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誘拐はさすがにどうかと思うよ?

 主人公気絶中。この話から、キャラの視点がコロコロ変わって行きます。

「お帰りー…って、君達。あのね、幾ら俺らが海賊でも、誘拐はさすがにどうかと思うよ?」


 帰って来た仲間を出迎えると、(さら)われた仲間のカイルをヒューが背負い、そしてミクリヤが気絶している…プラチナブロンドの長い髪を後ろでくくった綺麗な子を、お姫様抱っこしていた。


「これは・・・不可抗力だ。怪我をしているから連れて来た。本人(いわ)く、右腕にヒビが入っているらしい。さっさと診ろ。ジン」


 不機嫌に言うヒュー。


「ヒビ、ねぇ……」


 見れば、その右腕は透明な氷に覆われている。不思議なことに、氷は全く溶ける様子が無い。軽く触れてみるが、冷たいのに水滴が全く付かない。それに、この匂いは・・・


「……この子、もしかして昨夜ゆうべの子か?」


 昨夜、いい匂いをさせていた女の子と、同じ匂いがする。


「昨夜? お前、コイツを知ってンのか? ジン」

「うん。昨夜…っていうか、今日の朝方になるかな? 賞金首を捕まえるって頑張ってた子だよ。女の子なのに大変だろうと思って、手伝ってあげたんだ。勿論、賞金は辞退したよ?」

「・・・いや、別にンなこた聞いてねぇ…って、待てジン。今、なんか聞き捨てならないことを言わなかったか? コイツが、女だとか?」

「うん? どこからどう見ても、可愛い女の子でしょ?」


 光の加減で金色にも銀色にも見える長いプラチナブロンド、白磁はくじの肌に長いまつげ、閉じた瞳は何色なのか・・・整った顔立の、とても綺麗な女の子だ。

 まあ、格好は男装だし、見ようによっては綺麗な顔の美少年に見えないこともないかな? 昨夜はちゃんと顔を見せてくれなかったし。


「おい、雪路……」


 ギロリと、ヒューの飴色の瞳が緑味を帯びてミクリヤを睨み付ける。


「自分は知らん。コイツは、昔からああだったからな。格好もこういう格好で、本当に昔から変わっていない。コイツの性別なんて・・・全く気にしなかったんだよ」


 珍しく苦虫を噛み潰したようなミクリヤ。しかも、口調が素だ。昔から、と言うからには、どうやらミクリヤはこの子を知っているらしい。


「ま、俺の方が君らよりも鼻が利くからね。けど、この子が男じゃないのは確かだよ。で、この子ミクリヤの知合い?」

「幼馴染…のようなものだ」

「なのに、女の子だって知らなかったの?」

「・・・最初に逢ったときは、そんなこと気にする余裕なんか無かったからな。ンで、その後は・・・全く気にしてなかった。つか、コイツの家族とか、兄貴…みたいなヒトが、過保護だった理由が、今少しわかった」

「え? なにミクリヤ、この子と家族ぐるみの付き合いしてたの?」

「家族ぐるみっつーか・・・コイツの姉貴の母親に、昔一時世話になったんだ」

「? この子のお母さんに?」


 それにしては、言い回しが変だ。


「いや、確か腹違いの姉貴だった筈だから、姉貴の母親で間違っていない。姉貴とコイツ、種族自体が違うからな。姉貴とその母親は、大和ヤマトのヒトだ」

「ふーん……それはまた、複雑そうな事情の子なんだね」

「・・・まあな。ところで、うちの子を返してもらえないか? そうすれば、絲音しおんさんに免じて穏便に済ませてやる。さもなくば……殺す」


 会話にいきなり割り込んだのは、低く凄みのあるハスキーな声。そして、いつの間にかミクリヤの背後に大きな人影。少女を抱くミクリヤの首筋にピタリと当てられている匕首あいくち。それまで気配さえ感じなかったのに、薄氷のような鋭い殺気が漂っている。


「なっ!? 誰だっ!!」


 ヒューの問い掛け。とはいえ、ヒューはカイルを背負ったままだ。下手には動けない。そして、俺も動く気はない。このヒト自体は知らないが、この匂いは少し知っている。


「誰だ、とは挨拶だなぁ? うちの可愛い子をさらっといてよぉ?」


 オレンジに近い鮮やかな短い金髪、深緑の瞳。よく日に焼けた二メートル近い巨躯きょく偉丈夫いじょうぶ。大きな身体だというのに、愚鈍ぐどんさは欠片も感じさせない。ニヤリと笑うその口元には、鋭い犬歯が覗く。


「うちの子、ですか? 狼ではない子を」


 このヒトは・・・


「んん? ああ、銀色ンとこのガキか」

「ええ。初めまして、金色の狼」


 人狼どうぞくのヒトだ。スティング・エレイス。金色の毛の狼でもあり、ある意味とても有名な…エレイスを束ねる頭領でもあるヒト。


(おう)。この子はうちの養い子だ。種族は関係無ぇよ」

「・・・ミクリヤ。彼女を渡した方がいい」

「ジンっ!? だったら、せめて手当てくらい」

「ヒュー」


 ヒューの言葉を遮り、首を振る。


「・・・どうもレオンさんが近くいないと思っていたら、あなたでしたか。覚えてはいないと思いますが、お久し振りです」


 ミクリヤが少女を差し出し、スティングへと受け渡す。


「ほう……愚息ぐそくを知ってンのか? ま、残念ながら俺の方はお前を覚えてはねぇな。だが、口振りからすると・・・昔世話したガキの一人ってとこか?」


 スティングは匕首を構えたまま片腕で器用に少女を抱えると、片手で匕首をさやへと納めながら言う。


「ええ。その節は大変お世話になりました。感謝しています」

「……ミクリヤ、知り合い?」

「まあな。昔、捕まっていた地下闘技場から助けてもらったんだ。つか、そこでアルと知り合ったというか・・・」

「ああ…そんなこともあったな」

「いや、待って! 地下闘技場って、この子が? そんな場所にいた子なんですか? この子は」

「いやぁ、昔……クズな身内に嵌められてちょっとな? この子助けるついでに、人外のガキ共を捕らえて地下闘技場で闘わせる組織を潰したことがあったな」

「……なんというか、色々と突っ込みどころ満載な話なんですが、その子は一体?」

「ん? 俺の可愛い娘だ」


 ニヤリと笑うスティング。


「それに・・・そうだな? うちに武器提供をしているダイヤ商会の株主。よかったなぁ? 俺が近くにいなければ、この子を取り戻す為に、エレイスが総出で手前ぇらを潰しに来てたぜ?」


 ざわりと、寒くなる背筋。エレイスの名は、始末屋としても有名だ。


「なっ!?」


 しかし、


「…んだとっ…ダイヤ商会の従業員どころか、株主だとっ!?!? 経営者じゃねぇかっ!!」


 喜色の滲む驚きの声を上げるヒュー。全く、見境の無い刀剣マニアめ。


「いんや、株持たされてンなぁ、身内のコネ……というか、ままみてぇなモンだからな。この子は、経営にはあまり関わってねぇよ」

「・・・この子は、お嬢様ということでしょうか?」

「そうなンじゃねぇか? 俺らの養い子で、エレイスのお得意先の株をやり取りできる奴が身内にいる。条件だけを見ると、充分にお嬢様だろ?」

「・・・それを俺らへ告げて、なにをさせたいんですか? 貴方は」

「ククッ……察しのいい奴は嫌いじゃねぇぜ?」


 クツクツと低く笑うスティング。


 side:ジン。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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