表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/582

Case 18-4-2

2020年8月16日 完成

2021年3月12日 ノベルアップ+版と内容同期


 Case18-3にて②の選択肢を選んだ人はこちらからお読みください


 柚月(ゆづき)と別れ、記憶遡行の頭痛に巻き込まれる。

 そして八朝(やとも)は更なる真実を求めて記憶の底を目指す……




◆◆◆◆◆◆




「お父さん! 車急いで!」

「おうさ! 任せろ!」


 車が急加速し、身体が後ろに磔にされる。

 他の車や障害物を避ける為に急旋回が幾度もなく繰り返され、もみくちゃにされる。


「……おにいちゃん」

「大丈夫だ、おにちゃんがついてるからな!」


 目の前の少女を宥める為に、自分とは全く違う声音を出す。

 この少女の見た目が何となく三刀坂(みとさか)に似ているような気がして……。


(何だ!?

 これ……単なる記憶遡行じゃない!?)


 そう感じた途端に自分の身体が上手く動かせなっていく。

 手のひらに刻まれた手相すら異なっており、これは本当に自分の身体かと疑う。


「ごめんね……こんなことになって」

「そんなことない!

 お父さんとお母さんの『科学』は凄いのに!」

「それでもこんな危険な目に遭わせちゃ科学者どころか母親失格ね」


 物悲しくなっていく胸中を否定するように、怒りで満たそうとする。

 『科学』を否定した誰かへの憎悪として、いつかそれに連なる全ての命を根絶やしにするために。


 思えばこの時から『計画』は始まっていた。


(待て、そんなもの何にもならない(・・・・・・)!)


 少年(?)の身体の中から俯瞰していた八朝(やとも)が叫ぶ。

 まるで、同じ事をして無間の後悔に苛まれたアルカナの隠者(ハーミット)のように。


 すると一つ、車の姿勢すら乱しかねない地響きがやってくる。


「……第二射(イムム・コエリ)が始まった!」

「待って!

 諦めるのは早い!」


 母親がラジオの周波数を合わせる。

 すると篠鶴機関の公式発表の再放送が為されているチャンネルとばったり合う。


『我々篠鶴機関は現時点を以て■■■■社特殊開発チームである『(サイエンス)・ACT』に対し、アングルを用いた粛清を行う。対象となるのは……』


 呼びあげられた名前に自分たちの名字も含んでいた。

 まるでこの世の終わりのように全員がふさぎ込む。


「……大丈夫、今の速度なら町の外に出られるかも!

 お父さん、ここから一番近い市境は!?」

「あ、ああ……篠鶴駅北口を通って南抑川から出るのが早い」

「じゃあそうしましょ!」


 父親が再びアクセルをベタ踏みし、子供たちが座席の中で左右に揺らされ続ける。

 その間も母親の鼓舞が途切れることなく、彼らの精神を絶望の一歩手前で踏みとどまらせていた。


 その間にも第二射(イムム・コエリ)が着弾する衝撃が何度も伝わる。

 その度に命が消えていく感覚を、感じてはいけないそれを無慈悲に伝えられる。


「ねぇ?

 ここから出たらどうしよっか?」

「……!

 お父さんとお母さんのお手伝いがしたい!」

「わ、わたしも……!」


 子供たちが母親の疑問に全力で答えてみせる。


「だからお父さんお母さん、絶対に……」


 死なないで、と最後まで言えなかった。

 最後に見た母親の顔は子供たちを信頼しての笑顔と、父親の何が何でも全員を守ってみせると決意した表情。


 その顔のまま光の中に消えていった。




 目が覚めると、前部座席が消滅したのか目の前に燃え盛る道路が見えている。

 横を向くと妹が目を瞑って起きない。


 慌ててシートベルトを外し、妹の容態を確認する。

 意識を失っているだけと分かって安堵の表情を浮かべる。


 だが、彼らの心を挫く現実が追いついて来た。


「お父さん……お母さん……」


 父母は第二射(イムム・コエリ)の光を受けて影すら残さず絶命した。


 残された兄と妹だけではもう生きていくことはできない。

 だが、兄の心はそれを否定する。


 篠鶴市、第二射(イムム・コエリ)、篠鶴機関、そして彼らが庇護する異能力者達。


 生かしてなるものか。

 父母の科学(けんきゅう)を否定し、命まで奪ってみせたこの世界を絶対に許さない。


 何が何でも生き残ってやる。

 そして、この世からあの『篠鶴機関』とやら以外が苦痛の果てに絶滅する様を必ずや。


 僕たちを殺した『篠鶴機関』に復讐を。

 無間の苦しみを、その努力が無に帰るまでこの世界を破壊し、彼らの『墓標』に無駄以外の文字を刻ませない。


「■■■弘治

 お前を■■■■■・■■■と認めよう」


「これからは『墓標(メトセラ)』と名乗るがよい」


(まさか弘治……お前……)


 真実を口にする前にこの世界での意識が薄らいで散逸してしまった。




◆◆◆◆◆◆




『ふうちゃん!』

「!?

 何だ……何か」

『良かった……無事で!』


 無機質な端末の身体が頬へとめり込む。

 身体が冷たく節々が痛い事からその場に倒れ込んでいたのだと悟る。


「そういえば三刀坂(みとさか)は?」


 不意にエリスの嬉し泣きの声がピタリと止まる。

 恐ろしい予感が身体を駆け巡っていった。


『あ……駄目!

 そっちにいっちゃ……!』


 エリスの制止を無視して、当初の目的地である篠鶴駅北口へと向かう。


 近づくたびに、困惑の色を含んだ奇妙な雑踏の声が少しずつ大きくなっていく。

 固まった人の波を掻き分け、事態の中心へと進んでいく。


 その先にあったのは首だけが無い変死体であった。




 その纏っている服が三刀坂(みとさか)のものと全く変わらない事を除いて……




◆◆◆◆◆◆




 DATA_ERROR




BADEND 4   見殺し - Yellow Monkey




END

これにてCase18、柚月(?)と三刀坂回を終了いたします


こちらの回での記憶遡行は主人公のものではありません

しかし、このAルートの核心となる描写となります

その意味ではある意味正解の選択肢なのかもしれませんね


次回は三刀坂が避ける理由と、柚月(?)の正体に迫ります

残念ながら■■君の言う通り、死のドミノ倒しはもう止まりません

元々、Aルートはそういうコンセプトでありますので……


さて、次回も乞うご期待下さい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ