表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/179

OK、ひゆう。悪ぃな?

 怪我の痛い表現があります。

「っ・・・」

「ん? どうかしたか?」

「・・・いえ、そろそろ出ませんか?」

「? そうだな」

「じゃあ、先に出ていてください」

「アル君は?」

「ちょっとやることがあるからね」

「やること? 手伝おうか?」

「いや、いいよ。あれ集めるだけだから」

「あれって、あの灰?」

「そ。討伐証明に必要だからね。ンで、復活…は、多分できないと思うけど、念の為にある程度の処置はしとかないといけないから」

「復活すんのか? あれが?」


 怪訝な顔をするヒュー。


「一応、ヴァンパイアの特性はその不死性ですからね。雑魚(ザコ)でも、死体の一部が多少なりとも残っていて、尚且なおかつ高位のヴァンパイアが復活を望めば、できなくはないですし」


 あまり知られてはいないが、人格が更にぶっ壊れていてもいいなら、主人でないヴァンパイアでも復活させることができる。使う魔力などが半端なく必要なので、できるヒト自体が非常に少ないが。


「へぇ……」

「ま、そんな物好きはなかなかいないでしょうけど」

「そうなのか?」

「ええ。ヴァンパイアは自身の血族や、気に入ったモノ以外には、基本的に無関心ですからね。偏向的、偏愛気質のモノが多く、享楽的」

「お前、ヴァンパイアの生態に詳しいな」


 そりゃあ。ハーフとはいえ、一応オレもヴァンパイアだ。むしろ、知らない方が問題だろう。まあ、吸血鬼はメジャーな割に、本物のヴァンパイアの生態は驚く程に知られていないが・・・


 太陽光や十字架、白木の杭、聖句、聖水、ニンニク、流水などは、アンデッド系の吸血鬼の弱点として有名だが、真祖しんそやその血筋に近い、生きているヴァンパイアの弱点ではない。というか、真祖には明確な弱点があまり無いというのが近いか。

 まあ、真祖系統のヴァンパイアの絶対数が少ないから・・・というか、アンデッド系の吸血鬼がメジャーになる程に創り出されていることの方が、余程問題だな。


 ヴァンパイアって、割とクズとか性格破綻者が多いというか・・・それでいて無駄に能力が高いから始末に終えない。

 ホンっト、そんな愚か者のクズ共は、灰も残さず滅びればいいと思う。心から……


「はぁ・・・」

「どうした?」

「いえ。お気になさらず」


 腕が痛いだけだ。ああもう、この二人早くどっか行ってくれないかな?

 段々と痛くなって来たし。早く、応急処置がしたい。というか、これ多分……尺骨しゃっこつにヒビくらい入ってるかも。筋も傷めたし。


 オレ、怪我の治り遅いんだよなぁ・・・

 ヒビなら、治るまでに一週間から十日くらいはかかるし。治癒速度はせいぜい人間の二、三倍くらいの早さ。純血のヒト達みたく、パパッとは治らない。しばらくの間、右腕は使い物にならないだろうな。


 ま、橈骨とうこつじゃないのが幸いか。橈骨ヤったら、腕を動かすのもかなり大変だし。


 貧血や吐き気がする程の痛みではないし、いつもの…あの頭痛(・・)程に酷くはない。このくらいの痛みなら、まだ我慢できる。


「・・・アル君、アル君」

「ん? っ!?!?」


 ちょんと軽く突つかれた右腕に走る激痛。息が詰まる。痛みに、サッと血が下がる感覚がした。


「ああ、やっぱりな。すっげぇ、一気に真っ青ンなった。アル、お前痩せ我慢し過ぎ。おい、ひゆう。アルの腕、最悪折れてンぞ?」

「っっ・・・」

「この馬鹿がっ! 怪我してンならちゃんと言えっ!!」

「それ、お前が言うか? 怪我させた張本人が」


 怒鳴るヒューを、醒めた目で見て呆れた口調の雪君。


「それ、は・・・」

「つかよ、ひゆう。手前ぇ多分、敵認定されてンだよ」

「敵・・・」

「当たり前ぇだろ。にこやかに話してても、腹のうちまでそうだとは限らねぇ。特にコイツ…アルは、一見そうでもないが、実は警戒心が強い」

「っ・・・ヒトが、痛みに悶えているときに、べらべらと・・・余計なことを言わないでもらいたいんだが? お喋りな猫が」


 じっとりと雪君を睨み付ける。と、


「勝手、か? 本当のことだろ。それ、処置しないのか? それとも、自分がやってやろうか?」


 オレの右腕をじっと見詰める猫の瞳。


「……折れて、ない。せいぜいヒビだ」


 仕方無いので、応急処置をすることにする。大気中の水蒸気を集め、服の上から右腕にまとわせて凝固。凍り付かせて冷やす。氷のギプスと言ったところか。


「はぁ・・・」


 とりあえずは、これで感覚…痛覚がにぶるまでの間を、我慢すればいい。


「って、自分で応急処置ができるならなんでさっさとやらなかったっ!?」


 またもや怒鳴るヒュー。


「・・・見ず知らずの、それも、いきなり攻撃して来るようなヒトに、手の内を晒すのが嫌だっただけですが。なにか文句がお有りで?」


 ぐっとヒューが黙る。


「ま、油断してたオレも悪いけど・・・」


 と、彼女だった灰を左の手のひらの中へ寄せる。そして、ぐっと圧縮。灰を石のように固める。これが討伐証明になる。

 後はこれをエレイスの出張所へ提出して、償金を受け取るだけ。彼女がどの血族の系統か調べるのは、エレイスに任せよう。


「ではこれで、失礼します」


 そうして、部屋から出ようとしたとき――――


「・・・雪路。捕まえろ」


 低い、不機嫌な声が言った。そして、


「OK、ひゆう。悪ぃな? アル」


 ふっと首筋に温かい手が触れ、意識が・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ