少しは場所考えてよねっ!
百合注意。
アルが、復活した。
あの、物凄い声を上げて倒れてから、お見舞いも顔を見るのも禁止されて・・・
挙げ句、ヤブ医者は全くの役立たずで、できることは無いって言うしさ?
ず~っと心配していたから、少し安心した。
すっごく、すっごく心配したと言ったら、アルは困ったように僕に謝った。
いつのまにかクラウドがいたことにも驚いた。
まあ、それはいいんだ。
いいんだけど・・・ね?
これは、どうなんだろうか?
「ふふっ、アル♥️」
「なに? ルー」
「ただ呼んだだけ♥️」
「そう」
なんか、こう・・・
アルに、イチャイチャベタベタと・・・
「はい、アル。ア~ンして?」
「ん」
甲斐甲斐しく果物を剥いて食べさせたり・・・
ちなみに、こないだ食糧調達をした無人島で見付けた果物だ。栽培された物じゃない割には、なかなか甘いと思う。案外美味しい。
「アル、汁垂れてる。ん…」
「ルー。さすがにやめろ」
ところ構わずキスしたり・・・
なに? このベタ甘な雰囲気はっ・・・
シーフのベタベタより、ヒドい。色々と・・・
いや、別にいいよ? いいんだけど、ね?
婚約者候補? なんだし?
ただっ……限度がある!!
「少しは場所考えてよねっ!」
食堂で、アルの膝の上に座ってイチャ付くとか!
ミクリヤさんが鬼の形相で刃物(包丁じゃなくてアーミーナイフ!)研いでるし・・・最近のミクリヤさんはピリピリしてて怖いんだから、変な風に刺激しないでほしいのにさっ!?
「場所って?」
クラウド…女のヒトのときはルーなんだっけ? が、きょとんと首を傾げる。
「そういうのは、誰もいない二人っ切りのとこでしなよねっ!? っていうか、こんっな恥ずかしいこと皆まで言わせないで察しなよっ!? アルもアルだからねっ!? なんでクラウド…ルー? には、なにも言わないでくっ付かせてるのさっ!? シーフがベタベタくっ付いてたときには問答無用でシバいて引っ剥がしてたクセにっ!!!!」
そう。アルの対応も明らかにおかしい。シーフには塩対応だったのに対し、ルーには甘々だ。
現に今も、膝の上のルーを甘受している。
「あのな、カイル…女のヒトを殴れるワケないだろ。なに言ってるんだ?」
やれやれと、溜息を吐くアル。
「いや、待ってっ! おかしいの僕っ!? っていうか、それ以前の話だからねっ!? 公序良俗とか、TPOだとか色々あるでしょっ!!」
「大丈夫よ? 任せて、妖精君♪」
パチンとウインクする金色の混じる紫。
「あたし、淫魔だもの。全部無視できるわ♥️」
「どこも全く大丈夫じゃないんだけどっ!?!?」
なんて、恐ろしいことを・・・
じゃ、ないよっ!!!!
「淫魔だろうがなんだろうが、郷に入っては郷に従ってよねっ!? この船での公序良俗に悖る言動は慎んでもらうからっ!?」
ビシッとルーを指差して宣言する。と、
「おー」
ぱちぱちと響くアルの拍手。
「ほらっ、アルも賛成してるでしょっ! …ん? って、賛成するくらいなら最初っからルーを止めなよねっ!? バカじゃないの!」
「ははっ、ヤだな? カイル。オレに、このヒトを止められるワケないだろう?」
「だからっ、な・ん・でっ!?」
「クラウドなら兎も角、ルーは殴れない」
「同じヒトでしょっ!?」
「じゃあ、カイルはルーを殴れるの?」
「それ、は・・・」
「…じゃあ、自分が解体してやるっ…」
低い、声がした。物騒な空気に背筋が粟立つ。
「きゃー、コワーい! 助けてー、アル♥️」
わざとらしい悲鳴でアルへ抱き付くルー。
「手前ぇは、いつまでいやがる気だ?」
ギラギラとした猫の瞳のミクリヤさん。静かな低い問い掛けが、逆に恐ろしい。
まるで、噴火する直前の静けさというか・・・
「え~? 人魚ちゃんの滞在許可も取ったし。猫君にどうこう言われる筋合いは無いわよ?」
瞬間、ヒュッと空気を切り裂く音がした。次いで、ガギンッ! と音がして、火花が散った。くるくると上に跳ね上げられたアーミーナイフが、
「危ないな? 雪君」
カツン、ダンッ! とアルが左手に握ったナイフの柄で、テーブルへと縫い止められる。
全てが、一瞬の出来事。
「え?」
「チッ…」
ミクリヤさんの舌打ち。
とうとう爆発したのっ!? っていうか・・・
「すっごく物騒なんだけどミクリヤさんっ!?」
「雪君。さすがにやり過ぎ」
落ち着いたアルの声が同意する。
「あ゛? なにが? つか、庇うな」
対照的に、怒気の籠った低い声が言う。
「なに怒ってるの?」
ミクリヤさんへと向けられる翡翠。
「ソイツがこの場に存在してること。お前に引っ付いてンのも気に食わねぇ」
ギロリとルーを睨め付ける鋭い猫の眼。
「アル、お前の具合いが悪い原因。クラウドなんじゃねぇのかよ?」
「え?」
どういう意味かと、思わずルーを見やる。と、にこりと微笑むだけで答えない彼女。
「雪君、穿ち過ぎ」
「前も言ったが、自覚あンのか?」
「無いよ」
どこか冷ややかさを宿した翡翠と、激昂を滲ませる猫の瞳とが交錯する。
「なら、証明できねぇよな?」
「そうだね。でも、どうすれば証明になる?」
「知るか。とっとと追い出せ。そんな奴」
「ホント、仲悪…いや、悪いのは相性の方か?」
困ったような溜息混じりのアルト。
「いやん♥️あたしの為に争わないで♪」
ふざけたルーの声に、益々ミクリヤさんが苛立つ。うわ、額に青筋が浮いてるし・・・
「ルー。煽るのはやめろ」
「ふふっ」
「全く、昔から貴方は・・・雪君を揶揄うのが好きだな? 趣味悪いぞ」
クスリと笑うルーを、呆れ顔でアルが窘めた。次の瞬間、
「・・・」
キン! と、刃物の弾かれる音した。
「っと! だから、やめなよ雪君」
厨房と食堂を仕切るカウンターを一息で飛び越えたミクリヤさんがルーに斬り掛かった。のを、アルが止めた。
そして、ミクリヤさんが音も無く退って椅子の背へと着地。その手に握られたアーミーナイフが、ギラリと光る。
「ちょっ、は? え? ミクリヤさん?」
「あーあ、雪君がキレた。ルーのせいだからな? カイル、退ってた方がいいよ」
「え? いや、え? なに?」
「ルーも退ってて」
「はーい、頑張ってね? アル♥️」
言いながら、アルの頬へとキスするルー。
「だからっ、そういうのやめてってばっ!?」
「応援もダメなの? 難しいわねぇ?」
のんびりした声へ思わずツッコミを入れる。
「どこも難しくないよっ!!」
「ふふっ、妖精君、こっちこっち」
と、僕を手招いて壁際へ移動するルー。
「カイルに近寄るなっ!?」
ミクリヤさんの怒声。
「だから、刃物はやり過ぎだってば」
ガギン! と、ナイフを弾くナイフ。
「お前もっ、いい加減にしろっ!?」
「いい加減にするのは雪君の方だろ?」
こうして、アルとミクリヤさんの乱闘が始まってしまった。
テーブルや椅子の背を足場にして、激しいナイフの剣戟が交わされる。
ここ、食堂なんだけど・・・
side:カイル。
読んでくださり、ありがとうございました。
サブタイの通りです。
御厨がキレました。




