身の程を知れよ。犬が。
流血、暴力などの痛い表現あり。
久々の戦闘シーンです。
わかり難かったらすみません。
匂いを覚える。獲物を追う為に。
どこか知っているような気がする・・・
けれど、知らない匂いを。
「なあ、親父。この匂い・・・」
「そりゃあ、似てて当然だ。奴は、ローレル達の先祖だぜ? 似てねぇ方がおかしいだろ」
「そう、か・・・」
ローレルさんやフェンネル。そして・・・アルと、似たような匂い。
これを、追って狩る。
side:レオンハルト。
※※※※※※※※※※※※※※※
やっぱり、高い場所に行くべきか・・・
一応、飛んでないからセーフ…かな?
まあ、歩いて行けばOKだろう。
とはいえ、僕もどこに行きたいのか自分でもわかってないんだけど。
けど、さすがに原野は飽きた。
ただっ広いだけでなにも無いし。
だから、移動しようと思ったら・・・
なにかが、こちらへ向かって来る気配がする。
高速で移動するそれに気付いた瞬間、
「全く・・・」
ブォンっ! と空気を斬り裂く音と共に、横合いから刃が通ろうとする。僕の首を、刈るような軌道で。その肉厚な二振りの刃を、指先で摘まんで止める。
「チッ…」
回転しながら左右で長さの違う曲刀を振るい、それを僕に止められて舌打ちをしたのは、二メートル近くある巨躯の男。
「またか? 犬が」
掴んで止めた刃。その刃越しに、
「ハッ、久しいな? 真祖の」
僕を見下ろしてニヤリと笑う大きな男。その口元から覗くのは鋭い犬歯。
この狼は、ローレルの相棒だ。
「ホント、しつこいな? 弱いクセに」
僕が起きる度に追って来る。
そして、愚かにも僕を狩ろうとしているらしい。
形勢が不利になると直ぐに逃げ出し、体勢が整えばまた追って来る。
それを、何度繰り返したかわからない程だ。
「尻尾巻いて逃げ出せば、追わないでやるよ」
随分と昔に・・・アークが「他の種族をなるべくは殺さないでよ、イリヤ」そう、悲しそうな顔で言ったから。
「そう言うなって。もう少し遊んでくれよ? 手前ぇが死ねば、追い回すのは終わるんだ」
「身の程を知れよ。犬が」
「ハッ、手前ぇこそ、とっととくたばりやがれ」
ぐっと上から剣を押す狼。
瞬間、背中にトンと走った衝撃。
「っ…」
とろりと熱い液体が流れ出る感触。
背中に刺されたのは、三角錐の形状の物。その特殊な刃の形状からして、刺突に特化した短剣…スティレットのようだ。
背後から忍び寄って来たもう一人が、スティレットを更に奥まで捩じ込もうと力を籠めて強く押す。おそらくは、僕の心臓を貫く為に。
「…痛いな」
しかし、それを途中で止める。胎内の血液を硬化して、浅い位置の、皮膚の下で。
そして、流れ出た血液を操る。
「レオンっ!?」
スティレットに纏わり付かせた真紅の液体で、その剣を持つ手を、ザクリと刻む。
「っ!?」
慌ててスティレットを手放し、退るもう一人。
「ふぅん……挟み撃ちってやつ。子供いたんだ君」
匂い的に、親族の若い狼。共に大きな身体。色味は少し違うが、顔や纏うその雰囲気も、二人はとても似通っている。
「まあ、なっ!」
狼の長い足が、僕の腹を狙って動く。仕方ないので、両手に掴んだ剣を放して横合いへ跳ぶ。と、
「手前ぇ相手に油断するような、愚息でなっ!」
軽口と共に長さの違う剣が振るわれる。
「僕に向かって来るような愚かな犬を親に持つからね? 仕方ないんじゃない?」
鋭く空を切り裂く剣を避けながら背中に浅く刺さったスティレットを引き抜き、
「ハハッ、そりゃあ耳が痛ぇ」
若い狼に投げ付け、牽制。弾かれたスティレットが明後日の方向へ飛んで行った。
「だが、手前ぇに歯向かう勇気はなかなかだろ?」
確かに。僕を攻撃するモノはなかなかいない。ほぼ、ローレルとこの狼達だけだ。
「なら、その蛮勇に死ね」
両手の人差指、中指、薬指の爪を三本ぐっと伸ばし、硬化。片手で狼の剣を受け止める。そして、反対の手を狼に向かって突き刺そうとした、瞬間――――
「っ! …へぇ、いい剣だね」
狼の短い方の剣に、爪が両断された。
「鍛冶師の腕が良くて、なっ?」
ピキリ、と剣を受け止めた方の爪にヒビが入る。もう一度、斬られた方の爪を伸ばしながら、親指で人差指を軽く切り、血を流して爪に纏わせて硬化。カキン! と、狼の剣を弾く。
「ったく、狡くねぇか? それ」
両手の爪に血を纏わせ、硬く血晶化。
「二対一は、どうなんだ?」
背後からの若い狼の剣をいなす。こちらは、同じ長さの片刃の双剣。
「そんなの、ハンデにもなりゃしねぇだろ?」
「弱い奴らに集られて、ウザいだけだね」
「いやぁ、悪ぃな? 寄って集って、漸く手前ぇと斬り結べる程度でよぉ?」
「弱い奴はさっさと消え失せろ」
「いやいや、消えンな手前ぇの方で頼むぜ」
軽口を叩きながらも、常に狼の両手はフル稼働。斬撃が一切止まらない。それに、無言で剣を振るう若い狼。合わせて四振りの斬撃が続く。
その剣が、腕や頬を徐々に掠めて来ている。
直ぐに治るけど、細かい痛みが鬱陶しい。
ああもう、コイツら…燃やそうかな?
けど…ピンポイントで燃やせる程、コイツら遅くないんだよなぁ。この狼共を確実に仕留めようと思ったら、この原野ごとの広範囲になるだろう。
無闇に火災を発生させるなって、昔アークが言ってたしなぁ・・・火災って、延焼させるのは簡単だけど、消すのは案外難しいんだよね。
消火するには気温を低下させるか、無酸素状態にするか・・・けど、そうすると無関係な動植物を全滅させることになるし・・・
昔、環境破壊はするなって怒られたから、それは却下。
環境を壊さずにコイツらを壊す方法・・・
「っと、本当にいい剣だな」
何合も剣を受け止めているうちに、硬化させた血液にピシッと小さなヒビが入って来た。
「応。鍛冶師に言っておく、さっ!」
狼の気合いと共にパキっ! と、爪が折られる。その跳ねた血晶の欠片を、轟と一瞬の高温で燃やし尽くす。この方法なら、延焼はしない。
「くっ!?」
業火に怯んだ若い狼がバッと退る。
「馬鹿っ、退るなっ!?」
狼の警告。そして、
「ふっ…」
退った若い狼に追撃。風の刃で全身を刻む。
「ぐっ!?」
パッと飛び散る鮮血。けど、耐刃装備なのか、あまり斬れていない。狼はこの程度じゃ死なないからなぁ。殺すなら、もっと徹底的に刻まないと。
「あんまり、虐めてくれるな、よっ!」
狼が、僕へ仕掛ける。
片手の爪は折れたままだ。爪に纏わせていた血晶を、咄嗟に手の甲へ。
ガギン! と、片方は爪で。もう片方は、手の甲で受け止める。重い衝撃に手が痺れた。が、それも直ぐに治る。
「ハッ、一対多数の場合、弱い奴から潰して行くのはセオリーだろ?」
「ったく、手前ぇと殺り合ってると、自信喪失するぜ。全くよぉ・・・」
そう言う狼の口元には、獰猛な笑みが浮かぶ。
「なら、尻尾巻けよ。追わないでやるからさ」
「そうも行かなくてな?」
この狼は本っ当に、しつこいんだ。
さっさと追っ払わないと、数日間に渡って斬り合う羽目になる。しかも、不眠不休で、だ。
ローレルと二人になると、連携が心底ウザい。
だから・・・弱い方を狙おう。
さっき、飛んで行った物を使う。
斬り飛ばされた爪を引き寄せ、若い狼の足へと飛ばして、その太腿へと突き刺す。
「くっ…」
「止まるなっ!?」
再び狼の警告。だが、遅い。
「っ!?!?」
ガクンと崩れ落ちる若い狼。その背骨には、彼の得物だったスティレットが深々と突き刺さる。僕の血が付いた物だ。当然、動かせる。
脊椎を狙った。
故に、剣を抜かない限り、その足は動かない筈。
「さて、刻もうか。どうする? 犬」
足の動かない若い狼を、彼自身が流した血液を刃にしてザクザクと刻んで行く。
狼は、自己治癒力が高い。だけど、その自己再生を上回る程のダメージを与えるか、造血の速度以上に失血させ続ければいずれは死ぬ。
殺すのなんて、簡単だ。
「クソっ・・・」
狼が血の刃の中へと飛び込み、その身を刻まれながらも、若い狼を担いで撤退して行った。
逃げるなら追うつもりはない。
これで暫くは追って来ないだろう。
side:イリヤ。
※※※※※※※※※※※※※※※
「・・・ぅ…」
身体が、重い。
「起きたか、愚息」
低い声がした。親父の声が、遠い。
「・・・怠ぃ」
フラフラするが、どうにか身を起す。
「そりゃ当然だろ。あンだけ派手に血ぃ流しゃあな? 貧血。ンで、脊椎損傷」
貧血・・・は、初めてだな。
アルは、いつもこんなに怠い思いをしていたのか・・・今度から、もう少し労るとしよう。
トン、と地面にスティレットが突き刺さる。
「エグいぜ。おそらくピンポイントで脊柱を潰しやがった。刺さってる間は、神経が再生できねぇからな? 下半身が動かなくなるってぇワケだ」
「・・・奴、は?」
「ああ、奴ぁヴァンパイアや吸血鬼以外にゃ案外寛容でな? 向かって来る奴は叩き潰すが、逃げる奴を追ってまでは殺さねぇンだよ」
「そう、か・・・」
くらりと目眩がする。
「おら、さっさと食え」
ぽんと、脚を縛られた兎が三匹放られた。
「動けるようンなったら、また行くぞ」
「わかった」
次はもう少し、足手まといにならないようにしなくては・・・奴を、狩る為に。
あんな奴に、アルを殺させて堪るか。
絶対に、そんなことはさせない。
死んでも・・・アルを守る。
兎へと牙を突き立て、その肉を喰らう。
さっさと回復して、少しでも早く、奴を追わなくては・・・
side:レオンハルト。
読んでくださり、ありがとうございました。
イリヤvsスティングとレオでした。
レオがボッコボコにされてます。
今回のは、挨拶とレオのイリヤ戦の初陣。
スティングとレオは、回復次第イリヤの追撃を再開して、付かず離れず追い続けます。




