Case 22-5
2020年9月14日 完成
2020年9月15日 細部修正+異能力情報の追加
行方不明になった神出来を追う八朝。
彼女の能力が及ばないとされる異能部部室まで急行する。
【5月18日10時6分 篠鶴学園・異能部部室前】
「ねぇ……縁ちゃんの能力が及ばないってどういうことなの?」
「彼女の能力は端的に言えば『扉』を利用した空間接続だ。
正常空間であれば場所の想起だけで大丈夫だが、例えばこの異能部部室のように『隠された手順』でしか行けない場所だと上手く行かないのだろう」
八朝が兼ねてからの推論を口にする。
エリス風に言えば、カレントディレクトリのパスで空間を探索・接続・跳躍するという感じである。
そうして、余計にここへ来る理由が分からなくなる……
慎重な性格の彼女が異なる世界法則と化しているここに態々やって来て、七殺とむざむざ戦うとは思えない。
「それってこの場所が『辰之中』みたいな事になっているって事なの?」
「ああ、『辰之中』がこの世界とは独立で存在している『閉鎖空間』であるなら確かにそうだ」
実は異能部部室は『辰之中』が唯一発動できない場所である。
何が原因なのかは分からないが、それ故に異能部部室は顕現級が襲来した時の避難場所として計画されていたりする。
「……『漂流』だ」
三刀坂が口にしたのは七殺の闇属性電子魔術の名前である。
確か『漂流』は対象の魂を別の依代……ひいては平行世界の自分等の対象に魂を転写して乗っ取る魔術……
「……あり得るかもしれない」
八朝が異能部部室のドアに手を掛ける。
開いた先には水属性電子魔術で応戦しているであろう神出来の姿があった。
「涼音先輩!?」
「縁ちゃん! 助けに来たよ!」
三刀坂が八朝の制止を無視して神出来に駆け寄る。
……七殺の姿が見えない。
「先輩来ちゃ駄目!」
神出来が伸ばした手の先の床から何かが躍り出る。
中級水属性電子魔術による『潜水透過』の檻から何らかの力で脱した七殺の姿である。
『Ymrnmf』
『Isfjt!』
三刀坂が激しいリコイルに見舞われて銃撃姿勢を大きく崩し後ろへと吹き飛ばされる。
八朝から聞いていた七殺の遠距離攻撃偏重の癖……彼女に襲い掛かる幾重の斬撃に対し散弾による面制圧を仕掛ける。
七殺の斬撃が散弾と直撃し、激しい重量増加によって地面に叩き落される。
さらに七殺にも一発命中し、彼女の敏捷性を削ぐことに成功する。
『■■!』
七殺が踏むと想定していた場所に1メートル大の待針を生やす。
最初こそ七殺が状態異常で身動きが取れなくなっていたが、やがて彼女の姿が掻き消えた後その真上から軽やかに着地してくる。
「ふうちゃん! 待ってたよ!」
「……ああ、こっちも聞きたいことが沢山あるんだ」
舞い上がる土煙の先で、七殺が柚月と同じ屈託のない笑みで両手を広げる。
恐らく今の彼女に戦意は存在しないが、三刀坂と神出来が警戒し続ける。
「オピオン計画とは何だ?」
「オピオン計画はね……ふうちゃんの魂の移植先を検索するものだよ!」
「でももう終わっちゃったけどね」
それは即ち八朝の魂の移植先を見つけ出したという事である。
「まさかそこの女狐さんが能力で丁寧に隠しているだなんて思わなかったなぁ!?」
七殺が再び斬撃による銃撃を敢行する。
警戒の甲斐があり三刀坂の障壁魔術が間に合い、軌道を反らせる事に成功する。
「一体何の事よ!」
「とぼけないで!
あなたの能力……『祇園宮』に隠している武塔天神の八将神こそがふーちゃんの『八雷神』の器に相応しいのに!」
七殺が意味不明な事を口走る。
だが、彼女が神出来を付け狙う理由が、最悪な方で確定する……
「『Minomotoboshi』の事か?」
「そう! すごいすごい!
流石イザナミを殺したふーちゃんだけあるね!」
「……身に覚えが無いな」
「大丈夫……私の『漂流』があれば全ての記憶を取り戻せるよ」
「『カマイタチ』のようになるのは願い下げだな」
八朝の冗談に七殺が顔を歪ませる。
「そこまで知ってたんだね」
「どうしてあんなことをした?」
「……」
七殺が再び八朝とは全く違う方向に向かって遠距離斬撃を放つ。
輪の幻惑を無視して声のする方向……即ち潜んでいる八朝を断ち切らんと斬撃の嵐が襲い掛かる。
「させない!」
三刀坂が散弾を放ち、斬撃の嵐を地べたに這いつくばらせると土埃が舞い上がる。
だがこの一撃で彼女の能力も限界を迎えた。
「あはっ!
貴方もふーちゃんの『神託』を受けたみたいだけど、そんな風船みたいな状況じゃもう無理ね!」
三刀坂は全ての重量を使い切って天井に貼り付く。
無重力下の宇宙飛行士が不意の力でカオス回転してしまうように姿勢制御が不可能となる。
『■■』
八朝が鈍足の状態異常で三刀坂のきりもみ回転を軽減させる。
だが、これ以上七殺に有効打を与えることが出来ない。
「それじゃあトドメいくよ!
……丙け」
この部室に必要以上に立ち込める埃っぽさにようやく合点がいったがもう遅い。
埃に混じってきらきらと光る七殺の斬撃の破片が三日月……いや、金環蝕のような形となり、それこそまるで風船のように急激に膨張する。
斬撃による蝕が異能部部室の調度品を悉く微塵切りにしていく……
群れを成す繊月の向こう側で八朝・三刀坂・神出来が全員救出という敵わぬ願いに手を伸ばす。
その姿が突如として掻き消えた。
「!?
この虹は……クソッ!」
七殺が珍しく力の限り悪態をついた。
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使用者:三刀坂涼音
誕生日:10月28日
固有名 :Isfjt
制御番号:Nom.158408
種別 :Q・TERRA
STR:3 MGI:1 DEX:1
BRK:3 CON:2 LUK:0
依代 :銃剣
能力 :『重量』の物質化
後遺症 :失明発作
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■■■■■■■ 22-a 休息 - Sabbath
END
これにてCase22、七殺再びの回を終了します
(まだまだ続きますなんて言ってスマンかった……これもプロット外なんだ)
七殺が色々と何かを言っていますが、要するに……
『探すの面倒臭いから自動化して……見つかった! この属性なら拒絶反応も起きない!』
という感じだと思ってください
さて次回のテーマは『復讐』です
この騒動で仲間の大半を失ったのは何も主人公だけではないです
その彼による七殺への復讐、という感じとなります
それでは次回も乞うご期待ください




