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また、くだらないことを思い出したな。

 虐待、暴力、流血、その他。不快に思うような表現が多々あります。

「アルちゃん、カーテン開けるよ?」


 断ってから、少し待つ。返事は無い。


「まだ起きない、か・・・」


 カーテンを引いて、ベッドを覗く。

 蒼白な顔で瞳を閉じる少女が眠っている。


「ごめんね、少し触るよ?」


 毛布から腕を取り出し、脈拍を計る。

 一分間に約十回。呼吸も、(かす)かにしかしていない。仮死状態なのか、それに準じる状態。

 二日前、アルちゃんを寝かせた後から、ゆっくりと脈拍、呼吸数が低下して行ってこの状態になった。


 額にあった(あか)い線は、極薄い疵痕(きずあと)になっていて、あまり目立たなくなっている。

 光の加減で、疵痕の皮膚が淡く輝いているように見える程度。じっくりと、近くで観察しないとわからないだろう。

 頭痛がすると疵痕が浮き出るのか、興奮して皮膚の色が紅く変わったのかは、わからない。


 腕を毛布の中に戻す。


 ハッキリ言って、対処の仕様が無い。

 古疵(ふるきず)が痛むというのは、医学的には異常が無いという診断になるので、どうすればいいのかわからない。

 一応、頭部の損傷はデリケートだから、小まめに様子を見て、異変があったらどうにかするしかない。


 こういうとき、歯痒い。

 俺は、医者なのに・・・


 side:ジン。


※※※※※※※※※※※※※※※


 逃げるのに、また失敗した。


「僕から逃げるのなんて、(ゆる)さない。言ってるだろ。なんで判らないかな? これで何度目?」

「っ!?」


 ドン! と、地面に叩き衝けられて息が詰まる。


「馬鹿なの、君は? なんなら、逃げられないよう、その手足を斬り落とそうか?」


 ぐっと、足を踏まれ、掛けられる力。


「っ・・・」


 とうとうバキっ、と足の骨が踏み砕かれた。


「あっ、ぐっ!?!?」

「聞いてるの? 返事くらいしろよ」


 腹を蹴られて、ヤバい感じに血を吐いた。


「っが、はっ・・・!?」


 骨が、内臓に刺さったようだ。


「あれ? やり過ぎた…? もう瀕死?」


 身体が、動かない。

 蹴り転がされて、仰向けにさせられる。


「…これだからひ弱な混血は・・・」


 蔑んだように見下ろす金色の瞳。


「勝手に死ぬなんて、赦さない」


 自分で殴っておいて、殺し掛けて、そんなことを言う。相変わらずのクズっ振りだ。


「今の君には、死ぬ権利も無いんだよ」


 ()じ開けられた口に×××の血が垂らされ、その血が身体の中に這入(はい)って来て、体内を掻き回す。


「ぐっ、がぁっ!?!?!?!?」


 苦しい。傷は治って行く筈なのに、殴られているときよりも、自分の身体が壊れて行く気がする。

 痙攣(けいれん)する身体。


「・・・くっ、ハぁっ!?」


 ×××の血は、混血のわたしには強過ぎるという。使い過ぎると、壊れるのが早まると言っていた。


 壊れる…のは、わたし自身。


 苦痛の中、混血という言葉が頭を巡る。

 (いや)な、言葉だ。

 意識が朦朧(もうろう)としながら・・・「(けが)れた()み子は死ね」という厭な声が脳裏に甦った。


 最悪な気分だ。


 結局、意識は朦朧としながらも、体内が掻き回されるような苦痛で意識が落ちることはなく・・・


「は…ハアっ、ハア・・・は、ぁ・・・っ…」


 荒い呼吸音が耳に付く。


「治るの本当に遅いな。いつまで掛かるんだ?」


 退屈そうな冷たい声が言う。

 誰の、せいだか・・・


 身体の傷は、無くなった。

 無理矢理、治された。


「で、生きてる? 死んでないよね?」


 (しばら)く息を整えて・・・


「・・・わたし…は…あれ? ボク…?」


 軽く、自分がわからないことに気付く。


「君は君だろ。僕と混同するな。気持ち悪い」


 襟首を掴まれて、引き起こされる。

 そう、だ。わたしは、×××じゃない。

 まだ、わたしだ。


 (もっと)も、この『わたし』も、元のわたしじゃないのだろうけど。元の名前もわからない。確たる『わたし』が無い。


 ×××のせいで、わたしは段々壊れて行く。


「・・・混血は、いみご?」


 苦痛の中、ふと思い出したことを訊いてみた。


 この質問に、金色の瞳が呆れ返る。


「は? ああ、忌み子…君は、そういうこと言われたのか? また、くだらないことを思い出したな」


 馬鹿にしたように鼻で(わら)われた。


「? なにが、くだらないの?」

「心底くだらない。そもそも、アークと僕。そして一握りの真祖(しんそ)以外の存在が、既に雑種なんだよ。第二世代以降、誰かから生まれた連中は全員雑種だ。真の意味での純血は、僕らしかいない。僕から言わせれば、他者との交配で生まれている時点で、(すべか)らく混血だ。混ざった後に、近親相姦で幾ら血を濃くしようとも、混ざった血は一つには戻らない。滅びに進んで行くだけだよ。自殺願望だかなんだか・・・そのクセ、他の…弱い混血を蔑む意味がわからない。混血の存在を消したいと、混血は死ねと標榜(ひょうぼう)する馬鹿共は、まず自分から死ねばいい。そうすれば、お望み通り混血が減って行くからね。ああ…ちなみに、僕は、君が混血だから嫌ってるんじゃないよ。君が、君自身であることを嫌ってるんだ」

「わたしが、わたしだから・・・嫌い?」

「そうだよ。君だから嫌い。馬鹿馬鹿しいことに、君はそもそも、生まれる筈が無い。あの連中は、ヴァンパイアの馬鹿共以上に純血とやらを大層に(あが)めているからね。亜種のクセに、自らを純血として崇める愚か者共。そんな馬鹿共が、他種族との混血なんて、生む筈が無いんだよ」


 吐き捨てるような言葉。


「?」


 言われている意味がわからない。

 なら、わたしはなんだというのか・・・


「なのに、君はこうして此処(ここ)()る。君の母親も相当な変り者だね。頭おかしいっていうか・・・君を生んだことで罪人扱いされたんじゃない?」

「っ!」


 胸が、痛い。悔しい。

 わたしの、大好きなヒトを悪く言わないでほしい。今は、その面影も(おぼろ)だけど・・・

 わたしは、彼女を愛している。


「なんだっけ? あの頭悪くて甘ったるいやつ・・・確か…あれだ。アイだのコイだのとやらで君が生まれたんだろ。望まれた結果ってやつ? 望まれることは幸せだってアークは言ってたけど・・・本当に、ローレルも愚かしいことをしたものだよ」


 驚い…た。


「っ・・・よく、わかんない」


 そんなこと、×××が言うなんて・・・


「そう。馬鹿だからね、君は。まあ要は、君が苦しむのは、君を望んだ愚か者共のせいってことだよ。アークを引っ張り出さなければ・・・アークから血を受けたりなんかしなければ、君みたいなひ弱な混血なんて放っといたのに。恨むなら、ローレルを恨め。ああ勿論、僕を直接恨んでも構わないよ。君、弱いし。どうせすぐに死ぬから」


 すぐに死ぬというか・・・


 わたしを殺すのは×××だと思うんだけどな?


 ×××の金色の瞳を見上げる。


「なんだよ?」

「・・・ふふっ…あははっ・・・」


 なんだか、おかしい気分。

 わたしを蔑んで、わたしの大好きなヒトを壊した連中が、×××にとってはわたしと同列扱い。


 ×××には、取るに足りない愚か者共。


 それが、とても滑稽(こっけい)で愉快だ。


「あははははははっ・・・」


 混血としか、わたしを見なかった連中の・・・狂ったような殺意と否定。


 そんな連中より、直接わたしを殴って・・・わたしが嫌いだと直接言う、×××の方が余程マシだ。


 笑えて来る。


「ふふっ、ふははははっ・・・」


 ×××の方が、余程わたし自身(・・・・・)を見ている。


 ああ・・・そう思えるだなんて、×××の言う通り、わたしは馬鹿なのかもしれない。


「は? なに? とうとう本格的に壊れたの?」

「失礼な。わたしを壊してるのは×××でしょ」

「だから聞いてるんだよ。気持ち悪い」


 面倒そうな顔でわたしを見下ろす×××。


「・・・これ以上僕の血使うと本格的にマズいのか? …僕、眷族(けんぞく)(つく)るの嫌いなんだよな。君が死んでもアンデッドにするつもり無いんだから、勝手にくたばるなよ? ×××」


 また、酷いことを言っている。


 本当に最低のクズだな、×××は・・・


 でも・・・


 ×××の言い方はアレだけど・・・

 わたしは、望まれていたらしい。


 ×××は傲慢で、すぐに他人を馬鹿にする。

 けど、嘘や誤魔化しは言わない。


 ×××は、真実そう思っていることを言う。


 事実はどうだかわからない。けど、わたしは、×××に生きていてもいいと言われた気がした。


 うん。あの連中よりは、×××の方がマシだ。


 多分…というか、きっと、わたしを殺すのも×××なのだろうと思っているけど・・・


 side:???。


※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・は、ぁ…」


 ・・・頭が痛い。額が痛む。


 脈拍に合わせて・・・露出した神経を、ガッツンガッツン殴られているような頭痛がする。


 最悪だ。


 まあ、これでも我慢できるレベルの頭痛だけど…


 痛いって、思えるくらいの激痛。


 無論、気分は最悪に悪い。


 怠い…動きたくねー・・・


 なんか、夢を見ていたような気がするけど、頭痛くてそれどころじゃねぇ・・・


「アルちゃん?」


 誰かの、声がする。誰だっけ?


「カーテン開けるよ? 嫌だったら言って」


 勝手にしてくれ。頭が痛い。


「…開けるね?」


 シャッと開かれるカーテン。


「起きてるの? アルちゃん?」


 銀色の髪に眼鏡、白衣の男がなにかを言っている。


「アルちゃん? 頭痛いの?」


 頷く。


「ごめん、少し触るよ?」


 上から伸ばされた手を、思わず掴んで止める。

 厭だ。首を振って拒否する。


「わかった。ごめん。アルちゃんが嫌なら触るのはやめるから、放してくれる?」


 side:アル?

 読んでくださり、ありがとうございました。

 久々のアル?です。小さい頃は、リュースの影響で一人称が「わたし」です。

 イリヤはかなり頭イカれてるクズですけど、偏見はあまり無さそうですね。

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