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言いたくなかった。追い出されると困るから。

「・・・お前、趣味悪過ぎ。最悪だな」

「そう? いいヒトだよ? あのヒト」

「どこが」

「オレに優しいからね」

「なんか企んでンじゃねぇのかよ、あの野郎」

「さぁ?」

「バカなんじゃねぇか? お前」

「ヒドいな、雪君は」


 甲板に気配がすると思って出て来たら、アルと雪路(ゆきじ)が話していた。


 少し落ち着いたようだが、雪路が殺気立っている。まあ、最近の…クラウドが来てからの雪路は、臨戦態勢でずっとピリピリしていたからな・・・


 それより、


「起きたのか、アル」


 そろそろ一週間振り…くらいになるか? に、見るアルは元気そうだ。


 前みたいにまた、表面上元気そうに見せているだけ、なのかもしれないが・・・


「ええ。おはようございます」

「大丈夫か? 頭」

「・・・はい」

「今、返事に間があったよな? 前みたく無理してンじゃねぇだろうな? アル」


 じっとアルを見下ろすと、


「ヒュー、その言い方はなかなか失礼だから」


 窘めるような声がした。ジンも出て来たのか。


「あ? なにがだよ?」

「ヒュー、君。頭大丈夫?」

「・・・喧嘩売ってンのか? ジン」

「君がアルちゃんに言ったんだよ」


 呆れたようにジンが言った。


「あ…ぁ~、すまん。アル」

「いえ」

「アルちゃん、頭痛大丈夫?」

「・・・それ、誰が?」


 チラリと雪路を見やる翡翠。


「…クラウド。と、自分だ」


 ぼそりと呟く雪路。


「ふぅん……」

「なんか、すごい頭痛持ちなんだってね」

「まあ・・・そうですね」


 じっと雪路を見やる翡翠。


「っ…お前の秘密主義はわかってっけどっ、仕方ねぇだろっ! ヒューがやらかした頃だよっ!」

「あぁ、あれか・・・」


 低い声が呟いた。


 あの件については・・・非常に肩身が狭い。


「アルちゃんは、小さい頃に頭を怪我したのかもしれないって聞いたんだけど、その後遺症…なんだよね? 酷い頭痛は」

「そんなことまで話したのかよ? オレに黙って」


 低いアルト。


「お前が話さねぇから、コイツらが自分とこ聞きに来ンだよ、アル。勝手に話されンのがそんな嫌なら、手前ぇで話しやがれ」


 不機嫌な雪路の言葉に、苦い顔をするアル。


「・・・」


 そして、額を押さえて深い溜め息。白い手がぐしゃりと前髪を掻き回し、顔を上げたその翡翠の瞳は、完全に据わっていた。


「……ぁぁ、そうだな。クソっ・・・オレは小さい頃に誘拐されて、変態野郎に半月程連れ回されたらしい。挙げ句、頭かち割られたんだとよ。更に言えば、その間にかなり酷く虐待されたようでな? 上からの手が、未だに怖い。その後遺症で、今も頭痛に悩まされてる。記憶も、ところどころ抜け落ちてるしな?」


 ヤケクソのような言葉。


「オレだってな、自分になにがあったかなんて、知らねぇンだよ。全部後から聞いたことだ。これで満足したかよ?」


「「「・・・」」」


 自嘲の混じる低いアルトの声に、沈黙が落ちる。


「・・・頭痛は、酷い。理性が飛ぶ。痛みにのたうち回って自傷しないよう、意識を刈り取られるくらいだ。知っての通り、オレは薬が効かねぇ体質だからな。激痛で意識を取り戻すと、また気絶させられる。肉体的ダメージでの気絶を、オレの体力が尽きるか、頭痛が我慢できる程度に鎮まるまでずっとだ。それが何度も何度も繰り返される」


 溜め息混じりの、疲れたような声が続ける。


「・・・悪かったな。黙ってて。言いたくなかった。追い出されると困るから」

「この、馬鹿がっ!!!! 誰が追い出すかっ!?」


 思わずアルを怒鳴っていた。


「?」


 不思議そうに瞬く、銀の浮かぶ翡翠。


「ねぇ、アルちゃん。俺達にずっと黙ってて、もしその酷い頭痛を起こしたら、どうするつもりだったの?」


 ジンが柔らかく聞いた。


「寝れば、いいと…思って。酷くなる前に。数ヶ月とか、年単位で。その間は、仮死状態になるから」

「それ、試したことあるの? 大丈夫だっていう保証はちゃんとあるのかな?」

「・・・」

「無さそうだね。全く、この子は・・・」


 ジンの深い溜め息。


「いいか、アル! お前はもう、うちの仲間だ! 船乗りは、乗組員が家族なんだ! その家族を、面倒だからって見捨てるワケねぇだろうがっ!」

「? ・・・世のハーフは、家族に殺されることが多い。だから、それは間違っている」


 低いアルトが、不思議そうに否定した。


「っ…それはっ・・・そう、だが…」


 ああ・・・コイツは本当に、そういう場所で生きて来たのか。生きるのが、困難な場所で・・・


 溜め息を吐いて、アルに告げる。

 俺が、言わなかったことを。


「俺も混血ってやつだ。お前とは少し違うがな? 悪鬼羅刹、悪神やら災厄を(もたら)すモノ達。俺はそんな西域のごちゃ混ぜの血統でな。人間も混ざっている。だから勝手に、お前に親近感を持っていた。混血の生き難さは、俺も知っているからな」


 人間が混ざっているというだけで、既に色々と混ざっている筈の、ごちゃ混ぜの連中達が暮らす集落の中でも、半端者扱いを受けた。


「そう、なんだ……」


 俺を見る翡翠に、嫌悪や侮り、嘲りは一切無い。これまでと変わらない、真っ直ぐな視線。


「・・・だから、俺はお前を、絶対に見捨てないっ! 俺を信頼しろとは言わねぇ。けどな、利用してやるってのでもいいから、もっと俺達を頼れよ!」

「スティングさん達だって、君とは血の繋りが無い筈だよ? それを君は、父さん、母さんって呼んでいるよね? レオンハルト達を、家族だって思っている。違うかな? アルちゃん」

「寄せ集めでも、血が繋がってなくても、ある程度一緒にいりゃ縁ってモンができンだよ。ボケ」


 雪路が乱暴に言う。


「なにそれ? 暴論じゃね?」

お前が(・・・)それを言うのかよ?アル」


 交錯する猫の瞳と翡翠。孤児の雪路と、血の繋がらない狼達に育てられたアル。


「・・・確かに。オレが(・・・)それを否定するのは間違ってる、か。・・・なんか、疲れた。少し寝る。(しばら)く起こすな」


 溜め息と共に逸らされる翡翠。(きびす)を返し、部屋へと向かう白金の頭に呼び掛ける。


「おい、アル」


 ひらりと挙げられる片手。


「ああ、そうだ。手前ぇ、覚えとけよ? 口の軽い猫が。後でぶん殴ってやる」

「ハッ、上等だ。いつでもかかって来いよ、アル」


 どこか吹っ切れたようにサッパリしたアルトに、雪路がニヤリと好戦的に返す。


 そして、アルが部屋に戻り・・・


「・・・あれじゃあ、目を離せなくなるワケだよ。スティングさんやレオンハルト達が過保護なんじゃなくてさ?」


 ジンが口を開いた。


「誘拐されて戻って来た子供の親が過保護というか、心配性になるのは判るんだけど・・・さすがに結婚か幽閉の強要はね? どうかと思うよ」

「ああ、そういうことになる。のか…?」

「だと思うよ? スティングさんは、個人的にはアルちゃんの味方だけど、結婚自体を悪い話だとは思っていないと言っていたからね。心配は心配。だけど、アルちゃんがそれを嫌がって、自分で動くなら、動向を見守る…的な?」

「で、自分達はアルの実家側からすりゃ、そんなを娘を誘拐した連中ってことになンじゃねーの?」

「・・・それでも、俺はアルの味方をする」

「ま、いいんじゃね? それで」

「うん。女の子に無理強いはよくないしさ」

「あ~あ、後でアルに殴られる」

「お前が黙って殴られンのか? 雪路」

「まあな。さすがに、一発くらい殴られとかなきゃ駄目だろ? 手前ぇらのせいだからな」

「というか、女の子と殴り合いができる君の神経が信じられないよ。ミクリヤ」

「あ? 強くなりてぇ奴には、男とか女とか関係無ぇだろ。むしろ、差別する方が失礼だ」

「俺にはできない考え方だね」

「考え方はヒトそれぞれだろ」

「そうなんだけどね?」

「ところで、クラウドの奴は?」

「クラウド君なら、君が出て来る前に出てったよ。ミクリヤとアルちゃんが口論する前に、ね」

「・・・見てたのかよ?」

「まあ、ね・・・」


 side:ヒュー。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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