Case 19-1:状態異常を付荳弱☆貍よオ√&せる能力
2020年8月22日 完成
2020年8月22日 誤字修正
2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期
三刀坂の答えは予想に反していた。
それでも会うのが気まずくなり、一旦お開きとなった。
【5月11日(月)・朝(6:50) 太陽喫茶・共用リビング】
『次のニュースです。
篠鶴機関の対異能力テロ法案、通称『保安条例』が先日の議会にて全会一致を以て可決され、今日より施行されます。この法案の最大のポイント3人以上の異能力者が一か所に集まる事を篠鶴学園の授業を除いて禁止しており……』
箸が転がり落ちる程の衝撃を受けた瞬間であった。
『え……ちょ……早すぎない?』
「こいつは困ったなァ……」
異能力者の常連客も有しているマスターも同じく苦言を呈している。
八朝のこれまで1週間強の努力が水泡に帰した瞬間であった。
「クラブも……なのか……?」
「うん、これだとクラブもだね
ふうちゃん、ドンマイ」
「いや、その必要は無いぜ」
珍しい声が朝食の風景に乱入してきた。
いつの間にか八朝の目の前の席で飯綱がパンを齧っている。
「ああ、この法案は3人以上の異能力者『のみ』の集団を規制している。
だからお前が立て直した第二異能部は最初からこの範疇から外れている」
「もしかして、比婆先輩か?」
「その通りだ」
飯綱が流暢にこの意味不明法案の説明を行う。
そう言えば彼は篠鶴機関関係の仕事をしていると聞いており、さもありなん。
「それと、俺も今日から第二異能部に入るからヨロシクな」
「は!?」
唐突過ぎる宣言であった。
社会人なのではと言いかけた八朝に、1枚のカードが差し出される。
それは飯綱の篠鶴学園大学部の学生証であった。
「そういえばお前大学生だったんだなァ……すっかり忘れてた」
「わたしも30代ぐらいなのかなって思ってた」
「おめぇら酷すぎね!?」
辛辣な言葉の刃で切り刻まれた飯綱に、エリスからの追撃が入る。
『どうせ口だけなんじゃ……』
「馬鹿言うんじゃねぇ、こいつは比婆との約束なんだよ」
飯綱と比婆は昔からの腐れ縁で、彼の異能力が完治した時も亥の一番で喜びを分かち合った仲間である。
曰く、部下が人数集めに苦労しているので飯綱も協力して欲しい……との事である。
「……比婆先輩に確認が取れるまでは保留にしてくれ」
「ま、そうしてくれると助かるな」
去り際に八朝の肩をポンと叩いていく飯綱。
彼には太陽喫茶だけでなくクラブでもお世話になるようである。
「そういえば柚月はどうしたんだ?」
何気ない飯綱の一言。
だが、部屋中の雰囲気を凍らせるのに十分な殺意が込められていた。
「……昨日、篠鶴駅で見た」
「そうかい、ありがとなブラザー」
飯綱が立ち去った後も空気は戻らなかった。
昨日から行方が分からない柚月を皆して心配していた。
【5月11日(月)・放課後(15:50) 篠鶴学園高等部・第二異能部部室】
あの後、比婆に今回の件を確認すると事実であると返って来た。
授業が終わったタイミングでそれを報告しに第二異能部へ行く最中、妙に学校内がザワついている印象を受けた。
『……きっと保安条例の事なんだろうね』
間違う無くそうであった。
盗み聞いた話の中にも『うちの部が』と明らかな心配な声があった。
そして第二異能部内も同じく騒然としていた。
「こんにち……ってアンタら何があったんだ?」
「あ、部長じゃないですか
聞いて下さいよ、三刀坂さんが……」
どうやら鹿室が消滅の危機にある部に向けて助けたいと言っている。
非能力者の知人に協力を仰ぐと言っているが、それに対して三刀坂が反対している。
そんな三刀坂と目が合い、互いに気まずそうに視線を外す。
八朝は鹿室に向かい合う形となる。
「……一つ聞くが、何人ぐらい動員できるんだ?」
「え、それはいるだけ……」
「それじゃあ駄目だ、具体的な人数を言ってくれ」
これには理由があった。
まず人数が40人以下であれば28もある篠鶴学園高等部のクラブ全体を救う事はほぼ出来ない。
寧ろ救う救わないの差で第二異能部にあらぬ噂が立つ可能性まである。
次に鹿室のある『特性』が健在かどうか試す為でもある。
「……分からない」
「そうか、なら第二異能部としては許可できない」
予想通り、鹿室は人数を把握していなかった。
彼は『魔王討伐』を優先し過ぎる余りに、ヒトへの関心が希薄になっているきらいがあった。
「……!
鹿室様の善意を無碍にするのですか?」
「いや、第二異能部としては許可出来ないだけだ
個人でやるなら友人として少しは手伝う、勘違いしないでくれ」
そして八朝にも『一言足りない』という悪癖のせいで曲橋から疑われてしまう。
他人を試す前に自分が、という様な印象を八朝は受けていた。
「ほ……本当にいいんですか?」
「二度も言わん
その代わり、やって後悔だけはするなよ」
「……!
ありがとうございます!」
まるで弾かれたように鹿室が部室から出ていき、曲橋も同行する。
「……」
「三刀坂も、アイツらが暴走し過ぎないように手綱を握ってやってくれ」
三刀坂が無言で頷いて、部室のドアに手を掛ける。
部室に残る八朝と柚月を見つめてから、出かけて行った。
「それじゃあさ、私は?」
「特に何もないから、自由にしとくといい
俺は取り敢えず今日分の書類を片づけておく」
お久しぶりです、DappleKilnこと斑々暖炉でございます
今回は初めから騒然としています
飯綱の入部宣言、保安条例に揺れる校内、そして■■からの……
そして彼らは思い知る
この騒動がルートAの終盤(Case30)まで続く騒動の、ほんの序章に過ぎない事に……
引き続き当作品をお楽しみにして頂けたら幸いです




