Case 23-4
2020年9月18日 完成
救出した神出来から衝撃の真実が伝えられる。
それと共に意識だけの本物と対面し、ついに字山から託された力を手にする
【5月18日14時7分 北篠鶴地区・用賀所有の空ビル】
「気が付いた?」
目を開くと三刀坂の姿が確認できる。
どうやら膝枕されていたらしい……慌てて飛び起きる程体調が万全でないのでゆるりと体を起こす。
「いきなり頭を抱え始めて、何が起きたのよ」
心配してくれる神出来にこれまで起きた事を話す。
それと共に試してみたい事が一つあった。
■■■と唱え、あの字山のように刀印で右腕をなぞる。
指先に小さな赤色黒雷が迸る。
「それって字山君の……」
どうやら本当に使えるようになっているらしい。
恐らくは麻痺の状態異常……■■■という神名が正しければ七殺の弱点を付けるかもしれない。
だがそれは同時に『本物』の魂魄を代償にする一撃であった。
三刀坂達にも話していない秘密に、一瞬だけ苦虫を噛む様な表情を浮かべる。
「へぇ……そんな簡単に八朝さんはパワーアップできるんだね」
「失くしていた力を取り戻しただけだぞ」
「私だってそんな風にパワーアップ出来たら苦労しなかったのに……」
神出来がそっぽを向いて捨て台詞を吐く。
だが、八朝にはその態度が不思議でしょうがなかった。
「……神出来の能力も改善の余地があると思うんだが?」
「へぇーじゃあ聞かせてみてよ!」
掻い摘んで要点だけを話す。
彼女の能力が探索・接続・跳躍の三工程で空間移動を為している事。
そして灰霊の攻撃が結果的に『空間同士を中継する異空間』の生成に成功している事。
そして先程の七殺の発言を加味する。
「『Minomotoboshi』を召喚する……だって……!?」
「ああ、ソイツが敵対的でない限りであるが大きな戦力になると思うぞ」
神出来が鍵を見つめている。
やがて、固有名を叫んで能力を発動させる。
「ちょ……!?」
三刀坂が驚愕して言葉を紡げない。
あの日エリス込みでも瀕死まで追い詰められた悪夢が、扉の奥から姿を現した。
八朝が■■■を呼び出そうとしたが、神出来に制止される。
どころか『Minomotoboshi』に向かって歩み寄っている。
「待て、何が起こるか……」
「心配しなくていいよ、絶対に大丈夫だから」
この手の蛮勇を振るった相手の『絶対』ほど信じられないものはない。
「……Libz」
「待って!!!」
三刀坂の援護すら大喝にて打ち切らせる。
そしてようやく八朝が気付いた……先程から『Minomotoboshi』が一切攻撃行動に出ていない。
固唾を飲んで見守るしかない八朝達のその先で神出来が手を伸ばす。
「……私、何となく気付いてた
私がピンチの時にあなたが手を貸していてくれていたのよね?」
言われてみればそうであった。
海岸で戦ったあの時『Minomotoboshi』は、執拗に八朝達を攻撃していたが神出来には終ぞ何もしていなかった。
「何が目的なのかは分からない
でも私も命を狙われてかなり危ないの」
「だからお願い!
私も何でもするから守って欲しいの!」
『Minomotoboshi』が神出来の身勝手な願いを真摯に聞いていた。
それは比喩ではない……神出来の前で『Minomotoboshi』が跪いて敬意を表したからである。
伸ばした手の中で鍵が姿を変え、手の甲に刺青として巻き付いた。
恐らくそれが『Minomotoboshi』との契約の証かもしれない。
そして幻のように掠れて消えた『Minomotoboshi』を見送って、改めてこちらに向き直る。
「八朝さん、改めて思ったけどマジで凄いよそれ
この騒動が終わったらうちのクラスにも口コミで広めてあげるから」
「あ、ああ……それは助かる」
神出来からの予想外の返しに歯切れ悪く返答する。
あくまで机上の空論でしかなかったソレが形を成して、神出来の異能力のポテンシャルを向上させた。
「まぁでも七殺は『Minomotoboshi』を狙っている訳なんだよね……」
複雑な表情を浮かべる神出来。
即物的なレベルアップではなかったので致し方ない。
「じゃあ改めて……
七殺に墓標、それと先輩たちを無視して去った用賀をどうするの?」
八朝は改めて今直面している問題に向き合う。
七殺については神出鬼没で対処できない。
用賀の表情を考慮すればもう少し彼から何かを聞く必要があったかもしれない。
「まずは神出来についてだが……
しばらくの間は三刀坂と行動を共にしてもらう」
「願ってもないわ! でも……」
不安そうに三刀坂の方を向く。
「うーん……そういえば料理作ってくれる人がいてくれたらいいなって」
「料理作れます
寧ろ大得意です」
グイグイと圧してくる神出来に特に嫌がる様子が無い三刀坂。
取り敢えずこの問題は解決した。
あとは墓標の情報収集である。
だが墓標についてはアテがあった。
「俺は弘治……墓標の隠れ家に行ってみる」
「え……一人で行くの!?」
弘治の隠れ家は『渡れずの横断歩道』の先……即ち旧鳴易トンネル内にある。
その理由を説明すると三刀坂が食い下がって来た。
「私、キミと一緒にあのトンネルの向こう側に行けたのに!?」
「だが神出来が越えられないだろ」
「ん? 普通に越えられるんだけど」
神出来が能力でドアの先を変更し、全員でその向こう側に渡る。
交差点名には『遠海駅前北』……バッチリ『渡れずの横断歩道』の向こう側であった。
「ね、できたでしょ」
唯一の問題である『八朝しか行けない』がここで瓦解する。
という事で、改めて神出来にお願いをする。
「そのなんとかトンネルってのは分からないけど、磯始駅なら行けるからどう?」
「それで十分すぎる、助かる!」
神出来が再びドアの先を磯始駅に変更する。
八朝達は墓標の秘密を暴く為に一歩踏み出した。
次でCase23が終了します




