Case 20-2
2020年8月28日 完成
翌朝、いつも通り三刀坂と登校する。
だが昨日の事件を上回る信じられない事態が密かに進んでいた。
【5月12日8時40分 篠鶴地区・学園橋前交差点】
「それでさ、第二異能部復活させたら最初に何がしたい?」
「取り敢えずは、記憶探しの為にX級向けの依頼を飛ばしてみるさ」
まだ能力も発現せず、弱弱しい電子魔術と依代だけで戦わなければならないX級相手に能力の鑑定を行うというものである。
旧第二異能部には無い新たな顧客層の獲得と、八朝の記憶遡行のトリガーに能力鑑定が関わっていることが大きい。
少なくとも、現在の鹿室が空回りをしている状態で総動員するような大きな依頼を受けるべきでないと考えている。
「それって……」
「まずは本物探しだな、ちゃっちゃと終わらせて使命に取り掛かりたいしな」
八朝には、三刀坂が求めている『本物』探しと、エリスを元に戻すという創造神との約束の2つの目標が課せられている。
前者については空振りはおろか、捕捉までされてしまった状態である。
今後の身の振り方を考えていると、エリスから着信の知らせが伝えられる。
電話の相手は咲良であった。
『ふうちゃん、今いいかな?』
「大丈夫だが、何かあったのか?」
一瞬の沈黙だったが、それだけで彼女が緊張している事を察する。
恐らくは嫌な知らせなのであろう。
『落ち着いて聞いて
斎崎って人が通学途中に妖精に襲われて死んだわ』
斎崎とは箱家と掌藤を巡って争った挙句RATをウイルスで破壊された可哀想な非能力者である。
彼は榑宮地区に住んでおり、電子魔術じゃ飽き足らず化物を特殊な電子魔術で従わせた妖精も侍らせるほどの異能力者嫌悪主義であった。
そして妖精が主に反旗を翻すなんていうケースは0に等しい珍事である。
『誰も妖精がやっただなんて信じてない
それよりも昨日の事件絡みで、ある人物に嫌疑が掛かりつつあるの……』
まさか、とは思った。
だが柏海といい斎崎といい、全員八朝と関係のある人物である。
「……どうやら俺は暫く家に帰らない方が良さそうだな」
『……ごめんね』
「いや、別のセーフハウスがあるから心配しなくてもいい」
『うん……わかった……』
通話を切ると、心配そうな三刀坂の顔が映る。
「大丈夫だ、それと……」
信号が青になり、横断歩道を渡り切った所で数人が待ち構えていた。
篠鶴学園の制服と、その上から掛けているタスキを見るに『掌藤親衛隊』のメンバーであった。
「なんだ?」
「お前だな?
我らのリーダーを殺したのは……」
「雨止が何だって?」
「しらばっくれてんじゃねーぞ!
お前が昨日我らがリーダーを串刺しにして化物に食わせた!」
証拠だと突き付けられたタスキに夥しい血と、恐らくは待針と同じ大きさの針で貫かれたような破れ痕が付いていた。
「待て、俺の能力はSTRが0で直接攻撃してもダメージは与えられないのはアンタらでも……」
怒りと憎悪の叫び声と、八朝の弁明に野次馬がどんどん集まっていく。
ひそひそと大勢が『裏切者』と言っているのが聞こえる……
篠鶴学園は化物退治で死者が出やすい環境で、友人の死に慣れている傾向にあると言われているが『とある死因』に関しては蛇蝎の如く嫌っている。
即ち、人殺しである。
(三刀坂は……どうやら野次馬側に紛れてくれたみたいだな)
一触即発の状況で三刀坂の姿が見えない事に安堵する八朝。
魔女裁判と化していく状況下で八朝が決断する。
「それでも俺はやっていない!」
「「ふざけるな!」」
突如、針山地獄の如き石の柱が屹立する。
足元から刺し貫かんとする一撃を何とかかわしながら八朝も固有名を叫んで臨戦態勢を取る。
だが、状況は絶望的であった。
非能力者の放つ電子魔術乱舞なら破壊一辺倒で対処方法が無くは無いのである。
目の前の野次馬達が依代を抱えて発動しようとする、謂わば『能力乱舞』には統一性の欠片もない。
即ち人数が多ければ多いほど付け入る隙が無いのである。
『裏切者には死を!!!』
今度は剣山だけではなかった。
ありとあらゆる自然現象、そして空間を歪ませて発動する呪術的な能力、それ以外の今この瞬間に表現できないようなあらゆる異能力の攻撃が濁流となって襲い掛かる。
それらが八朝の目の前にいつの間にか発生していた黒い壁に阻まれて地べたに撃墜される。
目の前には三刀坂の後ろ姿があった。
「な……!」
「大丈夫、安心して
キミを守るって約束したからさ」
そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
だが、そんな彼女の自信を裏付けるデータがエリスより齎された。
『ふうちゃん……
みーちゃんの異能力が闇属性に変わった……』
闇属性、それは異能力者が持ちうる全ての属性に攻撃有利な性質を持った特殊属性。
そしてこの学園生なら誰もがこの属性の持ち主がどういう人物なのか察することが出来る。
「お……おい、RAT Visionで闇属性って……」
「この女、あの薄汚い十死の諸力のクソ共か!?」
「薄汚いとは言ってくれるなこの■■■■野郎!」
とても常人が発してはいけないようなスラングで啖呵を切る三刀坂。
それと共に激しいブーイングが飛び交い始める。
「あの時もそうだったな……
お前らはいつだって数人以上つるんでいれば、人の話すら聞いてくれないよな!?」
その言葉通り、誰も三刀坂の話を聞いてくれていない。
この怒り方は知っている。
あの時選択を間違えた俺を無惨に殺したあの三刀坂である。
このままでは取り返しのつかないことが起きる、そう八朝が確信する。
「ま、待て!
一旦落ち着い……」
「私の名前は三刀坂涼音……否!
十死の諸力・十四席 聖堂のレサト!」
「私の戒律に人でなしの生きる場所は無い……ゴミクズのように潰れて死ね!」
あ、とうとうプロット外の事やっちまった……
勿論続きます




