ロゼットを保護することを提言します。
引き続きシスコン、ヤンデレ注意。
「リリアナイト。いい加減にしてください」
こちらを見詰める赤毛の少女を見下ろします。
「いい加減に、とはどういう意味でしょうか?」
にこりと甘やかな声が問い掛けます。
「僕はロゼットに逢いたいのです」
「フェンネル様のお気持ちは、大変よくわかりますわ。わたくしも、アレク様にお逢いしたいのです」
「・・・腹芸は結構。率直にお訊ねします。あなたは、今回のことを、どこまで知っているのですか?」
「どこまで、とは?」
にこりと首を傾げるリリアナイトの、アクアマリンの瞳をじっと見詰めます。そして、
「子殺しの始祖が、活動を再開したそうです」
昨日手に入れた情報を明かします。裏も取りましたからね。確実な情報です。
「そう、でしたか……」
驚きに見開くアクアマリン。どうやら、リリアナイトには知らされていなかったようですね。
「ええ。これで父上の意図がわかりました」
リリアナイトに、僕を軟禁させている理由。そして、クレアさんやハルトの不可解な行動の理由も、おおよそ理解できました。
一番危険なのは、彼の方の直系である父上と僕。父上は、それで僕をアダマス本邸から隔離したのでしょう。
「ロゼットも、本当は家出ではないのでしょう」
子殺しの始祖。そう称されるあの方は、基本的に混血の方は放置する傾向にありますが、それも絶対にという保証があるワケではない。
父上は、彼の方を憎んでおいでですから・・・
打てる手は全て打つつもりなのでしょうね。
僕がリリアナイトの船にいるとなると・・・椿達が一番危険なのではないでしょうか?
いえ、あのヘタレ野郎…アクセルのブライト家は、船を有していた筈です。
あのヘタレが、椿と子供達が危険に晒されている状況を看過するとは思えませんからね。
海上…それも、既に国外へ出ている可能性が高い。
あのヘタレ野郎は、殺したい程に嫌いではありますが、それなりに評価もしています。
僕が狙っているというのに、簡単には殺させてくれないのですから、ね・・・危機察知能力が高い。
そして、自分が死んでも椿と子供達を守るという気概を持ち合せているようなので、嫌いではありますが、そこは評価に値します。
ロゼットとフェイドは・・・
あの二人は、その存在を秘匿されています。
アダマスを名乗ることを許されていない。
アダマスの家の跡継ぎだと公表している僕や、他家へ…ブライトへと嫁いだ椿とは違って、まだその存在を知られていない。
そう、思いたいのですが・・・
「ロゼットを保護することを提言します」
「アレク様を保護、ですか・・・」
リリアナイトが、口元へ手を当て思案します。
「ええ。海上の、人魚であるあなたの船の中ならば安全でしょう? リリアナイト」
「・・・フェンネル様。それはもうアレク様へ打診致しましたが、却下されてしまいました。わたくしの船は、アダマスの金融業の施設の一環。アレク様は、アダマス系列の施設への滞在を、ローレル様より禁じられているそうなのです」
父上・・・徹底していますね。
そんなに僕とロゼットを逢わせたくないのでしょうか? 僕個人の有する敷地には、ロゼットの方が立ち入りを禁止されていますし・・・
昔、あの子を軟禁して危うく殺し掛けた場所など、跡形も無く破壊されましたからね。
僕達が逢える場所は、アダマス本邸とリリアナイトの船、そしてエレイスの家と、それに準じる機密性の高い施設。それ以外では、僕は個人的にロゼットと接触すること自体が許されていないのです。
しかも、ハルトやリリアナイト、フェイド、椿の監視下においての接触のみ、ですからね。
「シーフさんは、どうなのでしょう?」
「フェイドのことも心配ではありますが・・・あの子は鍛冶師ですからね。今の状況では、とても重要な存在になるでしょう。下手に動かすことは、できません」
まあ、あの子は大丈夫・・・だと思いたいですね。
「ところで、リリアナイト。お茶にしませんか?」
では、リリアナイトを説得しに掛かりましょう。
ロゼットを、この船へ保護する方向へと。
リリアナイトも、ロゼットへ逢いたいでしょうからね・・・今のこの状況ならば、おそらく父上を出し抜くことも可能でしょう。
今は目障りなハルトも、なにを考えているのかわからないフェイドも、動けません。
僕は、ハルトとフェイドがロゼットに触れるのは少しだけ不愉快で嫌なのですが、あなたは女性ですからね? リリアナイト。
ロゼットは、女性を愛でることを好むのです。だから、あなたはロゼットのオマケとして、僕の視界に入れてあげても構わないと思っているのです。
「宜しいですわ。フェンネル様」
アクアマリンの瞳が、挑むように僕を見据えます。
さあ、リリアナイト。
あなたを説き伏せてみせましょう。
ロゼットへ逢う為に。
side:フェンネル。
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