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・・・説明、してもらおうじゃない。

 百合注意。

「うわ…悪女だね。君は。」直後の話です。

「ん…ふ、ぅ・・・はぁ…」


 甘く熱い吐息と、濡れた音が部屋に響く。


「は、ぁ…アル♥️・・・ん…」


 濃い蜜色の肌を晒した半裸の女が、意識の無い白い少女の両手に指を絡めて押さえ付け、上に乗って一方的にその唇を貪っていた。


「なにをしているっ!」


 思わずカッとなって、白い少女を引き寄せる。


 この船の中はアタシの領域テリトリーだ。その中に在るモノは、アタシの手許へ引き寄せることができる。


 腕の中に引き寄せた白い少女…小娘は、服がはだけて胸元があらわになっている。

 下着は脱がされていない。よかった。青白い顔の口元が淫魔の唾液で汚されていて、なんとも言えない。

 そんな姿をなるべく見ないように、シーツも引き寄せて小娘をパッとくるみ、腕の中に抱き寄せる。


 ぐったりとしていて、やはり意識が無い。

 濡れた顔をそっとシーツで拭う。


 そして、込み上げる怒りのまま、ベッドの上の半裸の女を強く睨み付ける。


「ふふっ、いけない子ね? 婚約者同士の逢瀬を邪魔するなんて。悪い子」


 ぺろりと自分の唇を舐めて笑う色気過剰の女が、気怠げに裸の胸を片腕で覆い隠す。


「どっちが? 意識の無い小娘を一方的に犯そうとする淫魔の邪魔をすることが、悪いことか?」

「ヤだな? 勘違いはしないでほしい。本番はしないから、女になっているんだよ。あたしは上を脱いでるけど、アルの服は、脱がせてはいないだろう? 悪いけど、その子のことを本当に心配しているなら、邪魔をしないでくれないか?」


 片手を挙げ、敵対の意志が無いことを女が示す。茶化すような口調が改まった。


 確かに、淫魔は半裸だけど、アルはまだ服を着ている。シャツは全開だったけど、パンツはそのまま。ベルトも外されてはいない。靴脱がされて、裸足ではあるけど・・・


「なにを言っている?」

「君がアルを心配しているのはわかってる。だけど、今邪魔される方が、アルの為にならない」


 金の混じる紫の瞳があたしを見詰める。その瞳に巫山戯ふざけた色は無い。欲情の色も、だ。溢れる色気とは裏腹に、その感情は()いでいるようだ。


「どういう意味だ」


 低く、問い掛ける。


「単刀直入に言う。その子が不眠気味なのは?」


 冷静な声が聞く。


「・・・知っている」


 アルがあまり寝ていないことは知っていた。

 夜には出掛け、戻るのは夜中から朝方にかけて。そして少し部屋に戻り、また出て、ミクリヤのいる食堂に入り浸り。

 昼間は起きていて、夜も起きている。

 一体何時(いつ)寝ているんだ? とは、思っていた。


 そんな小娘にガタが来たのは、ヒューがやらかした後だ。アルの頭を撫でようとして、おそらくは小娘のトラウマを刺激した。

 あの後から、小娘の調子が格段に悪くなった。


 小娘の弟を名乗るイフリートのガキが来て、また持ち直していたようだが、最近になって、また小娘の様子がおかしくなって来ていた。


 なにがあったかは知らないが、手紙一枚寄越して後に数日間音信不通で、相当酷い…不細工なかおをして帰って来たことは記憶に新しい。


 最近また、物騒な貌をしていて・・・


「弟君が、アルを強制的に寝かせたことは?」

「知っている」

「俺のも、そういうこと。というか、俺のは、もう少し踏み込んだことだね。悪夢を食べるんだ」

「淫魔じゃ、なかったのか?」

「知らない? 淫魔は夢魔の一種なんだよ」


 種族を偽っていた、ということか・・・


 いや、嘘ではない。と、言っている。

 事実を一部、伏せていただけ。

 明かしたのは、このヒトなりの誠意か? けど、


「襲う必要は?」

「キスは身体を繋げる代わり。肌の接触が多いと、精神を繋ぎ易いからね。唾液は眠りを付与し続ける為と、あたしがアルに潜り易くする為。体液を使うのが手っ取り早くて馴染ませ易い。そういう風に見えるだけで、襲ってはいないよ。あたしとこの子の付き合いは、割と長いからね。この子が小さいときから、この子の悪夢を食べているんだ」

「小さい、頃から・・・?」


 腕の中の小娘を見下ろす。


「そう。そして、その悪夢の原因が、最近活動を再開してね。それで俺は、この子の様子を見に来たんだ」

「悪夢の、原因?」


 トラウマを植え付けた相手か?


「案の定、アルの具合が悪いというワケだ。忘れさせるから、アルを渡してくれないか?」


 濃い蜜色の手が差し出される。アルを渡せと。


「・・・アルの、許可は?」

「必要無い。むしろ、それを思い出させることの方が、アルの自我を危うくする」

「・・・後で、ちゃんと説明しなさいよね」


 しば逡巡しゅんじゅんし、アルを渡すことにする。


「ありがとう」

「・・・っ」


 ほっとしたように優しく微笑む淫魔…夢魔に、なにも言えなくなって、小娘の部屋を後にする。


 だって、仕方ないじゃない。


 思い出すと自我を危うくさせる程のトラウマなんて、思い出さない方がいいに決まっている。


※※※※※※※※※※※※※※※


 船を沖に向けてから数時間後。


 船底のアタシの部屋がノックされた。


「どうぞ」

「ハァイ♥️人魚ちゃん」


 入って来たのは、色気過剰の…淫魔を名乗っていた、夢魔だ。


 今はちゃんと服を着ている。


「・・・アルは?」

「寝てるわ。安定させたから大丈夫よ。暫くは起きないでしょうけど」

「・・・どれくらい?」

「最低でも一週間、かしら?」

「追っ手というのは、アルのトラウマの原因?」

「ええ。可能な限り、接触を避け続けるのが無難ね。そうじゃないと、命も危ないから」

「・・・説明、してもらおうじゃない」


 金の混じる紫を睨み付ける。


「困ったわねぇ・・・」

「・・・アルの胸元の紅い(あざ)。あれって、ヴァンパイアの所有印なんじゃないの?」

「へぇ……見たんだ? アルの胸元。谷間。人魚ちゃん、そんな格好してるけど、男の子なのに? ああ、違うか。やっぱり男の子、だったのねぇ……」


 男と繰り返し、ドレス姿のアタシを冷ややかに見やる視線に、慌てて口を開く。


「目に入ったのっ! 別にあたしだって見たくて見たワケじゃないわよ! 不可抗力…よね?」


 見てないわよ? チラッとしかっ!

 パッと、紅い色があったんだもの。

 白く、滑らかな肌に・・・っ!?


「だ、だってあれ、シャツがほぼ全開だったんだもの…っていうか、アンタのせいでしょうがっ!! アタシ悪くないわよ! それにアンタだって男でしょ!」

「今は女よ? 正真正銘の、ね」

「・・・なに? 喧嘩売ってンの?アンタ……」

「いーえ、全く?」


 ムカつくわね。でも、話が進まないから、アタシが大人の対応をしてやろうじゃない。


「・・・ところで、その追っ手っていうのは、その所有印を付けた相手なのかしら? 確か、ヴァンパイアやら吸血鬼は、所有印を付けた相手を粘着ストーカーの如く追い回すのよね?」

「・・・まあ、そうかもしれないわねぇ・・・」


 遠い目をする夢魔。


かく、アルが目を覚ますまであたしの滞在を認めてほしいわね」

「? ・・・小娘が目を覚ますまで? その後、アンタはどうするのよ?」

「ん~・・・考え中、かしら? ほら、あたしって猫君にものすっご~く嫌われてるじゃない?」

「ああ、ミクリヤ・・・アンタ、ミクリヤになんかしたの?」

「猫君本人になにかというワケじゃなくて・・・」


 すっと夢魔の姿が少年へと変わる。


「目の前で何人か壊したから、かな? あと、この姿で小さいときのアルにディープキスとか? あ、勿論軽めだよ? あの頃のアルは、まだ小さかったからね。けど、そのせいで俺、猫君にはショタ野郎だと思われたらしくてさ? 猫君、ずっとアルのこと男の子だと思ってたからねぇ? というか、アルもアルでずっと訂正しなかったみたいだしさ」


 若干低くなった声が言う。


「俺はむしろ、幼児趣味は嫌いなんだけどねぇ?」

「・・・まあ、なんとなくわかったわ」


 自称淫魔…それも、マインド・クラッシャーだとか言われてる危ない奴が、小さい子供にディープキスとかすりゃ、滅茶苦茶嫌われて当然だわ。


「つか、小娘も小娘で、よくアンタを受け入れたわね? 頭おかしいんじゃないの?」

「そこは俺の人徳、かな?」

「無いからミクリヤに嫌われてンでしょ」

「じゃあ、アルの懐の深さってやつ? あの子、小さい頃から無駄に漢前だったからねぇ」

「ああ、なんかそれわかるわ」


 こうして、夢魔とアタシは話し合った。


 side:アマラ。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 久々のアマラです。どういうことなのか話をしようとアルの部屋へ向かったら・・・初っ端から濡れ場っぽい感じ。

 今回もアマラの男が出てましたね。

 アルが寝てる間の話でした。

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