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Case 21-4

2020年9月8日 完成



 三刀坂(みとさか)と一時的に同じ家で過ごして何日か経過した。

 その間も絶えず幻聴が続いた。




【5月17日16時20分 異世界?・間割(まわり)の家】




『……ちゃん』


『ふうちゃん……』


・・・・・・・・・(どうして約束守って)・・・・・・(くれないの?)


 昼寝から飛び起きて周囲を見渡す八朝(やとも)

 またあの幻覚だと頭を抱える。


(でも助けられなかったのは事実だ……)


 まるで刑罰のように、静かになる度にどこからか聞こえてくる。

 これが責める内容で良かったとすら思う。


 もしも八朝(やとも)に憐れみを掛ける内容であれば、即座に崩れ落ちただろうと自覚する。


(……テレビを付けるか)


 いつの間にか消されていたテレビのスイッチを入れる。

 ワイドショーで自分の名前が呼ばれる度に暗澹とした思いに囚われる。


『それでは指名手配犯の八朝風太(やともふうた)に住居を提供していた天ヶ井政信(あまがいまさのぶ)さんに中継を繋いでいます』


 自分が悪しく思われるのはもう慣れた。

 だが、自分を介して知人たちが面白可笑しく槍玉にあげられる様子はとても耐えられるものではない。


『……そうですか、彼が犯罪を決行する程に追い詰められていた様子は分かりました。

 ありがとうございます』


『では最後に彼に言いたい事をお願いします』

『まぁ、早く帰ってこい。

 それだけだ』

『彼の自首を願う親心でした』


 それこそ、これだけで再犯防止が可能なレベルの私刑(リンチ)であった。

 チャンネルに手を掛けた時、異変が起きたのである。


『おい

 お前人が黙っていれば好き勝手に言ってくれるなぁ?』

『え、ちょ……!』

八朝(やとも)、聞いているなら早く帰ってこい。

 母さんがお前に晩御飯が作れないって毎晩愚痴を漏らしてる、面倒だから早くウチに戻ってこい』


 マスターの乱心に合わせて咲良(さくら)まで画面内に割り込んでくる。


『だねー

 自首とかいみわかんないし、匿う為に部屋のこしてるからねー』

『な……大量殺人鬼ですよ!?』

『お前らの中では、だろうよ』


 騒然としたスタジオ内でMCが毅然とした表情で口を開く。


『その言葉そっくりそのままお返しいたします』

『そうかそうか

 やれるもんならやってみな?』


 更に画面内に現れたのは飯綱(いづな)

 スタジオ内に留まらず報道センター内まで及ぶどよめきまで聞こえだした。


『……後門(ボイド)さん、職権乱用に問われますよ?』

『ああ構わんよ、元から辞める予定だったしな』


 飯綱(いづな)の異能力で周囲が徐々に氷に蝕まれていく。

 ここまで来ると最早彼も刑事責任を問われるレベルである。


『かえれー!』


 咲良(さくら)の間延びした声と共に、逃げ惑うリポーターによって映像が乱れる。

 しばらく放送事故扱いとなって静止画が流され続けた。


「……」


 気持ちは痛いほど嬉しかった。

 だがこの瞬間に彼らも民衆の敵となってしまった。


 無力な自分が助けに行く、なんて思いもしない。

 そんな背中を遠慮なしに叩かれる。


「……三刀坂(みとさか)?」

「さっさと行ってこい

 待ってる人、いるじゃん」


 その言葉が三刀坂(みとさか)にとってどれほどのものか完璧に想像することはできない。

 だから、八朝(やとも)も反論を行う事にした。


「それは三刀坂(みとさか)もだよな」

「え……私は多分戻る所ないし」

「あるぞ、神出来(かんでら)がお前を待っているぞ」


 三刀坂(みとさか)が吃驚したまま固まる。


「でも……だって……」

「ああ、本当に鈍感な奴だな」

「それキミに言われたくないんだけど」


 身に覚えが無いので無視する。

 何しろ八朝(やとも)よりも致命的に鈍感な彼女を今すぐにでも説得する必要がある。


「それにあの時『絶対認めない』って……」

「認めないってのは三刀坂(みとさか)がテロリストだって事だ

 俺が三刀坂(みとさか)の事情を知るためには字山(あざやま)が必要だったのは認める」


「だが、神出来(かんでら)は親友だろ?

 今頃三刀坂(みとさか)の無実の証拠を追って東奔西走しているだろうさ」


 もう二度と触りたくなかったエリスの亡骸(RAT)の画面を見せる。

 SMSの中で神出来(かんでら)と思しき相手とのチャット内容が表示されている。


 そこには神出来(かんでら)の努力の跡が残されていた。


 それを見た後も躊躇して、終いには涙を湛え始める。

 『でもどうやって説明したら』と項垂れる彼女の肩を掴む。


「起きた事は覆せない、それは無駄と分かっても説明するしかない。

 だが、ここで逃げてしまえばお前の為に頑張っているだろう神出来(かんでら)すら裏切ることになるぞ」


 ここで漸く決意したのか三刀坂(みとさか)の表情が変わる。

 それと共にちょいちょいと手招きしてくるので、応じて彼女に近づく。


 ふと柔らかい感触が伝った。


「な……!?」

「うーん……最初からこうした方が良かったのかなって」


 絶句する八朝(やとも)の口を人差し指で押さえて更に付け加える。


「これで幻聴も無くなったでしょ?」


 ふと、気付く。

 三刀坂(みとさか)の指摘通り、テレビの消えた絶対静寂の中で何も聞こえてこない。


「お母さん直伝だよ

 こうすればどんな不安も一発で消えてくれるって」

「……そうか、確かに物凄く効いた」


 漸く学園に居た時と同じ様なノリに戻る。

 時が解決しない悲劇(憎悪)もある、と息巻いていた自分が途端に恥ずかしくなる。


「さて、とっとと戻るとするか」

「あれー?

 今頃になって恥ずかしくなったの?」

「いいからさっさと急ぐぞ」


 三刀坂(みとさか)が明るく返事する。

 靴を履いて、ドアを閉める。


 その合間に微かで優しい何かが聞こえた気がした。




『……ちゃん』


・・・・・・・・・(必ずみーちゃんを守)・・・・・・(ってあげてね)

次でCase21が終了します

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