Case 23-3
2020年9月17日 完成
2020年9月18日 誤字修正
掌藤親衛隊の生き残りである用賀浩明に助けてもらった八朝達。
彼は八朝達を一顧だにせず復讐へと身を投じていった……
【5月18日11時26分 北篠鶴地区・用賀所有の空ビル】
「う……ここは……」
「目が覚めたか」
神出来がようやく目を覚ます。
まだ慣れない八朝の声でしかめ面となるが、親友の姿を見るや三刀坂の元へと飛び込む。
「わっ……! だ、大丈夫?」
「うわぁああああ会いたかったよぉおおおおお!」
神出来が緊張から解かれ、嗚咽を漏らす。
八朝がその場から離れようとするが、三刀坂に止められてしまう。
やがて泣き止むといつもの睨目が八朝に注がれる。
「八朝さん、まだいたんですか?」
「そう言われてもな……」
三刀坂に助けを求めようとしても、彼女は素知らぬ顔と無言を貫いている。
取り付く島もない……だが、聞きたい事はあった。
「話は変わるが、七殺と何があった?」
「それが……」
端的に言うと特に何もない。
登校途中で待ち伏せを食らった挙句、八朝達が来るまで電子魔術で抵抗した。
「八朝さんこそ知っているんじゃないのですか?
天ヶ井さんを七殺呼ばわりとか、確かにちょっと怪しかったですけど……」
八朝も持っている情報を神出来に話す。
彼女の中でも最後のピースが嵌ったらしく、更に難しい顔となった。
「今回は十死の諸力の幹部が2人も動いているのですか……」
「そうらしい」
「それで、先輩のお兄さんが『墓標』だったのですか……」
三刀坂が暗い顔で沈黙を続ける。
親友を1度ならず2度も裏切った罪悪感で沈んだ顔を、その親友から両頬を抓られる。
「い、いひゃい……」
「しっかりしてください先輩!
先輩が無実なの、もう私も知っているんですから!」
三刀坂が涙を流す。
感激なのか痛みで涙目になっているのかもう分からない。
「それと八朝さんにも朗報があります」
「何だ藪から棒に……」
「八朝さんも十死の諸力の幹部でした」
八朝は全身の神経が凍り付くほどの衝撃を受ける。
三刀坂の方を向くと、無言で頷かれる。
「八朝君は私を助けるために十死の諸力の幹部になったの
リーダーの第五席から大層気に入られて第四席の『極夜』なんて呼ばれてた」
「そして、闇属性電子魔術の生みの親でもあるのよ」
二重の衝撃に襲われる。
だが、これで『過去の自分』らしき意識が残留している怪現象の正体に思い当たる。
三刀坂を何とかして異能力の地獄から救い出したいと思うなら……
……まずはその原因となる魂の座、即ち脳を操る闇属性電子魔術を得たはずで
「……ッ!
ぁぁぁああ!」
「八朝君!?」
いつもと比べ物にならない程の頭痛に呻き声を上げる。
それも長くは続かず、やがて意識を失っていった。
……。
…………。
………………。
再び、真っ暗闇の中に意識が沈み込む。
暗闇の中でわずかに明るい靄が集まってやがて人型を取り始める。
『……ようやく会えましたね』
「お前はまさか……!」
『そう
敢えて言うならこの世界での八朝風太……否、十死の諸力・第四席 極夜のアンタレス』
靄がそう自己紹介してくる。
だが、それどころでは無かった。
「すまん、急ぎ聞きたい事がある!」
『僕の身体だね……残念だけど僕も知らないんだ』
「そんな……」
八朝が何かないかと闇の中を探り続ける。
その姿を見つめる極夜が、心なしか悲嘆の雰囲気を纏い始める。
『本当は君には会いたくなかった』
「だとしても俺には必要だ!
俺ではどうにもできない三刀坂を救うために……」
『そうだね、その代償として君の『神隠し症候群』の完治が確定した』
八朝が呆然としたまま『どういうことだ』と呟く。
『篠鶴七不思議の七、自分の似姿に会うと必ず片方が死に至る』
それはいつかの七不思議ツアーで咲良が言いかけた最後の七不思議であった。
「その言い方だとアンタが消える可能性もあるだろ、それとも更に何かあるのか?」
『ご名答
そして君はその篠鶴市の異能力者らしくない事実を何度も体験した筈だ』
遠回しの言い方であるが、八朝にはそれだけで伝わった。
墓標の隠れ家である磯始地区へ行くには、渡れずの横断歩道を越えなくてはならない。
そして八朝は辰之中の外で異能力を使ってもなぜか通報されない。
「俺は、俺の身体はまさか……」
『そう、君の身体は辰之中で使われる僕のアバターなんだよ』
それは流石に予想外であった。
辰之中は閉鎖空間を作成する電子魔術だと聞いていたのに、この説明だと閉鎖空間内に入るための電子魔術であった。
「アバターってどういう事だ?」
『それは明かせない
それを知れば君は殺されてしまう』
「……誰に、と言っても教えないんだな」
極夜が無言で頷く。
更に付け加えるように、本物の意識が戻るとアバターとの意識の同期が回復し、結果として偽物の自分が消滅すると説明される。
『だけど……そうはさせない!』
唐突に極夜が自分の臓物を引き抜き始める。
「何してんだ!?」
慌てて止めようとした八朝が、その傷口の先に何かを見る。
それは鷹狗ヶ島の記憶の果て……いじめを受けていた字山と左海を助ける為に……
溢れ出る雷の力を受け渡す場面。
『そう、これこそが君に返された力
僕が邪魔となって今まで引き出せなかった■■■の力だ』
「だから……その手を止めろ!」
『嫌だ!
君だけなんだ! 涼音の運命に絡まる悪夢を打ち破ったのは……!』
その言い方だと何かが違う。
闇属性電子魔術は極夜が開発したのだと……
『それは半分正解だ
涼音の異能力を解体するために、特に危険な部分を闇属性電子魔術として摘出したんだ』
「なら……」
『そう、だからこれを受け取ってくれないか』
靄の両手に載っているのは4色の雷。
四肢に絡まる穢神の厳霊、間違いなく八朝の鼓動と一致している。
「わかった……だがアンタは死なせない
必ずアンタの身体を見つけ出して三刀坂に引き合わせる!」
八朝は力の限り叫ぶ。
それは裏返すと、エリスとの約束を果たせなかった男の哀れな悲鳴でもあった。
故に……
『そうはいかない!
僕の涼音を奪った責任……その身で味わえ!』
まるで殴りこまれるように雷を受け渡される。
突き飛ばされ、遠くから見た靄の身体から肝臓まで引き摺れ出される。
助かる見込みがないほどの出血を仰ぎ見ながら八朝の意識が再び現世へと戻される。
続きます




