは八朝が見れば間違いなく異能部部員だと指摘するある男と『カマイタチ』だった頃の七殺が映っている者であった。
「どうしてこれを……!」
「ここが安全だと思ったお前らの不注意を呪うんだな」
「……ッ!」
七殺が冷や汗を浮かべて用賀を観察する。
やがて、彼が弱いと確信し口角を吊り上げて呟く。
『辛乙辛庚』
一瞬、推命において『白虎』と呼ばれる最も苛烈な『剋』の形が呟かれる。
『死ね』という発音に連なって見えない刃の一撃が用賀の喉元まで迫る。
だがその一撃が突如現れた虹に包み込まれ、妖精へと変身する。
いつの間にか用賀の後ろに直径5メートルの月暈が浮かんでいた。
「へぇ……それが墓標の言ってた人攫い神なんだね」
(やはり筒抜けか)
用賀は内心で歯噛みをする。
何も持たない八朝が墓標と交渉する材料……その答えが七殺の口から紡がれたのである。
「お前が如何に人殺しに長けようとも、我が神の抱擁からは逃れられぬ……Gvaaakd!」
月暈から枝分かれするように何本もの虹がありとあらゆるものを貫いていく。
迎撃しようとして呟いた言葉が妖精に姿を変え、こちらに襲い掛かってくる。
妖精の腹を切り裂く依代の一撃が、甲高い音と共に堰き止められる。
「ふはははは!
怖かろう、怖かろう……お前と同じ化物なのだから罪悪感も一入だ!」
「くっ……!」
あの時、偶々相性が良かった辻守姉弟が一蹴したトリグラフの威容とは即ちこれであった。
虹で貫いたモノの移動だけでなく、それに妖精のガワを被せ意のままに操る謂わば『概念操作』の能力。
掌藤親衛隊が彼を信じて『円卓』を用意させたのも、この攻防一体の御業あってこそである。
「でも貴方はガラ空きね!」
七殺が切っ先を転がし、違った方向から要請を分断粉砕する。
雨のように降り注ぐ虹を躱しながら残骸を壁を天井を蹴って用賀の真上に至る。
『Ymrnmf!』
七殺が薙刀を投げて用賀を刺し貫く。
それと共に月暈が砕け……世界が砕け散った。
「な……!?」
薙刀を引き抜いた七殺が見たのはさらに大きな月暈に睥睨される星月夜。
「お前みたいなクズに正体を晒しながら戦うバカがいるのか?」
「へぇー……一般人風情の癖にやるじゃん」
月暈が太陽のように大量の光線を全方向に放つ。
遠くから凄まじい物量のモノが迫ってくる地響きが伝わって来た。
「じゃあ私も本気出すから……頑張ってね」
七殺が薙刀を真っ二つに折り、交差させるように天空に掲げる。
薙刀と薙刀がかち合う場所から大量の闇が溢れ出す。
『ΚΑΙ Ο ΕΚΤΟΣ ΕΞΕΧΕΕΝ ΤΗΝ ΦΙΑΛΗΝ ΑΥΤΟΥ ΕΠΙ ΤΟΝ ΠΟΤΑΜΟΝ ΤΟΝ ΜΕΓΑΝ ΤΟΝ ΕΥΦΡΑΤΗΝ ΚΑΙ ΕΞΗΡΑΝΘΗ ΤΟ ΥΔΩΡ ΑΥΤΟΥ ΙΝΑ ΕΤΟΙΜΑΣΘΗ Η ΟΔΟΣ ΤΩΝ ΒΑΣΙΛΕΩΝ ΤΩΝ ΑΠΟ ΑΝΑΤΟΛΗΣ ΗΛΙΟΥ』
(これは……まさか黙示録の!?)
失語症の研究者を父に持つ用賀は七殺の吐いた呪詛を特別な電子魔術によって瞬時に翻訳した。
そして彼は十死の諸力の真意に至る。
(何という事だ……
黙示録に描かれた『裁き』と『怒り』に擬えた力を持っているという事なのか……これは……)
用賀の口元が不意に歪む。
(良いカモだ)
そして七殺の最大出力の闇属性電子魔術が放たれる。
無差別に生物・非生物を問わないありとあらゆる意識を滅茶苦茶にシャッフルさせる。
そして龍脈の奔流に耐えきれない石や小枝、残骸が次々と爆発する。
あとに残ったのは星月夜を汚す程の白い降灰に塗れた死の世界であった。
「私の『漂流』の前に敵は無いね」
全てが等しく死の灰となった世界にトンと足を付ける。
その足をいない筈の妖精の手に掴まれる。
「お前生きて……ッ!」
「生憎聖書はこちらの領分でな!」
用賀が固有名を叫ぶ。
忽ちに虹に巻き付かれた七殺が、元の『カマイタチ』へと姿を変えさせられる。
「……ッッッ!!!
お前を殺せば……ッ!!!!!」
「そうとも俺に如何にエリヤとしての復活はあるとはいえもう二度と生き返られない……だが!」
「お前に掛けたそれは脳にまで刻んだ!
よってその姿は永久に……」
七殺の斬撃が幾重にも妖精の身体を切り裂く。
絶叫を上げながら死にゆく命に七殺が嫌悪と恍惚のアンビバレントな感情を抱く。
(……八朝、アドバイスには感謝する。
そして既に死した我が同胞たちよ……)
(復讐はここに成った!)
どれだけ遺骸を切り裂こうとも化物から戻ってくれない。
『クソォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
七殺の咆哮が星月夜の水面を叩き割った。
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使用者:用賀浩明
誕生日:7月20日
固有名 :Gvaakd
制御番号:Nom.13994
種別 :Q・VENTI
STR:1 MGI:3 DEX:3
BRK:1 CON:1 LUK:1
依代 :月暈
能力 :トリグラフ(エリヤ)の逸話再現
後遺症 :閃輝暗点
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■■■■■■■ 23-a 弔い - vengeance
END
これにてCase23、復讐の回を終了いたします
どういう一矢だったのかは皆さんのご想像にお任せします
きっと思慮深い用賀であれば……と言う感じでおkです
次回は弘治君の家に改めて訪問回となります
ええ……タダでは帰しません……そりゃあ敵の懐ですからね
それでは次回も乞うご期待下さい




