Case 02-5
2020年7月13日 Case 02より分割完了
2021年3月11日 ノベルアップ+版と2回目の内容同期
2021年3月29日 誤字修正
2021年4月18日 内容修正
予想通り非能力者の斎崎の圧勝であった。
だが、最後に起きた端末の不具合は何だったのだろうか……
【同日13時20分 篠鶴学園・高等部運動場】
「う……ここは……」
「運動場だ、一つ聞きたいことがある」
八朝は勢いよく起き上がろうとする箱家を制止して、真剣な表情を向ける。
「論理爆弾とやらを仕掛けたのはお前だな?」
「……そうですか、じゃあアイツのRAT盛大にぶっ壊れたんだね! いい気味だ! あっはははははははは!」
そうして、己の手口を自慢するように語った。
曰く、八朝の配布資料に混ざって斎崎のRATに混入させ
処理落ちから回復することをトリガーに起爆するよう設定していたのだという。
自分があっけなく敗れる事を見越した、実に見事な作戦であった。
「いや、まさか勝つとは思わなかった
良いものを見させてもらった、感謝する」
「いえいえ、あなたのアドバイスが無ければ
『電子制御機器があるのにアセンブリすら見当たらない』って事に気づけず本当に敗北していたところでした」
頭を下げて感謝してくれる箱家に、こちらも頭が下がる思いであった。
(まぁ、そのお陰で俺も思い出せたしな)
今回得たのは朝の『記憶遡行』の続き。
即ち八朝の異能力の再誕の瞬間である。
迷宮のように『状態異常の霧』だけでは心許なかったが
これのお陰でこの世界で生きていく確証を得ることが出来た。
「それにしても、あなたの能力も凄いですよ
まさか僕の異能力を模倣してしまうなんて」
箱家の視線が、八朝の持っている『自分のと瓜二つの依代』に注がれる。
今回の異能力模倣も成功という形で収めたものの、その時に見えたイメージは八朝にとって全く身に覚えが無かった。
この世界には存在しない高性能ノートPCの画面に打ち込まれた文字列。
『UPDATE FOORED SET DISTINCT = "†" WHERE ID = 65531;』
八朝がSQLを知っていればこの文も箱家の言った『相違点』も分かったのかもしれない。
但し"†"の意味する所は知っていた。
「いや、この形だと能力までは再現できなかった。
だが『ある人』の助言でこっちに変更した場合……」
†の形から//に変更し、消石灰のラインに向かって投げつける。
すると運動場から白線が消滅した。
「ああー……そういえばそうですよね
言語毎にやり方が違うとはいえ『ダガー』でやるなんて聞いたことが無いですよ」
「そうらしいな」
箱家の能力については未だに謎が多い。
それでも、確定したことは話す……それが八朝の仕事であった。
「それと『鷹狗ヶ島』についてですか?」
「そうだ」
「残念ですが、僕はそんな島聞いた事がありません」
鹿室と同じ返しに思わず自分の記憶を疑ってしまいそうになる。
そんな感情は、目の前に飛び込んできた報酬金に吹き飛ばされる。
「本当にこの2つで十分なのですか?」
「塵も積もれば何とやら、これだけでも十分だ」
「僕にはそう思いませんけどね」
それを別れの挨拶に箱家と別れる。
だがこの話には続きがあった。
「八朝さん!
これどういう事ですか!? 掌藤さんがあの野郎の首根っこを掴んで世にも恐ろしい言葉で脅していたんですが……『テメーみたいな死体蹴りF〇〇〇'IN野郎なんぞこちらから願い下げじゃ! くたばれ短〇!』って……」
「……残念ながら、それが掌藤の地だ」
【4月20日(月)・昼休み(12:40) 篠鶴学園・高等部校舎】
「お久しぶり!
八朝ちゃーん!」
「のわっ!?」
死角から現れた掌藤の抱擁から、間一髪で回避する。
するといつものドスの聞いた声音に変わる。
「あ? つれねぇじゃねぇかふうちゃん?」
「死活問題なんでな」
「まぁそれはそうと、今は気分がいい。お前とデートしたいぐらいになぁ!?」
「……冗談だよな?」
普通とはかなり違う八朝をデートに誘うとか、裏があるのを疑うレベルで不自然であった。
逃げようとする八朝の肩を抱いて、耳元で囁きかける。
「お前、アタシをダシにしてぎょーさん儲けたじゃねーか?
アタシの薫陶が活きてる証拠じゃねーかよ、しかも派手に山分けなんて胸が弾むに決まってんだろ、な?」
これには訳があった。
あの時、八朝は演習風景の録画ではなく
掌藤との通話に切り替えて恋人の悪行をリークさせ、箱家との賭けに勝利した。
なお、テレビ通話を用いたので録画自体は出来ている。
その辺りの手際は流石魔術師と言わんばかりのものであった。
因みに、この謀略の終着点は掌藤からの謝礼であったが
幻滅した箱家から返金+αを受けたのである。
失恋のショックから罵声塗れに絶交宣言を投げつけられたことについては意味不明過ぎて語る事が出来ない。
「いつでもテメェを親衛隊送りにできるからな? 分かるよな? あ?」
「……御冗談を」
途端に普段なら使わない敬語がつるっと出てしまう八朝であった。
然もありなん、八朝に今の生活のノウハウを伝授したのは彼女であり、命の恩人とも言うべき相手でもあった。
しかも……
『ふ……ふふふうちゃんには指一本触れさせないから!』
「はいはい、ご苦労さん
実際に手を下すのはアタシじゃねーけど、我が子がこーんなに成長しちゃって、本当にうれしい限りだぜ」
掌藤には妖精を作成する能力であった。
エリスがあの時RATに幽閉された瞬間その魂が砕け散らなかったのは
行方不明となっていた彼女の妹の最初の妖精の体が緩衝材となってエリスを守ったからである。
つまり、誰一人として対抗手段を持つことのできない天敵が、こうして肩を押さえつけて放してくれないのである。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
空いた方の手を上げて猫なで声でそう宣言し
八朝と共に校舎を去っていった。
なお、デート終了後、八朝は親衛隊にタコ殴りにされた。
次でCase2が終了します




