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手前ぇとの因縁を、ここで終わらせてやる。

 怪我などの痛い表現があります。

 雷を、作り出してはイリヤへ向ける。

 ナイフが蒸発させられては補充し、電撃を(まと)わせてイリヤを追尾する。

 どれだけ消されようと、代わりは幾らでもある。シーフに創らせた刃物をありったけ持って来た。


 長い時間を準備に費やして来た。


 イリヤを殺す。ただその為に。


 千年前に俺の家族を全て奪い、二百年前には(アレク)を連れ去り、手酷く傷付けた糞爺(クソジジイ)

 もう絶対、手前ぇに家族は奪わせない。


 あのヒトには悪いが・・・


 手前ぇとの因縁を、ここで終わらせてやる。

 狂ったお前を、俺が終わらせる。


 緩い癖のある漆黒の髪。瞳孔が縦に長い金色の瞳。どこか高貴さを匂わせる白皙の(おもて)の少年姿。


 イリヤは、あのヒトと全く同じ容姿、同じ瞳、同じ声をしている。そっくりな双子。


 けれど、イリヤはあのヒトとは全く違う表情(かお)、違う眼差し、違う響きの声をしている。


 あのヒトの柔らかい表情。

 イリヤの酷薄な表情。


 あのヒトの優しい眼差し。

 イリヤの冷ややかな眼差し。


 あのヒトのあたたかい声。

 イリヤの薄氷のような刺々しく鋭い声。


 中身がまるで違う。


 あのヒトと同じなのに、全てが違うイリヤ。


 家族を奪われる痛みを、嘆きを、悔しさを、怒りを、やるせなさを、苦しさを、恨みを、虚しさを、絶望を、俺は知っている。


 イリヤに与えられたその全ての感情を、俺は・・・恩人である貴方へと、俺をイリヤから助けてくれた貴方へと、(あだ)で返します。


 もう一人の始祖で、イリヤの双子の兄アーク。


 (ゆる)してくれとは言いません。

 恨んでくれて結構です。

 俺は、貴方の家族であるイリヤを殺します。


 俺は貴方に、謝らない。


 そして――――


 何時間経ったか・・・


 黄昏だった空は、日が沈み切ってもう暗い。

 何百回、何千回と雷を喚び、造り出す。

 空が一瞬だけ真昼のような光を(まばた)かせ、明滅する。


 ナイフを、剣を補充し、イリヤへ向け続ける。


 耳はとっくに馬鹿になっている。

 なにも聴こえない。

 光に(くら)んだ目が痛む。


 絶縁体の装備を纏っているが、それにも限界がある。帯電であちこち皮膚が裂け、血が吹き出す。

 焼けて黒くなった手から煙が上がる。


 火傷は、切傷や裂傷よりも再生の速度が遅い。


 それでも、攻撃の手を止めない。

 何度も何度も。間断(かんだん)無く。

 同じことを、繰り返す。


「ハァ、ハァ・・・」


 呼吸が荒くなる。耳は聴こえないが、自分の鼓動がドクドクと五月蝿(うるさ)くて…身体が熱い。


 奴も、似たような有り様の荒い呼吸。


 俺も奴も、ぼろぼろだな。


 おそらく奴は、俺の自滅か魔力切れを狙っているのだろう。防御に専念している。

 全く仕掛けて来ない。逃げるつもりなのだろう。


 しかし、ここまで来て逃がして堪るか。


 魔力が枯渇しそうになったら、血晶(けっしょう)で補う。自分の血液に魔力を溜めて、長年ストックしていた物を惜しみ無く消費して行く。


 場所は空。

 周囲は分厚い雲が取り囲む。


 俺の攻撃、そしてそれを防ぐべく奴が動くだけで、雲は厚くなり、どんどん帯電して行く。


 俺に有利な状況。

 周囲には、誰もいない。


 スティングかクレアが、奴の胎内へと金属を仕込んだ筈だ。さぞやよく、通電することだろう。


 イリヤを殺す為の舞台は整えた。

 最期まで付き合ってもらう。


 電極には、プラスとマイナスの性質がある。

 そして、プラスとマイナスは惹かれ合う。


 イリヤを攻撃する為に、俺がずっと作り続け、放出させている雷は、マイナスの電極だ。


 そこに、プラスの電極を放出するとどうなるか?


 地面に溜まりに溜まった膨大なプラスの電極が、爆発的なエネルギーを放出させる。


 赤い稲妻。正極性落雷が発生する。


 炎で電気の通り道を作ろうと、無駄だ。全てを貫く赤い稲妻は、イリヤの胎内に仕込んだ金属目掛けて突き進み、その身体を焼き尽くすだろう。


 さあ、終わらせようっ!


「イリヤーーっ!!!」

「―――――っ!?!?!?」


 強い光と衝撃で、なにもわからなくなった・・・


 side:ローレル。


※※※※※※※※※※※※※※※


 肉を採って来て、クレアと意識を取り戻したレオンハルトへ与えてから(しばら)くして・・・


 (まばゆ)く光る赤い樹が、地上と天空を繋いだ。


 遠くで爆音が(とどろ)き、衝撃が空気を伝って大気を強く震わせる。


 赤い雷が落ちた場所へ向かうと、地面にぽっかりと深い穴が空いていた。


 その近くで、全身が焼け焦げて手足を片方ずつ失った意識の無いローレルを回収した。


 かろうじて、息はある。


 あの真祖の行方は不明。


 殺した……そう、思いたい。


 side:スティング。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 ローレルの回です。

 対イリヤ戦。長かったですね・・・

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