表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/179

オレって、友達甲斐無い奴?

「で、どういうつもり?」


 妖精君に食堂から追い出されるなり、アルが言った。銀の浮かぶ翡翠が(あたし)を見据える。


「雪君を散々煽って、なにがしたかったの?」


 やっぱり、バレバレだったようだ。


 まあ、猫の子みたいに(あたし)にトゲトゲした子をつつくのは割と(たの)しいから、昔から好きなんだけど…イリヤとかね? 今回は、それだけじゃない。


 アルの動きが見たかった。


 イリヤの影響が出ていないかを、知りたかった。その為に、つつけば確実に反応する猫の子が都合がよかったので利用させてもらった。

 鬼の子や狼の子は、猫の子程アルを相手に本気にはならないだろうから、と。


 結果は、よく判らない。というか・・・


 アルも猫君も、手加減していたようだし・・・

 そして、気付いた。そもそも(あたし)は、格闘とか接近戦が全く得意じゃないことに。

 なんというか、あれだ。

 見てもよくわからなかった! けど、まあ・・・アルの気持ちはわかった…かな?


 どうやら、調子がいいらしい。


 ここ数ヶ月、ずっと調子が悪いと感じていたようだけど・・・まあ、あれだ。イリヤの影響。

 如実(にょじつ)にアルの体調へ悪影響が出ていたらしい。


 本当に、イリヤは・・・


「体調、どうかなって思って」


 白い頬へ手を伸ばす。ほんのりと低い体温。


「…まあ、悪くないよ? 久々に身体が軽い感じ」


 身体が軽い、か・・・

 どうしようか? どうしたら、いいだろうか?

 なにが、アルの為になるだろうか?


 (あたし)には、イリヤの記憶を抑えることはできる。トラウマの軽減も、できる。

 頭痛自体を抑えることはできないけど、アルを寝かせることはできる。


 けれど、(あたし)には・・・


「なに? オレの体調を調べる為にわざわざ雪君を煽ってたの? 貴方は」


 不思議そうな翡翠を、見詰め返す。


 瞳が翡翠の色だと安心する。これは、一つの目安だから。アルが、アル(・・)だという、(あかし)になる。


「楽しかったでしょ?」

「否定はしないよ。久々に武器使って思いっ切り身体動かせたからね。訓練っぽい感じでさ? けど、やり過ぎ。後で雪君に謝らないとね? ルー」

「火に油じゃないかしら?」

「じゃあ、代わりに謝っとくよ」


 アルが苦笑しながら言う。


「アルは悪くないでしょ?」

「さあ? 雪君的には、貴方を止めなかったオレも同罪かもしれない」

「猫君のは、心配だよ?」


 そして・・・


 猫君には、自負があった。

 この船の中では、自分が一番アルのことを理解しているという自負が。

 けれど、それは砕かれた。

 (あたし)が、現れたことに拠って。


 (あたし)と猫君は同じ場所にいた、アルの古い友人。

 しかし、あそこから出た(あたし)は猫君や他の子達のように、アルの姉の母親には育てられていない。

 数十年間、アルと友人だった猫君。

 ほんの一時(いっとき)、アルの友人だった(あたし)


『なのに、アルのことをよく知っているのは、自分じゃなくて、クラウドの方だった・・・』


 というところかな?


 アルのことを知らないことへ、愕然(がくぜん)とさせられて、(あたし)の存在への嫌悪と嫉妬。


 アルがなにも教えてくれないことへの苛立ち。


 けれど、アル自体も自分のことをわかっていないということを聞かされ、アルへ苛立ちをぶつけられず、それをそのまま(あたし)へと当たっていたというところ。


 少しは頭が冷えただろうか? まあ、猫君にどれだけ当たられても、(あたし)は気にしないけど。


「・・・心配、ね。オレって、友達甲斐無い奴?」


 溜息混じりのアルト。


「仕方ないよ。アルは悪くない」


 話せないことが多いだけ。

 そして、アル本人も『知らない』だけ。

 事情を知っている(あたし)()が、(あなた)の記憶をいじっている。(あなた)に、イリヤのことをなにも思い出してほしくないから。


 ごめんね? アル・・・


「大丈夫。アルは(・・・)、なにも悪くないから」


 少し落ち込んだ様子のアルを、抱き締める。


 side:夢魔。


※※※※※※※※※※※※※※※


 苛々する。ムシャクシャする。


 クラウドの野郎がアルへ引っ付いていると・・・腹が立ってしょうがない。


 なんで、奴がここにいる?


 なんで、アルは奴が(まと)わり付くのを許す?


 なんで、アルは奴が怖くない?


 奴は、触れるだけで廃人を量産できる奴だ。

 魅了で言いなりの奴を量産できると言った。

 支配することも容易いと言った。

 本気なら、アルにも魅了が掛けられると言った。


 なんで、そんな奴に笑って触れられる?


 アルは頭がおかしい。昔から・・・


 なんで、そんな奴と仲良くできる?


 なんで、アルはそんな奴を庇う?


 なんで、奴がアルを・・・助けられる?


 自分(ミクリヤ)にはできなかったのに・・・


 数十年間、アルとは友達でいた。けれど百年数十年間、アルとは逢っていなかった。


 アルと、一番仲が良いつもりだった。


 実際、仲は良いのだろう。


 アルは、自分(ミクリヤ)に一番気安い。


 しかし、自分(ミクリヤ)は・・・


 アルが苦しんでいることを、知らなかった。

 自分(ミクリヤ)は、アルのことを知らなかった。


 頭痛の原因も、わかっている気でいただけだ。


 あんなに、苦しそうな声で・・・

 なのに、自分(ミクリヤ)は対処もできなかった。

 自分(ミクリヤ)には、アルが苦しんでいる姿を見せることさえ、許されなかった。


 アルのことをなにも知らなくて、アルになにもさせてもらえなくて、アルは自分(ミクリヤ)にはなにも言ってくれない。


 言いたくなったら言えと、アルには言った。


 けれど自分(ミクリヤ)には、アルにはなにも言うつもりが無いということも、判っていた。


 アルは秘密主義だから、と・・・


 物分りのいい振りをした。


 だけど、自分(ミクリヤ)はっ・・・


 アルに、なにもしてやれないことが悔しいっ!? アルの信頼に足りないことがっ・・・


 思わずアル本人へ当たってしまう程、悔しい。


 こういうときは、料理を作ろう。

 無心に。なにも考えずに。

 時間を掛けて、無駄に()った物を作ろう。


 頭を、冷やす為に。


 そして、後でアルへ謝りに行こう。

 クラウドには絶対謝らんが・・・


 side:御厨。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 実は御厨もへこんでました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ