Case 23-1:虹で神隠しを引き起こす能力
2020年9月15日 完成
遡る事半日前。
篠鶴機関による情報工作で初動に失敗した墓標の元にある人物がやってくる。
【5月17日22時30分 旧鳴易トンネル・弘治の隠れ家】
「クソッ!
やはり治安を担うだけあるな、篠鶴機関!」
弘治がいつもの口調を忘れて悪態の限りを吐く。
もとい、彼の名は墓標……異能力テロ組織『十死の諸力』の中枢を担う十四席の一人である。
(やはり彼らにも『ミーム』の概念が伝わっているか……
それだけあの事件の再来を警戒しているのだな)
ミームとはこの世界には存在しないある生物学者が提唱した『実体無き遺伝要素』の事である。
ヒトが模倣によって知識文化を学習するその力を以て、周辺にある特異な習俗を次世代へと伝えていくというものである。
実際、天使の日にて、あるミームが確認された。
異能部部室の存在する篠鶴学園地下一階部分が辰之中で放った筈の電子魔術の空間歪曲が外の世界にも発生した。
死者・行方不明者あわせて106人、特殊部隊の10倍以上の人間が篠鶴地区で被害を受けた。
(当時の我は思いもしなかった……
我が両親の研究テーマであった『ミーム』の影響力がこれほどだったとは……)
この事件には更なる裏が存在する。
それは『天使の水事件』の実行犯であろう当時の異能部と、機関長でなかった頃の金牛との抗争である。
墓標が諸共吹っ飛ばそうとして選んだ電子魔術と金牛が繰り返し用いた空間歪曲系の異能力が共鳴したのである。
結果『篠鶴学園地下一階』は時空歪曲のミームが固定化し、辰之中すらも寄せ付けない孤立した空間となったのである。
(この実証を以て八朝に『伝令の石』を渡し、依代分解を介して人体溶解のミームを定着させる『天使の石』へと至った……だが)
不意に墓標の目に映ったのは亡き家族の笑顔が納められた一枚の写真である。
ここに■■がいなかった事に唇を噛む……そうでなければ彼も抹殺対象である。
そこに闇色の霧が立ちこみ始める。
そんな闇属性電子魔術を使うのは一人しか存在しない。
「七殺か」
「よく分かったね、復讐狂」
今一番会いたくない人物が、軽やかな足音と共に現れる。
墓標のしかめっ面を無視して七殺が話しかけて来る。
「どうやらお困りのようね」
「……」
「かくいう私も困ってるのよね」
「……オピオン計画か?」
七殺が手を叩いて喜ぶ。
やはり近しい人物との会話は余計な手間が省けて楽である。
「一向にふうちゃんの身体が見つからないの、どうしたらいいと思う?」
それを聞いた墓標が一冊のファイルを取り出す。
題字には『カルテ・八朝風太』と書かれている……即ち彼から聞いた異能力者の話の全てである。
七殺がそれを受取ろうとして失敗する。
「……大丈夫よ、私たち手段は違っても目的は同じだから」
「それを聖堂にも言ってくれたな」
七殺と聖堂……即ち三刀坂涼音とは協力関係にあるのは『十死の諸力』内で有名な話であった。
一人の男の身体と魂を分け合う『歪んだ三角関係』として、ではあるのだが……
「もう彼女は十死の諸力じゃないよ、試しに『十四席』を見ると良いよ」
そう言われて墓標が端末を確認する。
言われた通り十四席にある筈の『聖堂』の名が抹消されていた。
「ふうちゃんの『神託』のお陰だね!」
七殺が満面の笑みでそう言い放つ。
対する墓標の方は複雑な顔ををしていた。
(そうか……とうとう救えたのだな……故に惜しい)
余計に殺す理屈が無くなってしまったのである。
思索に耽ろうとした墓標の視界に七殺の顔が躍り出る。
「やっぱり同じだね!
だから助け合える……本物のふーちゃんは異能力者ですらないからね!」
その言葉に驚愕を覚える墓標。
続く七殺の説明を聞いて、漸く得心したかのように口角を歪める。
そして渡されたファイルに目を通した七殺も同じく邪悪な笑みを浮かべ始める。
「じゃあ私は取り巻き二人と神出来ちゃんをミームの生贄にするね!」
「ああ、頼んだぞ
我が同胞よ……」
満足そうに七殺が『漂流』を使ってこの場から消え去った。
だが彼女はまだ知らない。
手段を手にした墓標の抹殺対象に自分らが含まれている事に。
(ああ、頼んだぞ……生贄よ
貴様らはもう既に用済みだ)
「では再び始めよう!
……八苦を以て死ぬがよい、第五席!」
毎度お世話になっています、DappleKiln(斑々暖炉)でございます
復讐がテーマと申しました。
今回(Case23-1)の外伝的なお話の主人公、墓標さんもその一人です
このお話を以て『天使の石』事件が復活蘇生した、という感じになります
(正直前回やった無茶振り設定を回収できて良かったと口が裂けても(ry)
では、引き続きよろしくお願いいたします




