Case 20-5
2020年8月31日 完成(22:00)
逃げた先で三刀坂の本音と直面する。
再び無気力となった三刀坂と共に神社に繋がる隠し通路を突き進む。
【同日11時20分 不明・隠し通路B】
「あともうちょっとで神社に着くぞ」
八朝が言葉を掛けても三刀坂から返事は無い。
エリスの浮遊魔術で浮かされて運搬されているだけであった。
「神社に着いたら飼葉から一人部屋を融通してもらうから、それまで辛抱してくれ」
何に辛抱してくれと明かすのは無粋だと思った。
そうしているうちに神社敷地内の鎮守の森がうっすらと見え始める。
『ふうちゃん! あれ!』
「言ったろ、もうすぐ着くってな」
『コンセントとかあったら嬉しいな!』
「あれ?
端末はフォレストラットからの無線給電で電池切れしないだろ?」
『分かって無いなぁ!
コンセントから出てくる電気と比べたらあんなの牢屋飯だし!』
「そんなもん人間に分かるかよ」
会話に花を咲かせながら鳥居の前まで歩いていく。
境内まであと一歩の足音が、水音を含んだものに変じた。
『え……?』
エリスは情報量の多過ぎる事態に直面して頭が真っ白になった。
それも知らず目の前の異常のみ汲み取った八朝が三刀坂に声を掛ける。
「三刀坂!
すまん、自力で物陰に逃げてくれ!」
エリスの浮遊魔術を振り切り、ゆらゆらと廃墟の陰へと進む。
八朝はこの沈降帯の持ち主である化物を探そうと周囲を観察する。
「エリス、何か分かったか?」
エリスの反応が遅い。
もう一度声を掛けて正気に戻そうとする。
「どうした?」
『え……えっと……化物ならあっちにいる!』
端末の傾きで化物の居場所を伝える。
その方向にフード付きの真っ黒な外套を着込んだ正体不明の人影が見える。
「よりにもよって『カマイタチ』とは……!」
それはEkaawhsと並ぶ八朝にとっての最大の脅威であった。
記憶を失ってからはほぼ見かけなくなり、ミチザネ事件以降は一切姿を見せなかった。
『Ghmkv!』
『……Hpnaswbjt!』
八朝の霧を燃料にエリスが障壁魔術を展開する。
『カマイタチ』の定石としては出会い頭遠距離攻撃を放つので、この行動には意味があった。
少なくとも、目の前に瞬間移動して来るまでは。
「な……!」
八朝の驚愕と共にエリスの障壁魔術がバターのように切り裂かれた。
あり得ない……『カマイタチ』が如何に対物特化とはいえ、法則が違う魔法障壁をいとも容易く引き裂く事は出来ない筈。
『ッ!
我は繰り返し汝の名を叫ぶ、来たれ■!』
こちらにずんずんと距離と詰めてくる『カマイタチ』に気絶の花火弾を2発お見舞いする。
1つ目の直撃弾は杖の一薙ぎで無力化され、成す術なく後方に転がった。
『カマイタチ』の渾身の突きが八朝の心臓を正確無比に狙う。
迸る杖の一撃が八朝に直撃する数センチのところでピタリと止まる。
『■■!』
幻惑の輪を被り、2発目の迫撃軌道で放たれた花火弾で気絶する『カマイタチ』から全速力で逃げる。
三刀坂が逃げた方とは違う物陰から『カマイタチ』の様子を監視する。
『ふうちゃん……この『カマイタチ』なんかおかしいよ!』
「確かに、今回の奴の行動自体がおかしい
近距離で相手の隙を狙う一撃……これまでと段違いに強い!」
今までが機関銃を持つ非行少年の如き単純な相手だった『カマイタチ』が、変幻自在の技だけで如何なる相手も斬り伏せる剣豪の如き振る舞いに転じた。
それ故にエリスに再三分析魔法を掛けてもらうも、一度たりともエラー画面以外が表示されない。
花火の気絶から立ち直った『カマイタチ』が杖で一薙ぎする。
八朝達の姿を隠していた廃墟の壁が真っ二つに寸断された。
「……ッ!
仕方がない、神社内に逃げる!」
エリスに初級水属性電子魔術の初速度変更で無理矢理鎮守の森へと吶喊する。
一見、三刀坂と同じ方向に逃げた事により彼女を危険に晒してしまう悪手に見える。
だが、化物は寺社仏閣に侵入できない。
それを期待して一時撤退を選んだはずだった。
『……ッ!』
「そんな馬鹿な!?」
八朝が響き渡る轟音に泡を食う。
見える範囲の雑木林全てを切り倒し、『カマイタチ』が八朝の目の前に現れた。
続きます




