Case 22-4
2020年9月13日 完成
いつも通りの日常が、昨日の悪夢たる『血だまり』の出現により終わりを迎える。
十死の諸力から狙われているであろう神出来を追う。
【5月18日9時53分 篠鶴学園・高等部校舎内】
「神出来ちゃん?
そういえばさっきから見かけないなぁ……」
神出来のクラスメートから朝の会の時間帯に行方不明になった事を知る。
登校前から見ていないという最悪の事態を回避して安堵のため息を漏らす八朝と三刀坂。
「あの……神出来ちゃんに何かあったのですか?」
「……それは言えない」
「そうですか……■■ちゃん達の事もあるし」
「神出来と■■は親しかったのか?」
八朝が憔悴しながらそう聞くと、彼女は無言で頷いた。
今までは三刀坂繋がりのみでしかなかったものが、確かの証拠となって現れる。
「あの……やっぱり私……!」
「大丈夫だ、ここは第二異能部に任せてくれ」
八朝がそう言って、ふと端末を手に持ってしまう。
エリスがいない、これ以上に心許ない事は無い……だが
「これは……」
電源を入れた端末内に聞き慣れてはいるが見慣れない文字列が並んでいる。
試しに三刀坂に渡して文字列をタップすると、あの分析魔術と同じ光が走り始める。
エリスが今まで作っていた妖精魔術を残してくれていたのだ。
「……必ず見つけ出す」
今度は自信満々に言い放ち、同級生の下から走り去る。
だが、一つ問題があった。
「ねぇ、これ一向に表示されないんだけど……」
「エリスが処理を肩代わりしてくれた分遅くなってるんだ」
一刻を争う事態にそんな余裕はない。
別の策を考えようとして走りながら思索にふける。
そんな所で前を走っていた教師と正面衝突する。
「コラー!
校内で走るなと……」
「すみません」
「落ちたの拾います」
三刀坂が散らばったプリントを集めていく。
奇しくもそれは八朝と三刀坂……ひいては十死の諸力の無実を証明する資料そのものであった。
「キミ……もしかして八朝風太かね?」
「ああ、そうだが……」
「よかった……この資料は関係者以外の生徒には見せられないんでな……助かったよ」
「まさか十死の諸力が無害とは口が裂けても言えんしな」
「そうなんだよ全く……あの神出来にはしてやられたよ」
ふと、奇妙な反応を見せた教師。
それに気づいたのか教師はこれ以上何も話そうとしない。
(ねぇ……これ見て)
三刀坂から促されて見た資料には『学園内通者』という題字が躍っていた。
あの『異能部』は予想通りではあるが、それ以外に教師の名前がずらりと並んでいる。
そもそもこの資料は……
「これ、一体どうやって持ち出したんですか?」
「え?
そんなのコピー機でちょちょいと……」
「え、ちょっと待って……コピー機って何?」
「そんなの知らないんだけど」
そう、ここは情報技術が1、2歩も遅れている世界である。
今までのプリントを見る限り、鉄筆を用いた版画である事は言うまでもない。
そもそもこの資料群のテープ跡を見る限り、原本が持ち出されている。
「……」
教師の様子が豹変する。
端末を持ち出して、こちらに向けて来る。
「動いたら電子魔術乱舞を放つ」
「……校則違反じゃねーのか?」
「理由は何とでも捏造できる……このようにな!」
教師が火の電子魔術を放つ。
神出来が集めた証拠を諸共焼却する目論見である。
「させない!」
三刀坂がエリスの忘れ形見から障壁魔術を発動させる。
だが、上手く制御できないらしく教師側に障壁魔術を掛けてしまう。
「馬鹿め!
使い慣れない電子魔術を使うからそうなるのじゃ!」
教師が火の壁の電子魔術をさらに広げようとする。
だが……障壁が延焼を防ぎ火の壁を限定的なものに留め続ける。
「八朝君!」
「ああ……この距離なら生やせる」
八朝が待針を教師の足元に生やし、釘付けにする。
やがて教師が悲鳴を上げ始める。
「た……助げでぇ!
い˝……息が……あぁ˝!」
燃焼による酸素消費と呼吸器の熱傷により教師がもがき苦しもうとするも待針の状態異常で身動き一つとれない
。
「七殺の居場所が条件だ」
「わ˝わがっだがら早ぐ早ぐばやぐぅううう!」
「駄目だ、そちらから先に教えろ」
「異能部部室だ!
あぞごなら˝神出来の能力が及ばないぃぃ!」
それを聞いた八朝達は脇目も振らずに走り始める。
やがて酸素を消費し尽くした火属性電子魔術が霞のように消え去り、三刀坂が離れた事で障壁魔術も自壊した。
まだまだ続きます




