Case 19-4
2020年8月25日 完成
2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期
記憶再生・Nom158408。
このデータには『不正な政治思想』が含まれています。
それでも閲覧いたしますか?
◆◆◆◆◆◆
【同日同時刻付近 南篠鶴地区・三刀坂のアパート】
一度だけ、歯向かった事があった。
理不尽に家族を奪われた怒りから、あの篠鶴機関の長を異能力でぺしゃんこにしてやろうと考えた。
目の前で誇らしそうに異能力なんちゃらについて講演している彼の顔をトマトのようにすり潰したかった。
結果は散々たるものだった。
能力を使おうとした途端、まるでけもののように怒り狂った周囲の人間が、わたし目掛けて躍りかかった。
呼吸ができない程の苦しみから逃れようとするも、穴倉から差し込んだような救いの光が夥しい手の濁流に阻まれる。
そこに力強い声が降りかかる。
「民衆の怒りは、我が怒り
その怒りを目の前に、あらゆる罪障はたとえ小さくともこのように報いを受けるのだ」
歓声が上がると、人々との押さえ込む手の力が無くなった。
誰もが篠鶴機関の長を諸手を上げて祝福していたのだ。
ああ、自分の憎悪すらもダシにされてしまったんだな……
それから周りの人間が途端に怖くなった。
もうあの事件については緘口令が敷かれ、誰もわたしが犯人だと知ってはいない筈だ。
なのに後ろ指を指されるような不快感が消えない。
どこに逃げても……八朝君に慰められた時ですら。
部活を始める時、篠鶴機関から『善意』で貸し与えられた異能力封印手錠の重みを今でも手に残っている。
手錠を手にし酷く沈んだわたしを見て、部長が励ましてくれた言葉を思い出す。
『みんなそれに耐えて成果を出してきたんだよ
だから自分だけが苦しいって思わないで、気軽に相談して頂戴ね』
そんなにお父さんとお母さんは悪い事をしたんですか?
あの一家団欒を皆して嘘だって言い募るの?
そもそも私の願いを踏み躙った赤の他人共が『耐えてきた』って何だ?
そんなにも谿コ縺励※欲しいのか?
縺倥c縺よ悍縺ソ騾壹j縺ォ蜈ィ蜩。
◆◆◆◆◆◆
「……っ!
なんで今更こんなことを……」
ふと、あの時にしまい込んだ思い出が蘇る。
自分が十死の諸力に入り
変容した十死の諸力を拒んだ根幹の記憶。
今でも自分が何か悪い事をしているのではという妄想に囚われている。
それを裏付けるようにまだ返していない手錠が鞄の中でジャラッと音が鳴る。
「先輩、何かあったんですか?」
「あ、ちょっと思い出しちゃって……」
「ちょっとじゃないですよそれ!
ああもう、そんなに泣き腫らして何で呼ばなかったんですか!?」
「えっ?」
鏡を見ると、神出来に指摘された通りの顔。
でも、今は『言い逃れ』の理由があった。
「大袈裟ね、これは嬉し涙だよー」
「何言ってんですかこんな真っ暗な部屋で!」
「だって昨日は八朝君と初めて分かり合えたから」
それは柚月から八朝を救ったあの時。
今までの胸のつかえがとれ、初めて自分の『気持ち』に向き合えた瞬間。
「分かり合えたって、勘違いかもしれませんよ?」
「そうだとしても変わらないよ
やっぱり私は八朝君のことが好きだから」
その表情を察したのか、だがそれでも心配な神出来。
「それはどっちのですか?」
「……何を言っているの?」
「え、だって今の八朝は『転生者』で……」
「変わらないよ、全然
気が付いたの……『転生者』は悪魔じゃなくて単に『思い出』が違うだけの同一人物だって」
それは『転生者』からすれば全否定にもとれる内容である。
神出来の心配を他所に、三刀坂が話を続ける。
「だったら過去より未来だよねって話
思い出が消えちゃったのは残念だけどこれから作り直せば……」
そこまで言って三刀坂が赤面して俯く。
そんな様子を呆れ顔で見つめる神出来。
「なーに当たり前のことを語っちゃってるんですかね、この先輩は」
「やめてよぅ……」
「でもその座は『アイツ』には渡しませんよ」
「え……?」
神出来に肩を掴まれ困惑する三刀坂。
そこに遠慮のない着信音が割って入る。
「何その音?」
「これ、お兄ちゃんの所からかっぱらってきた探知機
最近、太陽喫茶に向かってやって来る化物がいるって聞いて……」
要は太陽喫茶を守るために毎晩その『化物』と戦っていた。
画面を見ると敵性反応……に加えて異能力者の反応もある。
「Sln型って……それに117287……」
振り向くと扉は開けっ放し。
三刀坂が嵐のように向かって行った跡であった。
次でCase19が終了します




