さあ、ロゼットを呼ぶ準備を進めましょう。
シスコン、ヤンデレ注意です。
アルちゃんが目を覚ました。
しかし、とても具合が悪そうだ。
歯を食い縛った蒼白な顔が苦痛に歪む。荒い呼吸の隙間から、呻く声。
頭がかなり痛むらしく、朦朧としている。
それなのに、触れられることを拒む。
強く掴まれた手首が軋んだ。触らないからと言って、それを放してもらった。
アルちゃんは、薬が効かない体質なので鎮痛剤や麻酔などは無意味。
対処方法として、無理矢理寝かせることしかできないというなら、アマラを呼ぶべきだろう。
クラウド君の血液で、アルちゃんを寝かせよう。
「アマラ。アルちゃんが起きた。すぐに来てくれ」
呼び掛けると、すぐに現れるアマラ。
緊急時になんだけど、普段からこうして呼んだらすぐに出て来てほしいものだ。
「・・・アルは…」
アルちゃんを見て、アマラが顔を顰める。
「寝かせろってこと?」
「察しが良くて助かるよ」
「・・・断るわ」
険しい顔でキッパリと断られた。思わず、低い声でアイスブルーを見下ろす。
「…アマラ。理由は?」
「あの淫魔の血は、あれだけしか無いから。耐えられるギリギリまでは、我慢させるべきよ」
渋い顔がアルちゃんを見下ろす。
「それか、強制的に寝かせるか、よ」
「肉体的ダメージで…か」
「ええ…」
「・・・いや、シーフ君がしたことは? 酸素濃度を低下させて気絶させることはできないか? アマラ」※酸素濃度の低下は脳機能に重篤な障害を引き起こしたり、最悪死にます!
「・・・できなくは、ないわね」
親指を唇に当て、考えるように言うアマラ。
「ただ、この部屋ごと、になるわ。アタシはあのイフリートのガキみたいに空気の組成分を細かく操れるワケじゃないもの。小娘の周りだけの酸素濃度の調整じゃなくて、区画ごとに、空気自体を薄くすることしかできないわ」※空気が薄いと高山病などを引き起こし、最悪死にます!
「となると、俺が邪魔?」
「そうね。アタシは人魚だから、空気が多少薄くても全然平気だけど、アンタ達は死ぬでしょ」
「まあ…酸素濃度に拠るかな? 一応、無呼吸でも五分くらいは動けるけど・・・」
「?」
ふっと、アマラが顔を上げて上を見る。
「アマラ? どうかした?」
「ええ。必要、無くなったかもしれないわ」
「?」
俺が首を傾げると、医務室へと向かって走る足音を捉えた。これは…
「アルっ!?」
ドアを開けて飛び込んで来たのは、黒髪に金色の混ざる紫の瞳、濃い蜜色の肌の少年。
「クラウド君っ!?」
「ごめんっ、アルっ!」
必死な顔でアルちゃんへ駆け寄り、
「ちょっ、クラウド君っ!?」
そのままアルちゃんへキスをした。
瞬間、ふっとアルちゃんの顔から苦痛の色が抜け落ちて静かになった。意識を失ったらしい。
そういえば、前にアルちゃんをキスで寝かせたとか言っていたような気がする。
「…ごめんっ、離れなければよかったっ…」
艶やかな声に滲む苦い色。
「ごめんね、アル・・・」
蜜色の手が、白い頬をそっと撫でる。
side:ジン。
※※※※※※※※※※※※※※※
緊急連絡が入りました。
我らが始祖にして真祖。彼の有名な子殺しの始祖と父上が闘ったそうです。
結果、父上の意識は不明。
彼の方も、行方知れず。
そして・・・
『わたしが死亡、または生死不明、意志決定困難に陥った場合は、息子のフェンネル・アダマスをアダマスの当主代理として任命する。
ローレル・ピアス・アダマス』
という父上の署名がされた書類が届きました。
他にも、細々とした条件が書かれていますが・・・要約すると、妹及びその家族へ個人的な命令をしてはいけない。特に、あのヘタレ野郎アクセル・ブライトがアダマスへ明確に敵対行為を示さない限り、個人または当主権限で害することはしないこと。
・・・などが書かれています。
あと、職人やエレイスのある程度の裁量を認める旨・・・要は、フェイドやハルトへ当主権限を振り翳すなということですね。
椿、ロゼットへ命令はするな。
ハルトやフェイドへも無茶振りはするな。と、父上は言いたいようです。
そして父上は・・・意識不明とは書いてありますが、実質的には休眠状態になっているそうです。
命に別状は無いでしょう。
どの程度の休養が必要なのかは不明ですが・・・
仕方ないので、後で父上へお見舞いとしてロゼットの血晶を幾つか送りましょう。
ロゼットの血は、回復を早めますからね。
その分、フェイドから巻き上げて補充…いえ、フェイドが僕へ献上して来る筈です。ええ、きっと。
それにしても・・・当主権限での命令対象に、椿とロゼットを入れてはいけないとは、やりますね。更には、ご丁寧に彼女達へ拒否権まで与えるとは…父上は、どれ程僕を信用していないのでしょうか?
これでは、僕が個人的に椿とロゼットへ逢うことができないではないですか・・・
アダマスの当主になったらしようと思っていたこと、それに釘を刺された形になりますね。
椿に離縁を命じて実家へ戻したり、ロゼットを僕の手許へ置くという僕の目論見を見越しての、先手なのでしょうが・・・
その程度で、僕は引き下がりません。
個人的に逢うことが難しいのなら、公の場で彼女達に逢えばいいのですっ!
幸いなことに、リリアナイトはそろそろ僕の説得に応じてくれそうですからね。
さあ、ロゼットを呼ぶ準備を進めましょう。
side:フェンネル。
読んでくださり、ありがとうございました。
夢魔のヒト、再び登場です。
そして、フェンネルも怪しい動きを・・・




