Case 21-5
2020年9月9日 完成
八朝も三刀坂も帰るべき理由を見つける。
支度もそのままにセーフハウスから出ようとする。
【5月17日16時33分 異世界?・間割の家】
「ああ、ちょっとその前に渡したいものがあるんだ」
「ん、なにー?」
八朝がそう言って三刀坂を制止させる。
更に謎の固有名を唱えると、銃剣型の依代を出現させる。
「これって?」
「ああ、三刀坂の異能力を編集したものだ」
端的に言うと依代に八朝の小径を混ぜ合わせたものである。
あの時部長に渡した方位磁針槍のような似た概念の複合強化ではなく、全く違う小径による属性改変である。
本来ならば八朝の異能力に属性改変の状態異常は存在せず、外部のアイテムを必要とした。
だが、この6日間で気付かされた『異物』を自在に操れるようになって能力編集が可能となった。
即ち、あの時鍵宮の言っていた字山の力の一端である。
「属性を闇属性から本来の地属性に強制変更している。
それに伴って使い勝手も変わってしまった上に闇属性電子魔術すら……」
それ以上言おうとして肩を掴まれる。
予想以上の必死な表情に八朝が思わずたじろぐ。
「……」
「何だ、もう一回」
「本当に闇属性電子魔術を消せるの……?」
言葉の真意は分からなかった。
だが、何度の検証から自信を以て断言する。
「ああ、それはもう『強制的に』ではあるんだがな」
「……わかった、今すぐやって!」
三刀坂に気圧されて手順を説明する。
手を握り、八朝の詠唱に続けて先程の謎の固有名を発音する。
『Isfjt』
三刀坂は固有名の発音と共に、何かが変わり果てる感覚を受けた。
それまでは大量の水と手とそれに押さえつけられ死ぬまで鬱屈し続けるイメージが、深山の小屋にて狼を撃退するある少女のイメージへとすり替わる。
「……青銅の騎士では余りにも無惨なんでな、それごと作り替えた」
何となく能力の発動の感覚まで掴む。
刑罰の坎水と糾弾の手による重圧ではなく、それによって苦しめられた自分の思いを『石』に変えて、相手の胃の中に詰め込むイメージへと……
その感覚そのままにもう一度固有名を唱える。
その能力の最初の犠牲者となった八朝が内臓由来の重圧で膝を屈する。
「え、ちょ……大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫、この様子だとうまく機能しているみたいだ」
倒れ落ちた際に握り拳と接触した床に罅割れが生じている。
間違いなく相手の重量増加に成功している。
「……」
『この者に十四の咎有り
呵責なく地獄の業火へとくべよ』
何も起きない。
今度こそ三刀坂が感極まって涙を流し始める。
「おい、一体どうした!?
さっきから情緒が……」
「……ううん、何でもないや」
泣き笑いの笑みを浮かべている。
取り敢えず満足はしているように見えたので、それで八朝は追及の手を止める。
「……と、本当に急ぎ過ぎたな
情報が足りない、ちょっとテレビを観させてくれ」
「えー!
折角いい雰囲気だったのにー!」
三刀坂のブーイングを無視してテレビの電源を付ける。
ワイドショーのチャンネルに合わせた途端、見知らぬ映像へと切り替わる。
『ごきげんよう、約40万人いる篠鶴市の同胞たちよ』
その顔と声に八朝は聞き覚えがあった。
『弘治』がテレビに出ているのである。
(あれだけ情報漏洩対策を取っている弘治が何故……?)
だがそれ以上に激烈な反応を見せたのは三刀坂であった。
リビングのドアを開くなり恐怖に引き攣った顔でテレビ画面を凝視している。
「……で……いちゃんが……」
「どうした三刀坂!?」
三刀坂がこんな反応を見せるのは雑踏と十死の諸力関係である。
そして、あの過去話が本当であれば……
「まさかと思うが……アイツの名前三刀坂弘治じゃないのか?」
「!?
どうしてそれを……!」
「アイツは俺がいつも言っていた『情報提供者』だ。
取り決めで名前は明かせなかったが、その反応で予感した」
三刀坂がそれを聞き、訥々と『弘治』の正体を口にする。
「あの人の名前は三刀坂弘治
私のお兄ちゃんで、十死の諸力の第十席……墓標のメトセラ」
「待て……十死の諸力はさそり座の恒星の名前を付けている筈では……」
そう言いかけて、ふと気づく。
トレミー48星座の時代でメトセラが存在するてんびん座は『蠍の爪座』と呼ばれていた。
てんびん座も『さそり座』の構成員として認識されていたのである。
『今日この日、電波を借り受けたのは言うまでもない……我が罪を懺悔するためだ』
大仰に、不遜な口調が彼本人であると認識させる。
『先週、巷を騒がせた連続殺人事件であるが、犯人は我だ』
八朝まで絶句する。
いくら重症厨二病の弘治とはいえ、そこまで倫理観が狂っているとは認めがたい。
『我が来る『天使の石』の実証の為に手に掛けた』
「……あんげるす、りしおん?」
呆然と呟く三刀坂。
その言葉は八朝から何度か聞いていた謎の便利アイテムの名前と酷似していた。
だが、電波ジャックの映像に付けられた字幕と字が違う。
『犠牲になった者へ祈りを
そして、祈りを無駄にせずここに我が宣言する』
『天使の水、天使の日に続く第三の破滅を!』
言葉に聞き覚えの無い八朝とは違い、三刀坂は顔を真っ青にする。
そして弘治がそのテンションのまま『"然り、全能者である神、主よ。あなたの裁きは真実で正しい"』と呟く。
「天使の水……?」
「……数年前の篠鶴市で起きた2つの連続変死事件、通称『天使の水』『天使の日』」
曰く、位階の上がる水だと称して異能力者を毒殺したのが天使の水。
そしてその事件を追及する篠鶴機関の対策班を全滅させた広範囲電子魔術と、その余波による大量変死が天使の日。
『我等の科学を愚弄した忌々しい異能力者共よ……
一人ずつ丁寧に最大級の苦痛を与え、この世を呪いながら朽ち果てるといい……』
『さぁ……第二射の続きを始めよう』
放送が途切れ、特別番組にへとテレビが移行する。
二人して恐ろしい予感にせかされるようにセーフハウスから発っていった。
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使用者:三刀坂弘治
誕生日:7月10日
固有名 :Nzyuk
制御番号:Nom.140283
種別 :O・UMBRA
STR:1 MGI:5 DEX:5
BRK:5 CON:2 LUK:4
依代 :蜻蛉
能力 :『盗難』『盗聴』etc...
後遺症 :不明
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■■■■■■■ 21-a 墓標 - Methuselah
END
これにてCase21、Aルートラスボス登場回を終了いたします
何となく気付いている方もいるかもしれません
あるBADENDにて思いっきりネタバレしているのもそうでしたが
主人公君に匹敵する不確定要素がありましたから、彼
次回は久々に七殺が登場します
言わずもがな……『彼女』が絶体絶命の危機に陥ります
それでは乞うご期待ください




