オレって、友達甲斐無い奴?
「で、どういうつもり?」
妖精君に食堂から追い出されるなり、アルが言った。銀の浮かぶ翡翠が俺を見据える。
「雪君を散々煽って、なにがしたかったの?」
やっぱり、バレバレだったようだ。
まあ、猫の子みたいに俺にトゲトゲした子をつつくのは割と愉しいから、昔から好きなんだけど…イリヤとかね? 今回は、それだけじゃない。
アルの動きが見たかった。
イリヤの影響が出ていないかを、知りたかった。その為に、つつけば確実に反応する猫の子が都合がよかったので利用させてもらった。
鬼の子や狼の子は、猫の子程アルを相手に本気にはならないだろうから、と。
結果は、よく判らない。というか・・・
アルも猫君も、手加減していたようだし・・・
そして、気付いた。そもそも俺は、格闘とか接近戦が全く得意じゃないことに。
なんというか、あれだ。
見てもよくわからなかった! けど、まあ・・・アルの気持ちはわかった…かな?
どうやら、調子がいいらしい。
ここ数ヶ月、ずっと調子が悪いと感じていたようだけど・・・まあ、あれだ。イリヤの影響。
如実にアルの体調へ悪影響が出ていたらしい。
本当に、イリヤは・・・
「体調、どうかなって思って」
白い頬へ手を伸ばす。ほんのりと低い体温。
「…まあ、悪くないよ? 久々に身体が軽い感じ」
身体が軽い、か・・・
どうしようか? どうしたら、いいだろうか?
なにが、アルの為になるだろうか?
俺には、イリヤの記憶を抑えることはできる。トラウマの軽減も、できる。
頭痛自体を抑えることはできないけど、アルを寝かせることはできる。
けれど、俺には・・・
「なに? オレの体調を調べる為にわざわざ雪君を煽ってたの? 貴方は」
不思議そうな翡翠を、見詰め返す。
瞳が翡翠の色だと安心する。これは、一つの目安だから。アルが、アルだという、証になる。
「楽しかったでしょ?」
「否定はしないよ。久々に武器使って思いっ切り身体動かせたからね。訓練っぽい感じでさ? けど、やり過ぎ。後で雪君に謝らないとね? ルー」
「火に油じゃないかしら?」
「じゃあ、代わりに謝っとくよ」
アルが苦笑しながら言う。
「アルは悪くないでしょ?」
「さあ? 雪君的には、貴方を止めなかったオレも同罪かもしれない」
「猫君のは、心配だよ?」
そして・・・
猫君には、自負があった。
この船の中では、自分が一番アルのことを理解しているという自負が。
けれど、それは砕かれた。
俺が、現れたことに拠って。
俺と猫君は同じ場所にいた、アルの古い友人。
しかし、あそこから出た俺は猫君や他の子達のように、アルの姉の母親には育てられていない。
数十年間、アルと友人だった猫君。
ほんの一時、アルの友人だった俺。
『なのに、アルのことをよく知っているのは、自分じゃなくて、クラウドの方だった・・・』
というところかな?
アルのことを知らないことへ、愕然とさせられて、俺の存在への嫌悪と嫉妬。
アルがなにも教えてくれないことへの苛立ち。
けれど、アル自体も自分のことをわかっていないということを聞かされ、アルへ苛立ちをぶつけられず、それをそのまま俺へと当たっていたというところ。
少しは頭が冷えただろうか? まあ、猫君にどれだけ当たられても、俺は気にしないけど。
「・・・心配、ね。オレって、友達甲斐無い奴?」
溜息混じりのアルト。
「仕方ないよ。アルは悪くない」
話せないことが多いだけ。
そして、アル本人も『知らない』だけ。
事情を知っている俺達が、君の記憶を弄っている。君に、イリヤのことをなにも思い出してほしくないから。
ごめんね? アル・・・
「大丈夫。アルは、なにも悪くないから」
少し落ち込んだ様子のアルを、抱き締める。
side:夢魔。
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苛々する。ムシャクシャする。
クラウドの野郎がアルへ引っ付いていると・・・腹が立ってしょうがない。
なんで、奴がここにいる?
なんで、アルは奴が纏わり付くのを許す?
なんで、アルは奴が怖くない?
奴は、触れるだけで廃人を量産できる奴だ。
魅了で言いなりの奴を量産できると言った。
支配することも容易いと言った。
本気なら、アルにも魅了が掛けられると言った。
なんで、そんな奴に笑って触れられる?
アルは頭がおかしい。昔から・・・
なんで、そんな奴と仲良くできる?
なんで、アルはそんな奴を庇う?
なんで、奴がアルを・・・助けられる?
自分にはできなかったのに・・・
数十年間、アルとは友達でいた。けれど百年数十年間、アルとは逢っていなかった。
アルと、一番仲が良いつもりだった。
実際、仲は良いのだろう。
アルは、自分に一番気安い。
しかし、自分は・・・
アルが苦しんでいることを、知らなかった。
自分は、アルのことを知らなかった。
頭痛の原因も、わかっている気でいただけだ。
あんなに、苦しそうな声で・・・
なのに、自分は対処もできなかった。
自分には、アルが苦しんでいる姿を見せることさえ、許されなかった。
アルのことをなにも知らなくて、アルになにもさせてもらえなくて、アルは自分にはなにも言ってくれない。
言いたくなったら言えと、アルには言った。
けれど自分には、アルにはなにも言うつもりが無いということも、判っていた。
アルは秘密主義だから、と・・・
物分りのいい振りをした。
だけど、自分はっ・・・
アルに、なにもしてやれないことが悔しいっ!? アルの信頼に足りないことがっ・・・
思わずアル本人へ当たってしまう程、悔しい。
こういうときは、料理を作ろう。
無心に。なにも考えずに。
時間を掛けて、無駄に凝った物を作ろう。
頭を、冷やす為に。
そして、後でアルへ謝りに行こう。
クラウドには絶対謝らんが・・・
side:御厨。
読んでくださり、ありがとうございました。
実は御厨もへこんでました。




