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そっか。ありがとう、妖精君。

 百合注意継続中。

 初っ端から、ある意味イチャイチャです。

「・・・ってことがあってね? 人魚ちゃんに、乗船の許可をもらったの」


 オレが寝てる間のことを聞かせるルー。


「でね、見られちゃったの。アルのこれ」


 四つ程ボタンが外され、シャツがガッツリはだけたオレの胸にむにっと触れる濃い蜜色の指先。心臓の上…谷間付近に刻まれている真紅の痣が、ふにふにとつつかれる。


 これは、ヴァンパイアが獲物や格下の者へと刻み付け、それが自分のモノだと周囲へ主張する証。

 そしてこの、月桂樹ローレルの葉に囲まれたダイヤモンドのマークは、父上の所有印だ。


 オレが、父上のモノだという証。


 あまり好きではないが・・・


 万が一、父上や兄さん以外の、他の純血種のヴァンパイアや、それに準ずるふるい吸血鬼に捕まったときの保険だそうだ。

 父上は、真祖の直系の純血で最高位に近いヴァンパイア。そんなヴァンパイアの所有物に手を出して不興を買うなど、愚か者の所行。死にたくなければ、手出し無用というワケだ。


 好きじゃないから外してくれとは言えない。


 けれど、この(しるし)が父上の所有物だと知っていて尚、手を出して来るような輩もいる。そういう輩は大概、厄介な連中だ。


「・・・見られたの? アマラに?」

「うん。ごめんね?」

「・・・」


 だから、これを見た奴は消せと言われている。


「あ、でもね、人魚ちゃんは、これがヴァンパイアの所有印ということは知っていたけど、誰の徴かまでは判っていないから。忘れさせた方がいいかと思って確認したけど、チラッとしか見てないみたいだし、知らないなら別にいいかと思って」

「・・・アマラに、忘れさせることは可能?」

「勿論。アルが、それで安心するなら」


 じゃあ、それは後で考えるとして・・・


「で、いつまで触ってんの?」


 さわさわと、いつの間にか胸が撫でられている。


「え? アルの胸、柔らかいなぁって思って♥️成長してくれて嬉しいっ♪だ・か・ら、もっと大きくするの、手伝おうかなぁって♥️」

「ははっ、ヤだな? ルー」


 オレは基本、強いヒトは敬う。


 クラウド…ルーは、かなりふるいヒトだろうと、出逢ったときから当たりを付けている。


 おそらくは父上と並ぶか、それ以上に・・・


 が、それとこれとは別だ。


 第一、胸なぞ要らん。あっても邪魔なだけだ。動きが鈍る。オレ的には養母かあさんくらいの小さめサイズが動き易いと思うし。


「・・・(クラウド)なら、蹴倒してるとこだよ? 幾ら貴方でも、ね?」


 旧くて相当に強い筈だが、こんなことを言えるくらいには、このヒトと気安い。まあ、実行しても、多分笑って許してくれるだろう。

 それくらいには仲が良いと思っている。

 逢っている時間自体は、そんなに多くない筈なのに・・・なぜか、こうも慕わしい。

 このヒトにとても愛されていることを、感じる。


 とは言え、さすがにクラウドならこんな風にベタベタはさせないし、今はルーだから蹴らないけど。


「だから、あたしなんじゃない」


 にこりとルーが微笑む。


「・・・オレより、貴方の方が胸大きいよね?」

「自分の胸を自分で触ってもたのしくないっ!」


 オレよりもサイズの大きい胸を張ってキッパリと断言する彼女。その胸がふるんと揺れる。


「そうですか・・・」

「揉む?」

「いや・・・あのね、ルー」


 言いつつ、彼女の手をやんわりと掴む。と、


「ふふっ、相変わらず女の子に甘いのね?」


 逆にするりと絡み付いた濃い蜜色の腕にぎゅっと抱き締められる。体温の高い柔らかな身体が密着し、チュッと頬へ当たるリップ音と柔らかい感触。


「女の子扱いしてくれて嬉しいわ、アル♥️」

「そう」

「それでね・・・」


 ルーがまた、話し始める。


 side:アル。


※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・誰? そのヒト。アルの兄弟? それとも、シーフのお姉さんとか?」


 なんか、僕が寝ている間に船が移動してるし、知らないヒトが増えている。そして、なぜかミクリヤさんがやけにピリピリしてる。ちょっと、怖いくらいに。


 僕が寝てる間に一体なにが?


「ハァイ♪あたしはルーよ」


 ひらりと濃い蜜色の手を振り、妖艶な笑顔を見せる女のヒト。なんとなくシーフに似た容姿。癖のある長い黒髪に、金色の混ざる不思議な紫の瞳。ジプシー系の、セクシーなお姉さんと言った感じだろうか。


「え~と…僕はカイル」

「ふふっ、よろしくね? 妖精君」


 パチンと流し目でウインク。


 なんだろ、この過剰な色気は・・・


「…よろしく?」

「しなくていいっ!? いいか、カイル。絶対あの野郎に近付くなよ! 絶対に触るな! 喰われるぞ!」


 喰われる? なにそれ?


「猫君ヒド~いっ! まるであたしが悪いヒトみたいじゃない? それに、あたしは子供には手を出さないって決めてるのにっ……」

「うっせぇ、クラウド! その気色悪ぃ喋り方も今すぐやめやがれっ!」

「え? ミクリヤさん?」

「ヒドいな? こんな美女を邪険にしなくてもいいじゃないか? 全く・・・」


 キャピキャピしていた喋り方と雰囲気が落ち着き、憂いを帯びた溜息が零れる。


「…クラウド、って? ミクリヤさん」

「あ? そこの女装野郎だ」


 ミクリヤさんがものすっごく嫌そうに、僕にルーと名乗った彼女を顎で差す。


 ・・・女装野郎?


「・・・もしかして、アマラと同類ってこと?」


 格好は男装だけど?


「ふんっ……」

「う~ん・・・仕方ないなぁ」


 困ったような声が、低くなる。そして、


「お、男になったっ!?」


 顔や身長はあまり変わらず、身体付きがさっと変わった。女らしい丸みを帯びた身体がスラリと細い少年へと、あっという間の変身。・・・僕よりも…そして、ミクリヤさんよりも少しだけ背が高い。


「やあ、俺はクラウド。男のときはクラウド、女のときはルーって呼んでほしいな」


 クスリと笑みを含んだ艶やかな声が言う。


 すごい! すごいけど、なんかこう・・・反応に困る感じのヒトだと思う。とても。


「で、手前ぇはなんでまだ、いやがンだ?」

「アルが心配だから」


 さらっとした言葉に、ミクリヤさんが黙る。


「・・・」

「? アルがどうかしたの?」

「うん。少し体調を崩したみたい。今、寝てるんだ」

「大丈夫なの?」

「そうだねぇ・・・しばらく寝てれば治るかな。だから、そっとしておいてあげてくれる?」

「わかった」

「ありがとう」


 シーフが来たときみたいな感じかな? あのときも、何日間も寝ていたみたいだし。


「・・・クラウドは、アルとミクリヤさんの知り合いなの?」

「まあね。猫君とアルとは・・・とある場所で知り合ったんだ。見ての通り、猫君には嫌われていてね? でも、あの子とは友達だよ。仲良しって言ってもいいかな。で、俺はアルの婚約者候補ってやつ?」

「へ、え?」


 あれ? なんか今、かなり重要なことをさらっと言わなかった? このヒト・・・


「え~と? 今、なんて?」

「ん? 俺はアルの婚約者候補ってやつ?」

「・・・アルの、身内のヒト?」


 シーフが言っていた。アルの婚約者のヒト達は、ほとんどが身内なのだと。

 だから、アルはそれを嫌がって家出中って・・・


「いや、俺は・・・アルの弟君の、ものすご~~く遠い親戚みたいなモノ、かな? 俺自体はヴァンパイアでもないしさ。血が遠過ぎるから、もうほぼ他人と言えるんじゃないかな」

「へぇ・・・」

「多分、あの子の結婚相手として、一番条件がいいのは俺だと思うんだけどねぇ?」

「? アルと結婚したいの? クラウドは」

「いや? それを決めるのはあの子だからね。俺の方からはなんとも言えない、かな?」

「ふ~ん……」

「仲の良い友達だよ。とても大事な、ね」


 金の混じる紫が優しく微笑む。


「ミクリヤさんは? なんでクラウドが嫌いなの?」

「そこの淫魔は、触るだけで他人を廃人にすることができる、マインド・クラッシャーなんだよ。コイツがそんな危険物だと知っていて、平気な顔で仲良くできるアルが異常なんだ」

「え・・・」


 淫魔の、マインド・クラッシャーで、危険物・・・なんか、すっごく危ないヒトなんじゃ・・・


「ま、アルは俺の貴重な友達になるねぇ?」


 にこりと微笑む…ミクリヤさん曰く、淫魔のマインドクラッシャーことクラウド…


 アルって、一体・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


 それから三日程。


 ヒューとジンからは遠巻きに、ミクリヤさんからは酷く毛嫌いされているクラウド。

 しかし、本人はとても飄々(ひょうひょう)としている。その様子からは、全く堪えている感じがしない。


「はい、これ。食べて」

「これは……いいの?」


 僕の手渡した包みを開けて驚くクラウド。中身はサンドウィッチだ。簡単な物だけどね。


 こっそりと作って持って来た。


 一応、ミクリヤさんには内緒で・・・まあ、多分バレてるだろうけど。


「お腹空いてるんじゃない?」


 ミクリヤさんは、クラウドにご飯をあげてない。というか、クラウドが食堂に来ていない。

 甲板や廊下、船の中をふらふら歩いている姿を見掛けるが、僕が知る限りでは全く食事をしていない。姿が見えないときはアルの部屋にいるようだし。


「ふふっ、心配してくれてありがとう。君はいい子だね。俺はあんまり食べ物を摂る必要はないんだけどね? これはありがたく頂くとするよ」


 にこりと微笑むクラウド。


「? ご飯、要らないの?」

「食べ物はあんまり、ね。食べ物で栄養となると、生の果物とか植物…花なんかかなぁ」

「へぇ…花、食べるの?」

「食べるというよりはエナジードレインだね。枯らすんだよ。精気を奪ってね」

「あ、アルもそんな感じだよ。よく、生鮮食品だとか、偶にわざわざ花を買って枯らしてたりする」


 勿体無いって言った覚えがある。薔薇とか、束で買うと結構な値段するのにさ?


「そう。アルは、楽しそうにしてる? ここで」

「う~ん・・・わかんない」


 ヒューがやらかしちゃったこととかあるし・・・あれは、僕も気まずかったなぁ。ミクリヤさんに叱られたし。


「そっか。ありがとう、妖精君」

「カイルでいいのに」


 クラウドは、なぜかアル以外の名前を呼ばない。


「ふふっ、俺はね、魅了の力が強いんだ。魅了耐性が低い子には、名前を呼ぶだけで魅了が掛かる」

「・・・マジで?」

「そう。マジで」

「…? アルは? なんで?」

「あの子は、あれでもヴァンパイアだからね。魅了や支配への耐性が高いんだよ」

「ふ~ん…」


 なんだか、クラウドも大変そうだ。


 でも、わかったことが一つ。クラウドは、誰彼構わず魅了を掛けてしまうことを嫌っているようだ。


 ミクリヤさんが毛嫌いする程、悪いヒトじゃないと思うんだけどな? クラウドはさ?


 まあ、淫魔っていうのはなんかこう…ちょっとアレな感じなんだけどさ・・・?


 話してみると、普通にいいヒトだ。


 side:カイル。


※※※※※※※※※※※※※※※


「あの妖精の子、可愛くていい子ね?」

「そうだね。カイルは可愛い」


 そして、いい子だ。うんうんと頷く。


「ふふっ、やっぱりアルとは趣味が合うな」


 クスリとルーが楽しげに笑う。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 ルー(クラウド)がアルが寝てる間の話を聞かせています。アルに絡みながら・・・

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