Case 22-2
2020年9月11日 完成
迷いの霧を突破して篠鶴市へと戻る八朝達。
彼らを待ち受けていたのは、またしても暴動……だが
【5月17日19時00分 太陽喫茶・共用リビング】
結論から言うと、そこまで急ぐ必要は無かったらしい。
あの暴動は十死の諸力の幹部を名乗る何者かが自作自演で起こしていたものであった。
しかも八朝達が着いた頃には篠鶴機関によって鎮圧されていた。
寧ろ限定的な暴動範囲内に現れた八朝達を心配して神出来が駆けつけて来たぐらいである。
その後十死の諸力の真実を得た神出来と三刀坂の仲は秒で修復された。
彼らの邪魔をしまいと八朝は能力で身を隠しながら帰路に就いた。
「ただいま」
努めていつもと同じように振舞う。
だが、周りがそうもいかなかった。
物凄いタックルを受けてそのまま倒されてしまう。
頭痛から復帰した視界の中で、咲良の泣き笑いを見てしまう。
「おかえり」
「ようやく戻ったか
それとお前、後で話がある」
マスターが静かにキレていた。
慌てて咲良を引っぺがし、靴を脱いで家の中に入る。
「だが、まずは夕飯だな」
奥の方から柔らかな歓声が上がっている。
マスターの奥さんが、腕を振るってくれているらしい。
取り敢えず何もするなと言われ、咲良と共に食卓でまったりする。
「でさーそれで……」
「俺のいない間に……」
「うんうん、それで……」
「ゆーちゃんが行方不明になっちゃったけど、何か知ってる?」
途端に八朝の顔が凍り付く。
あの生温かい肉が潰れる感触を思い出す……彼は……
「すまない
あの一件以降会ってない」
「うん、わたしも疑ってるわけじゃないから」
「でも心配なの」
「ああ……あれからなら6日ぐらいは見かけてないのか」
「うん……」
心なしか沈んだ表情の咲良。
先程の泣き笑いといい、彼女も弟と妹みたいな二人を同時に失って限界に近かったのだろう。
そこに暖かな食事が持ち込まれる。
「何だお前ら?」
「……ううん、ちょっと疲れただけだから」
「ならいい
お前さんら一週間近く動き過ぎだ、少しはメシでも食って落ち着け」
マスターと共に満面の笑みの奥さんまでやってくる。
食器の用意を手伝っている最中にさらに一人帰ってくる。
「ただいまー……っと八朝帰って来たのか!」
「……ついさっきな」
「だから今日の晩飯豪華なのか……サンキュー!」
飯綱が陽気にこちらに話しかけてくる。
良く見ると服のいたるところが汗で汚れており、彼の必死さが伝わってくる。
「お前さんは後だ、先にシャワーを浴びてこい」
「何だよ、今ハラの方が減ってんだよ頼むよ」
「駄目だ、母さんが悲しむぞ」
マスターの奥さんが心配そうな顔で飯綱を見ている。
流石の飯綱もお手上げであったらしく、大人しくシャワー室へと退散していった。
飯綱が戻って来るのを待って晩御飯を食べ始める。
久々の懐かしい味に、それだけでお腹いっぱいになるぐらいの充足感を得る。
「そいえばさ、エリスちゃんどうしたの?」
再び八朝の表情が固まる。
今度こそ誤魔化しが利かなそうな予感で一杯になる。
「さっきから一切話してないから、何かあったのかなーって」
「……実はエリスも行方不明なんだ」
それでも嘘を選び取る。
この場の空気を汚したくない八朝の精いっぱいの努力であった。
「じゃあ俺っちも探してやんよ」
「……いいのか?
柚月がまだ見つかっても無いのに……」
「エリスちゃんも家族だからね、当たり前」
二人の善意が心に突き刺さる。
感動ではなく、自業自得の罪悪感として八朝の心を苛む。
「お前ら食事中は静かにしな」
マスターからの助け舟が入る。
何も話していないのに、いつでもマスターは超能力者のように心の機微を察するのである。
「ま、今日ぐらいはゆっくりさせてやれ」
「はーい」
咲良が口をとがらせて抗議する。
だが、八朝にとってもこれ以上が限界であった。
食事を一足先に終えた八朝は、努めていつも通りに後片付けをして自分の部屋へと戻っていった。
続きます




