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ねえ、アル。お腹…空いてない?

 百合注意。

 イリヤの強い魔力放出があった直後からこの船に向かったけど、(あたし)は飛ぶのが遅い。

 結局、辿(たど)り着くまでに二日もかかった。


 一瞬、この身体(カラ)を脱ぎ捨てようかとも思ったけど、身体はあった方が便利だ。一度棄てると、創り上げるのに時間が掛かる。

 (だれか)の身体を乗っ取ることも・・・自我や所有権の問題で面倒だ。死体を使うことも考えたが、それも・・・使い勝手が悪い。死体にだって記憶は残る。(だれか)の別の記憶がアルに混ざることも避けたい。


 そしてこの身体は、アルにも馴染み深い。

 アルが(あたし)(あたし)だと強く認識するのはこの身体だろう。やはり手放せないと思い、自作の身体で来た。時間はかかったけど・・・


 アルは…案の定、イリヤの影響でマズい状態。


 頭痛に苦しむアルを眠りのキスで寝かせる。

 とりあえずの応急処置だ。


 ああ、イリヤのことを思い出しかけている。


 離れなければよかったと、思う。


 馬の子は、もっと後回しにすればよかったっ!

 まあ、あの子を見て思い付いたこともあるけど…


 早く、忘れさせなきゃ・・・


「人魚ちゃん、悪いけど俺とアルを二人切りにしてくれないかな? 誰も邪魔できないよう、できれば雑音もシャットアウトしてほしい。今すぐに」

「は? クラウド君っ?」

「・・・わかったわ」

「アマラっ?」


 慌てる狼の子を無視。

 人魚ちゃんがパチンと指を鳴らしたら、(あたし)とアル。人魚ちゃんの三人が、空き部屋へと移動していた。それも、ベッドごと。


「ここは空き部屋よ」


 それは、判る。持ち主の気配が全く無いから。長い間、誰にも使われてはいなさそうだ。

 その割には埃っぽくなく、掃除が行き届いているのは、あの妖精の子のお陰だろう。いい子だ。


「・・・どのくらい掛かるの?」


 人魚ちゃんが()いた。


「・・・アルに、(あたし)の血を飲ませた?」

「ええ」

「そう・・・」


 なら、前よりもアルに潜り易くなっている筈だ。本当は(あたし)の血はあんまり飲ませたくはないけど・・・少し、どうするか迷う。


「とりあえず、三日…かな?」

「わかったわ。その間は、誰にも邪魔させない。なにかあったら、アタシを呼んで」

「ありがとう、人魚ちゃん」

「三日を過ぎたら、様子を見に来るわ」

「わかった」

「・・・大丈夫よね? アルは」


 アルを心配する人魚ちゃんに、嬉しくなる。


「任せて」

「頼んだわ」


 そう言って、人魚ちゃんが部屋から去る。


「ごめんね、アル…」


 (あなた)が、記憶の虫食いを気にしていると知っていて・・・

 (あたし)は、(あなた)が思い出したことを、沈める。

 思い出せないように・・・


「お願いだから、忘れてて?」


 side:夢魔。


※※※※※※※※※※※※※※※


 ・・・柔らかくて、温かい。

 すべすべでふわふわ、むにむにとした感触がする。


「んっ…アル」


 艶やかな声が、耳元でオレを呼ぶ。


「?」

「ああ、目が覚めた?」


 ほっとしたような優しい声が聞く。


 ぼんやりと開いた目の前には濃い蜜色。

 手の平にはむにむにと柔らかい感触。


「ぁんっ…アルってば、大胆なのね?」

「え~と?」

昨夜(ゆうべ)のアル、すっごく激しかった♥️」


 顔を上げると、金色の混ざる紫が妖しく微笑んだ。濃い蜜色は、ルーの肌のようだ。しかも・・・


「なんで裸なの?」


 たわわで柔らかい胸元の、熱い体温の肌にぎゅっと抱き締められている。身動きが取れない。ルーの方が力が強いらしい。


 ・・・なんだかなぁ…


「…愛し合ったから♥️」

「オレ、服着てるよね?」


 多分、ガッツリはだけてるけど。


「もうっ、アルったら冷静過ぎ。つまんないわっ。もう少し慌ててくれてもいいんじゃない?」


 厚い唇がつんと尖る。


「や…夏によくあるから。朝起きたら養母(かあ)さんが、()()でオレのベッドに入ってるとか」


 狼の姿でベッドに入って来て、暑くなって人型になるらしい。しかも、起きたときには密着されている率が高い。暑いなら、なんでオレにくっ付くんだ? と聞くと「アルの肌はひんやり。気持ちいい」という答え。せめて下着は着てほしい。


 幾ら女同士とはいえ、目のやり場に困る。


 オレはそこまでオープンではない。そう言うといつも、狼になって誤魔化すのだ。養母さんは・・・


「自由なのね、狼のお母さん」

「まあねー」


 昔……お願いだから、人型の真っ裸でシーフに抱き付くのはやめてくれと、レオと二人で説得した。

 シーフは基本、触れている相手よりも低い体温を維持しているから、夏にくっ付いてると涼しい。

 そして、シーフも養母さんも、真っ裸など全く気にしない。シーフの母親のビアンカさんも自由なヒトだし・・・むしろ気にしてくれ! と、二人で言ったところ、やれやれと呆れたような溜息を吐かれ、レオが吹っ飛ばされた。養母さんは偶に、レオに酷く理不尽だ。


 まぁ、養母さんは元々暑いのが大嫌いだ。それを我慢することも・・・そして、「頼むから人型で真っ裸になるのはアルの部屋だけにしてくれ」とレオが説得し続け、(ようや)く養母さんがOKした。


 オレも暑いのは嫌いなんだが…というのは黙殺された。力尽くでは養母さんに(かな)う筈が無い。


 養母さんもオレも、寒さには割と強いが暑さには弱い。仕方ないので、夏は氷をベッドの周りに造って取り囲んで気温を下げている。


 一応、養母さんがある意味裸族なので耐性はある。しかし、この状況への説明が欲しい。


「で、なんで裸? 服着なよ」

「あたし…寝るときは服を着ないタイプなの♥️」


 目を逸らし、ぽっと頬を染めるルー。


「うん。説明になってないかな?」


 まあ、起きたときにルーがいるのはこれで二回目。察しは付いているが、一応聞いておきたい。


「・・・頭痛を、ね」


 溜息混じりにぽつんと呟かれた言葉。


「ああ、やっぱり・・・っていうか、なんで貴方がここにいる? どうやって知った?」


 前回といい、そう都合良く、オレの頭痛に居合わせられる筈が無い。このヒトは一体、なにを知っているんだ?


「オレにもわからない頭痛のタイミングが、貴方には判っているとでも言うのか?」

「愛の力で?」

「ルー……それなら、貴方がオレになにかを仕込んだとかの方が、まだ納得が行く」

「本当なのに・・・ヒドい、アルっ…」


 (うる)っと涙が目尻に溜まる。けれど、金色の混ざる紫の瞳は、イタズラっぽく(きら)めいてる。


 嘘泣き…というか、遊んでる?


「で、実のところは?」

「愛の力は、本当だよ。(あたし)(あなた)を愛してるからね。アル。好きだよ」


 チュッとこめかみに落とされる唇。


「わっ」


 そして、オレを抱えたままごろんと転がるルー。横抱きだった体勢から、ルーが上になった。


「ふふっ♥️」


 クスリと笑った唇が、唇を(ついば)む。


「ねえ、アル。お腹…空いてない? …ん…」

「…ん…ルー…」


 ふにふにと唇が柔らかく()まれ、とろりと甘くて濃厚な精気がゆっくりと流れて来る。


「んっ…ふ、ぁ・・・」


 ゆるりと長く、深くなる口付け。

 絡め取られて行く舌。

 少し息苦しくて、苦しくなって来ると息継ぎ。


「んっ、はぁ…可愛い♥️」


 くちゅりと唾液が糸を引き、離れる唇。熱い舌が唇を舐め上げ、吐息が(くすぐ)る。


「は、ぁ…はぁ・・・んむっ、…」


 そして、息が調う前にまた塞がれる唇。長く、深い口付けと息継ぎとが何度も繰り返され・・・


「はぁ、ハァ…はっ、ぁ…んっ・・・」


 段々とくらくらして来る。

 息苦しいのに、気持ち()い。


「・・・ヒトが、心配して見に来てみれば・・・盛ってる暇あンなら、とっとと出て来いやこの馬鹿女共がっ!!!」


 低いハスキーの怒号が(とどろ)いた。


「ん、ふっ…やあ、人魚ちゃん♥️」


 ぺろりと唾液の糸引く唇が舐められ、チュッと最後にキス。はだけたオレの服を軽く併せて起き上がったルーが、スッとクラウドに変わってくるりと振り向いた。


「…なによそれ…」


 低い不機嫌なハスキー。


「ヒドいな? 人魚ちゃんに配慮して俺になったのに。なぁに? 実は見たかったの? あたしの、は・だ・か♥️」


 裸の胸を腕で隠し、しなを作るクラウド。声だけが少し高くなり、ルーになる。芸が細かい。


 今のうち、ボタン閉めとこ。


「ンなワケないでしょっ!? アタシに流し目寄越すなって言ってンのよっ! つか、服着なさいっ!」

「パンツは履いてるよ? ほら」


 ベッドから立ち上がるクラウド。確かに、パンツは履いていた。男物を。


「服着ろっつってんのっ!!!」

「仕方ないなぁ」


 アマラに言われ、ベッドの周りに脱ぎ捨てられた服を拾って身に付けるクラウド。


「で、大丈夫なの? 小娘は」

「ついさっき起きたばかりだよ。別に盛ってたワケでもない。アルにご飯あげてただけ。ね?」


 伸ばされる蜜色の手。掴むと、ひょいと起こされる。毛布を抱き締めたまま、座る。


「ご飯って・・・血じゃないの?」

「……アルは、血よりも精気の方が好きだからね」

「なんで小娘は黙ってンのよ?」

「ああ、呂律が回らないんじゃない? キス、割と濃い目のしたから♥️」


 顔を押さえて頷く。まだ舌が痺れている。


「…ったく、小娘。なにがあったか覚えてる?」

「?」


 良く覚えていない。


「覚えてないみたい」


 クラウドが答える。


「アンタの頭痛があんなに酷いだなんて思わなかったわ。びっくりしたんだから」

「・・・迷惑、かけて…ごめんなさい…」


 アマラに頭を下げる。覚えてないけど・・・


「…というか、今回は…記憶が無いんだよね。いつもは、頭割れそうなくらいまでは我慢してから、その後で意識が飛ぶんだけど、それまでは一応覚えているんだ。なのに・・・いきなり記憶が繋がらないってことは、初めてかも・・・」


 意識が飛ぶのはよくあることだ。慣れている。全く自慢にならないが・・・

 けど、今回は、いつもは朧気(おぼろげ)にある断片的な記憶さえも、一切無い。


 起きたら・・・気付いたらオレは、ここでルーに抱き締められていた。


「そう・・・体調は?」

「・・・ふらふらする」


 頭は痛くないけど、身体が重い気がする。


「ご飯、もっと要る?」


 クラウドが、屈んで口付けを落とす。触れるだけのキスで、精気を軽く流し込まれる。

 さっきとは柔らかさの違う唇。

 女のルーより、ほんの少し硬い柔らかさ。

 覗き込むアメトリンに、目を閉じる。


「っ……ああもうっ、好きにやってなさいっ! だけど、その食事とやらが済んだら、ちゃんと出て来なさいよねっ!?」


 その声を残し、ふっとアマラの気配が消えた。


「・・・喉、渇いた」


 目を開くと、困ったようなクラウドの顔。


「あんまり、俺の血はあげたくないんだけどな?」


 蜜色の首筋をじっと見詰める。


「ダメ?」

「うん。首はダメ。代わりに・・・」


 唇が、塞がれる。そして広がる甘い血の味。

 ああ、美味しい・・・

 流れ込んで来る濃厚な甘い血と、精気に・・・


 強い魔力に、酔いそう…だ・・・


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 夢魔のヒトが男女でアルと絡んでます。

 そして、イチャイチャを目撃するアマラ。

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