表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/582

Case 21-3

2020年9月7日 完成


 エリスが死んだ。

 更に退魔師も消滅し、残された家の中で呆然と過ごす。




【同日18時40分 異世界?・間割(まわり)の家 リビング】




『次のニュースです

 今日正午過ぎに■■地区にて箱家一真(はこいえかずま)さんの遺体が発見され……』


 何故か存在していたテレビを付けて、なるべく無音を避ける。

 いなくなった筈のエリスの幻聴が聞こえだす程の憔悴っぷりに対するなけなしの抵抗であった。


 三刀坂(みとさか)がリビングのドアを開ける。


「はーさっぱりした……次使っていーよ」

「あ、ああ……そうする」

「……」


 シャワーを浴びて頭もリフレッシュするつもりだった。

 だが、何も変わらない。


 寧ろシャワーの単調な音では幻聴をかき消せない。


『……ちゃん』

「!?」


 浴室のドアを勢いよく開ける。

 端末(RAT)の画面を確認するたびに、エリスがもう存在しない事を悟る。


(……)


 これが数度続いて、漸く諦めてリビングに戻る。

 三刀坂(みとさか)がお笑い番組に変えたらしく、事あるごとに爆笑していた。


「もう上がったの?

 ゆっくりしていけばいいのに」

「いや、十分ゆっくりしたつもりだ」

「そう?

 私だったらまだ……」

「いや、それ以上言わんでもいい」


 何か恐ろしい事(?)を口にしようとした三刀坂(みとさか)を制止する。

 流石にプライベート過ぎる話題だろう。


「……鍵宮(かぎのみや)の家には行かんのか?」

「えーあそこ何も無いし」

「何もない?」

「ホント、何もない。

 家具も食器も何もかも……角材が積まれているだけの空き家だし!」


 何となく事態を察した。

 『移項』がもしも同質量の別の物へと変化させる力があるなら、その木材で家具に変化させていたものが彼女の消滅と共に解けてしまったのであろう。


 消滅、という言葉を思わず使ってしまった……。


「……」


 謎の間が出現し、会話が一時中断される

 三刀坂(みとさか)がこちらをじっと見ている事に気付く。


「何だ?」

「やっぱ嘘

 今のキミを一人にはできないからこっち来た」

「別に、何ともないから……」

「本当?

 私それで機関長ぶっ殺そうとしたんだけど?」


 三刀坂(みとさか)が過去話を始める。

 両親が篠鶴機関の攻撃……所謂『第二射(イムム・コエリ)』によって殺された後、誰も彼もが両親の研究を口汚く罵ったのだという。


 野蛮、非効率、人倫に悖る、税金泥棒。

 科学をそう評価する篠鶴市民の常識にも吃驚したが、それ以上に三刀坂(みとさか)の過去がハード過ぎた。


「それでさ、私我慢できなくなっちゃって機関長の……多分何かの演説途中に異能力でぺしゃんこにしてやろうとしたの。

 そしたらさ大勢の人の手が私をぺしゃんこにして、口々に『あの親にしてこの子あり』なんて言いやがってさ……」


 時期的に考えて篠鶴機関内に居た頃、つまりまだ変化していない十死の諸力フォーティーンフォーセスでゆったりとしていた頃だろう。

 それでも彼女の心は満たされない……恐らく憎悪というのはそういう感じの物なのだろう。


「そしたらさ機関長が私を指差して『たとえ小さくとも裁かれる』だってさ

 私、機関長をぶち殺そうとしたのにその機関長に手玉に取られちゃって……」


 怖くなった、と続ける。

 ああ、確かにそれは酷い話である。


 少なくとも学童期の子供にさせてはいけない『挫折』そのものである。

 守ってくれる両親もなく、薄い関係の友人だけが頼りの三刀坂(みとさか)では到底耐えることはできない。


「うん、あの時のキミが言った通りだったね……

 もう私篠鶴学園に戻れないや」


 寂しそうな声で締めくくる。

 暗に自分も一人になれないと告げる。


「……だからさ、大切な人が亡くなった事あまり舐めないでね。

 私みたいに取り返しがつかないことに手を染める前に、せめて誰かがいてくれたらちょっとはマシになるからさ」


 八朝(やとも)が再び項垂れて思考の海に浸かる。


 恐らくエリスにトドメを刺したであろう箱家(はこいえ)は先程のニュースで死亡しており、仇討にすらならない。

 いや、あの時は考えもしなかったが『アルキオネの鱗』を完成させれば……


 それよりも前に七殺(ザミディムラ)の件で……

 と、考えを巡らせていると両頬を掴まれる。


「今日はさもう休んじゃおうよ

 意外かもしれないけど、私子守歌とか得意だからさ」

「……そこまでする必要は無いだろ」

「そう言わずにさ!

 お兄ちゃんや(ゆかり)ちゃんにも褒められたぐらいだし」


 ふと、時折出てくる兄の事について聞いてみた。

 だが三刀坂(みとさか)からは『もう会っていない』『狂った』の一点張りであった。


 完全に悪手であった。


「いや、ちょくちょく気になって……」

「……」

「すみません、許してください」

「それじゃあさ、ここ」


 促されたのはリビングの端。

 いつの間にか布団が敷いてあった。


「いや、ちょっと……」

「なんでもしてくれるんだよね?」

「言ってない」

「いや言ったね」


 最早会話にすらなっていない。


「そもそも俺は後遺症(レフト)で……」

「それキミの気合じゃん、寝れるでしょ?」

「頼む、それだけは……」


 拝み倒すように子守歌を拒絶する。

 余りの必死さに三刀坂(みとさか)の方がキョトンとする。


「もしかして……添い寝まですると思ってた?」

「それはあり得んだろ

 2階に寝室があるから三刀坂(みとさか)はそこで寝ればいいし」

「えー……つまんないの」


 この流れで三刀坂(みとさか)をリビングから追い出そうとしたが失敗した。

 余談ではあるが、三刀坂(みとさか)の兄や神出来(かんでら)の評価通り今日はぐっすりと寝ることが出来た。

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ