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わー、養父さん無茶振りー。

「さっきも言っていたが・・・この子はちっと、事情が複雑でな? 早くうちに連れて帰りてぇとこなんだが、そうも行かねぇ」

「・・・事情、というのは?」

「端的に言うと、この子の実家のゴタゴタだな。ンで、実家か、うちの方へ連れて帰っても、自動的に幽閉。もしくは、政略結婚させられる。望まぬ相手との結婚か、一生幽閉で飼殺しかの二択。さすがにそれは不憫ふびんだ」

「・・・それで、俺らになにをしろと?」

「そこで、三つ目の選択がある。放浪だ。先の二択が嫌なら、うちに帰らなきゃいいのさ。この子の足になってもらおうか? 幸い、放浪するのに船は都合がいい」

「・・・断る、と言ったら?」


 船長のヒューよりも先に訊く。


「そうだな。別に奪ってもいいんだぜ? お前ら程度、全員潰すのはワケも無い」


 チラリと俺らを見渡す深緑。おそらくそれは、本当のことだ。彼は、強い。そして、ピリリとヒューから漂う怒気。


「……が、船は船だけあっても意味無ぇからな。乗り手がいねぇと動かせねぇ。そう悪い話じゃない。報酬はちゃんと払う。まあ、期間は未定だが……そうだな、この子が自分から出て行くか・・・保護者が迎えに来れば、契約終了とするか」

「・・・その、保護者とやらが迎えに来たら、ソイツはどうなる?」


 低く問うヒュー。


「さぁて? この子のその後なんぞ、お前らには関係無ぇ筈だが?」

「・・・明らかに不幸になるってぇガキを、見過ごせってのか?」


 飴色の瞳に混じる緑色の光。


「別に、必ずしもこの子が不幸になるとは決まってねぇさ。そうなったらなったで、この子はしたたかに生きて行くだろうからな? そういう風に、教育した。・・・とは言え、この子は弱いからな。戦いの方はさっぱりだ」

「・・・吸血鬼に単身で挑んでいたんだが? ソイツは」

「ハッ、人間でも狩れる程度の雑魚しか相手にしてねぇ筈だぜ? 弱ぇから無駄な怪我をするし、お前らに拉致もされたンだろうがよ」


 見下ろす深緑。


「「・・・」」


 彼女を拉致した二人は、気まずそうな顔をする。


「・・・なぜ、そんな話を俺らに?」


 ニヤリと犬歯を見せて笑むスティング。


「さぁて? 特に意味は無ぇよ。面白そうだと思ったから、だな」


 そんな話を聞かされたら、ヒューがどうするのかは想像が付く。ヒューは、あれでいて小動物や子供が好きで面倒見もいい。推して知るべし……だろう。どうもスティングは、その辺りを判っているような気もする。


「で、返事は…聞くまでもねぇか」


 ククッと低く笑うハスキー。


「怪我や病気はこの子の自己責任。死ななきゃそれでいい。そして、俺の娘に手を出すな…と、言いたいところだが、まあその辺りも手前ぇらの自己責任だな。但し、この子には婚約者候補が複数いる。ンで(もっ)て、どの野郎もこの子に執着している。弱ぇ奴ぁ、殺されても知らん。その覚悟があンなら、特に文句は言わねぇよ」

「・・・本気ですか、それ」

おう

「というか、婚約者候補ってコイツと面識があんのかよ。政略結婚だとか言ってなかったか?」


 ヒューが呟く。


「政略結婚だからって、全部が全部見知らぬ奴と結婚するたぁ限らねぇさ」

「・・・あなたは、その政略結婚に否定的なんですか? それとも、賛成しているんですか?」

「個人的には、この子の味方だ。が、結婚自体を否定はしねぇ。ま、この子次第と言ったところか? 本気で嫌なら、死ぬ気で逃げンだろ」


 俺には、どうもこのヒトの態度が煮え切らないように見える。立場がハッキリとしない。


「報酬だが、コイツでどうだ?」


 匕首(あいくち)を掲げるスティング。


「うちがほぼ独占しているASブランドのシングルナンバー。確かコイツは、八か九辺りだった筈だ」


 あ、これはもう・・・


「乗った!!」

「よし、交渉成立。ああ、別口でちゃんと金も払うから安心しろ。さて、起こすか」


 深緑の瞳が彼女を見下ろす。と、同時に、ざわりと皮膚が粟立つ。先程漂っていた殺気よりも濃密な殺気が彼女へと向けられた。瞬間、


「!」


 するりと動く白い手、ガヂンっ! という金属音。そして、パッと翻るプラチナブロンド、次いでパシッと鋭い音が響いた。


「ククッ…ようやく起きたかよ? アル」


 スティングが首筋を狙うナイフを歯で白刃取りにし、それを止められた彼女がナイフを離して跳ね上がり、スティングへ踵落としを叩き込もうとして、それを更にスティングが片手で受け止め、彼女の足首を掴んだ。スティングはそのまま片手で彼女を逆さまにぶら下げ、口に咥えたナイフを手に取って、低く笑ったのだ。


「? おお、養父とうさん久し振りー」


 ぶら~んと逆さまのままきょとんとした顔をし、スティングを認めた彼女も笑顔を見せる。


「応。お前はまぁた怪我かよ?」


 透明な氷に覆われた彼女の右腕を見やり、呆れたようなハスキー。


「まあね……多分、尺骨しゃっこつに軽いヒビと、少し筋ヤっただけだし。十日もあれば治せるから大丈夫。一応、寝れば三日くらいで治せるかな? って感じ。もう放していいよ」


 硬質なアルトの声。


「おらよ」


 逆さまだった彼女は、スティングがブンと手を放すと同時に空中でくるんと宙返りして反転。トンと、甲板に軽やかに着地した。そのやり取りを、俺らはぽかんと、ヒューは苦い顔で見ていた。


「ところでさ、何度も言ってるけど、いい加減その起こし方やめてくれない? 心臓に悪い」

「いい訓練になンだろ。ほらよ」


 ぽんと放られたナイフをキャッチして袖口へと仕舞う彼女。仕込みナイフか。


「・・・で、なにこの状況?」


 溜息にさらりと揺れるプラチナブロンド、翡翠の瞳に浮かぶ銀色の瞳孔。思った通り、とても綺麗な女の子だ。けど、凛とした雰囲気が、彼女をただの綺麗な女の子ではなく、中性的に見せているように感じる。


「お前を拐った身の程知らず共を潰そうと思ったが、気が変わったってとこだな。今は、お前の足になれっていう交渉中だ」

「わー、養父さん無茶振りー」

「あ? うちの可愛い娘を拐った連中を、その程度で許してやろうっていう寛大な処置だろうが? むしろ、足を用意してやっている優しい親父に感謝しろよ、ん?」

「や、さすがに脅すのはどうかと思うぞ? 養父さん」

「あのな、アル」

「ん?」


 スティングはひょいと彼女を軽々抱き上げて腕の上に座らせると、その白い頬へと手を伸ばし、顔を寄せさせる。匂いを嗅いで鼻と鼻をくっ付けるそれは、狼や犬の親愛の挨拶。

 二人のその仕草はとても自然で、匂い的にも血の繋りは明確に無いというのに、それでもどこか親子を感じさせる。


「今回俺は、お前の味方をしてやれない。手も、一切貸してやれない」

「うん。判ってる」

「ん、いい子だ」


 プラチナブロンドを撫でる大きな手に、目を細める彼女。


「ま、俺はあの話自体、特に悪いとも思ってねぇし」


 その言葉に、じっとりと深緑を睨む翡翠。


「・・・」

「だが、お前が嫌がってンのも判る。だから、本気で嫌なら、身内以外の味方を作れ」

「身内以外の、味方?」

「応。今回の件に関しちゃ、身内にお前の味方はいないも同然だからな」

「あ~・・・うん……そう、だね・・・」

「頑張って逃げろ」

「うん」

「じゃあな。愛してるぜ、俺の娘」


 腕に乗せた彼女を降ろしてぺろりとその白い頬を舐めると、スティングはパッと跳び上がって船を下り、そのまま消えた。


 side:ジン。


※※※※※※※※※※※※※※


「さぁて・・・移動手段は確保してやったが、連中はどの程度の保険になることやら? 取り敢えずは、このまま様子見と言ったところか……」


 簡単に潰せる連中だが、せめてアルの足程度には、役立ってほしいところだな?


 side:スティング。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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