Case 02-3
2020年7月13日 Case 02より分割完了
2020年8月7日 異能力情報を更新
2020年12月12日 ノベルアップ+版と内容同期
2021年3月11日 ノベルアップ+版と2回目の内容同期
2021年3月29日 内容修正
2021年4月18日 内容修正
【4月16日(木)・5時限目(14:00) 篠鶴学園・グラウンド】
「もう一度確認するぞ!
制限時間内に行動不能になった方が負けだ!」
「但し、八朝は一撃でも食らえば負け……よろしいか?」
「ああ、それで構わない」
歓声を送る同級生たちと教師。
……教師まで見入っている状況を健全とは言いたくないが仕方は無い。
この教師の『授業』は半分を自習に充てている。
『演習』の担当として生徒の自主性を重んじているとは聞こえはいいが
その手に紙幣らしきものが握りこまれている時点で、そのご高説が台無しになっている。
「行け八朝!
お前に今日の飯代全部つぎ込んだから必ず勝て!!」
もう聞いていられない程の醜態である。
雑音たちを無視して対戦相手の鹿室に視線を向ける。
「どこからでもどうぞ
君から教えてもらった秘文字の真髄、とくと味わって下さい!」
眼鏡のブリッジを上げて鹿室が言い放つ。
その言葉にも見覚えが無い。
『蝕まれた記憶』が重くのしかかりながら『始め』の声を聞く。
『■■!』
『Roonjmd!』
FRAME:3→2
すかさず鹿室が魔法剣に魔石を嵌めて一閃。
斬撃は無数の雹となり、霧に身を隠した八朝を打ち据えようとする。
『Hpnaswbjt!』
GRAM:3→2
Pain Resisted
霧が砕け散り、目の前にハニカム構造の魔法障壁が現れる。
雹の雨がけたたましい音を立てて衝突しても魔法障壁はびくともしない。
「おい、アイツの異能力何かおかしくないか?」
「状態異常になる霧だっけ……特に変わりないだろ」
「違う違う、奴の固有名は『Ghmkv』
……『taw』だなんて唱えても何も起きる筈が無いだろ」
外野の観衆が騒然としている。
だが、エリスの驚愕はそれ以上だったらしい。
(ふうちゃん……それをどこで!?)
(今日の『記憶遡行』で得たものを利用しただけだ)
(何を、思い出したの?)
(……咲良に『女教皇』を渡された記憶だ)
それを聞いたエリスが安堵の溜息を吐く。
色々と聞きたい事はあるが、今は戦いに集中する。
「相変わらず防御は上手ですね
でも、hがこの程度ではありません!」
瞬間、雹が溶けて緑黒の風に置き換わる。
風は衝突するや否や魔法障壁を次々と蚕食していく……
『我より袂を分かつ、汝の名は■■
法を以て彼の足を縛る、二十二の呪い也!』
FRAME:2→0
次に呼んだのは『鈍足』の状態異常を持つ帽子。
相手に被せて初めて発動するものであるが、それを両手で持って前に向ける。
「何だアイツ死ぬ気かよ」
どよめく観客たち。
だが、数秒後には別の意味で驚愕の声を上げる。
「あぁーっと、どういう事だこれは!?
帽子に近づいた瞬間、緑黒の風が霧状に漂い始める」
■■に対応する秘文字はf。
hの右直線と重ね合わせることで無害なmに変化させた。
『更に、汝は異邦にて神の名を叫ぶ
そこに『神殿の柱』は無く、即ちその血を以て授ける!』
緑黒の霧が礫状に結集すると、流星のように鹿室へと殺到する。
mの両端の直線が徐々に崩れていく。
X字に近いそれは『g』……即ち『呪い返し』も意味している。
「くっ!」
礫弾を切り伏せ、対処できないものは回避していく鹿室だが
そうやって見過ごした礫弾が軌道を変え、鹿室に薄い切り傷を与えていく。
だが、突如として鹿室の動きが変化した。
まさしく、雨を避けるが如き神速にて八朝に肉薄していく。
「どうです、この『即席神託』のキレは?」
「ああ、本当に恐ろしい力だな」
「そうでしょう、なので大切な人の為にも手を引くことをお勧めします」
その物言いに一瞬だけ硬直してしまう。
何かを忘れているような……だが、今はそんな場合ではない。
「それは、この足元の攻撃を凌ぎきってから聞いてやろう」
八朝を攻撃範囲内に納めた瞬間に気付く。
帽子に加えてもう一つ、花火筒が用意されている状況に鹿室が凍り付く。
『■■!』
花火筒から迸ったのは気絶の花火。
即ち、相打ちの結末に気づいた同級生たちがブーイングを送る。
だが、閃光から解放された視界の中に
鹿室と、少し距離を取った八朝が立っている様子を確認する。
「俺は後遺症で耐えた筈なんだが?」
「残念ですが僕も能力で耐えさせていただきました!」
彼の『普段かけていない』眼鏡が『ある形』に黒く変色している。
それは秘匿、及び賭博を意味するpのルーン。
『Roonjmd!』
『■■!』
眼鏡を投げ捨てて、もう一度魔石による斬撃を見舞う。
負けじと八朝も二発目を放とうとするも、間に合わない。
『■■■■■』
その攻撃が唐突に消え去った。
だが、鹿室は返す刀を構えたまま一歩で距離を詰める。
(な……早い!?)
遠距離攻撃を断念して近接に切り替える判断力。
それに八朝の曲射が追い付かず、鹿室の後方で虚しく炸裂する。
そして無防備の八朝に一閃を加えて勝負が決した。
【4月16日(木)・6時限目(14:30) 篠鶴学園高等部・保健室】
結果から言うと敗北した。
当初の予定通りエリスへの詰問は無しになったが
代わりに鹿室まで当件を手伝うと言い始めた。
『斎崎の事は知っている
だから彼に……あの時の邪魔者にお灸をすえてもらいたい』
そういってあの熱狂が完全に終息した。
因みに、鷹狗ヶ島について聞いてみたが
そんな島は聞いたことが無いと一蹴された。
そしてダメージを受けた八朝は保健室で安静を厳命された。
「……」
『あ、あの……ふーちゃん』
「今ちょっと忙しいから後にしてくれ」
テーブル付きのベッドの上で開いているのは命よりも大切だと豪語する家計簿である。
今開いている理由は、依頼キャンセルで発生する損失予想とそれによる今後の資金繰りを考案しているからである。
電卓を片手に計算に勤しんでいると、遠慮がちな電子音が更に割って入ってくる。
『あ、あのさ……それって本当に大切なの?』
「当たり前だ
こいつは埋もれて消えそうなお金を拾い上げる重要な作業だ」
取り付く島もないとはこのことである。
これから先はひもじい程に倹約すべきだと悲壮な覚悟を決めるRATであったが……
ページ内を良く見ると他の概要欄と比べて1桁ぐらい大きい「雑費」が目に入ってしまったからである。
『ふーちゃん……この雑費って……』
「ん?
ああ、これは今までの実費のデータから平均値で出してるだけだ」
嘘であった。
平均値であるのは確かにそうであるが
内訳を見る限りRATが今までにやらかした無駄遣いが網羅されている。
即ち、これは雑費などではなく謂わばエリス費というものであった。
『えへへへ……』
「何だ、さっきから引っ付いて気持ち悪い」
『えー……でも、まぁ今度からは無駄遣い控えるよ、できる限り!』
「ああ、そうしてくれたら助かる……1,2か月後ぐらいからな」
だが、そこに思わぬ来客者がやってくる。
自信満々そうに八朝へと駆け寄ってくる。
「……5時限目の最後に茶々を入れたのはアンタか?」
「その通りです!
どうですか僕の研究成果は!」
どうやらあの不自然な『異能力消失』は
依頼者の箱家による『デモンストレーション』に利用された。
だが、これのお陰で彼が勝てる可能性が0では無くなった。
「凄いのは分かったが……」
「ええ、何が起きても後悔するなでしょ?
当たり前です、千早さんとの輝かしい未来の前に些末でありましょう」
どうやら八朝の困惑に本気で気づいていないらしい。
「……もう一度確認するが
掌藤千早はアンタ以外の『転生者』にも親切だ」
「そんな筈はありませんよ
ストーキングして得た情報ですが、僕以外は下僕か何かにしか思ってません」
そこまで分かっておいて、どうして……?
もはや掛ける言葉も見つからず、天を仰ぐしかない。
「見ての通り重傷だ
明日には期待してるから、もう帰ってくれ」
そういって箱家を保健室から追い出す。
エリスと共に明日の地獄を想像して大きなため息を吐いた。
続きます




