だから、オレによくしてくれたの? 貴方は。
百合注意継続中。
前回よりも百合百合してます。
・・・夢を、見た気がする。
穏やかで安らかな、優しい夢。
そして、とても懐かしい。
けれど、なにかを失くした気もする。
いや、なにかを忘れた・・・のか?
なにかが抜け落ちた、ような・・・
「あら? おはよう、アル」
艶やかな声。熱い手が頬に触れ、
「ん…」
柔らかく熱い唇が落ちる。
「…なんで、貴方が? ルー…」
目を開くと、目の前には深いアメトリン。
天井を背に、艶やかにオレを見下ろす妖艶な美貌。
「ん、ふ…約束、したから」
チュッと落とされる唇。
愛されている。そう、伝わるキス。
「大きくなったら・・・もっといいこと、しようって。ね、アル?」
彼女の輪郭が変わる。柔らかく、熱い唇がちょっとだけ硬く、匂い立つような妖艶さの、丸みを帯びた身体付きがスラリとシャープな体型に。艶やかな声が少し低く、少年の姿へと。
「…クラウド」
「ふふっ、久し振りだね? アル」
微笑む彼に、唇や頬、顎、鼻、瞼をチュッ、チュッと軽く啄まれる。
「ねぇ、アル? どっちがいい?」
「・・・んじゃ、ルーで」
「ん、わかったわ」
そしてまた、彼から彼女へと。硬さを帯びた身体が、柔らかさと丸みを帯びて女性らしく変わる。
「相変わらず、不思議な生態で」
彼はクラウド。彼女はルー。現実で会うことが多いのはクラウド。夢に忍んで来るのがルー。
クラウドは彼女であり、ルーは彼。
正真正銘の同一個体。
夢の中でも、この性転換を見たことがある。
そのときは服装まで変わってたけど、さすがに現実では服装は変わらないらしい。
「ん…だって、女の子が好きなんでしょ?」
「女の子は好きだよ? 男が好きじゃないだけ」
「ふふっ…具合はどう? 気分は悪くない?」
「んー・・・悪くないと思う。けど、状況がわからない。なんで、貴方がいる? ルー」
「あなたに、逢いに♥️それじゃ、ダメ?」
「・・・ルー。なんで貴方が、オレの婚約者候補に? 貴方は、父上と知り合いだったの? クラウド」
その名前が挙がったときから、ずっと疑問だった。なんでクラウドが? って。
「ふふっ、そう。実は、お知り合いなの。君の婚約者候補に挙がるくらいの、ね?」
「それは知らなかったな」
「ええ。言ってないもの」
見下ろす深いアメトリンを覗き込む。
「だから、オレによくしてくれたの? 貴方は」
「あなたが、可愛いから♥️好きよ? アル」
クスリと笑みを含んだ艶やかな声。
「それはどうも。でもさ」
「ん…なぁに? アル」
落とされる唇の熱。
「貴方の感情を伝えるのは、ズルくない?」
「イヤ?」
「心地よいことは心地よいんだけどね?」
彼女の感情が、キスで伝えられる。
彼女の感情を、共有させられる。
愛している、好きだ、という感情が。
そして、慈しみの感情。
ただの友情程度には収まらない・・・なぜか、とても深過ぎる愛情。
「貴方の感情につられる」
オレの感情ではない、彼女のオレへの愛情。
愛されるのは心地よい。
「流されてくれないの?」
愛されるのは、とても気分がいい。けど・・・
「うん」
「それは残念。淫魔の手なんだけどな? 相手に自分の感情を伝えて、愛し合うのはね」
「…でも、貴方のはどちらかというと…」
「?」
感情が複雑だ。オレを好きだという、そしてそれが深い愛情なのは確実に間違いない。
けれど、愛情に…様々な感情が混ざっている。同情、友情、憐れみ、懐古、罪悪感、それから・・・
母親や・・・
「・・・養母さんの愛情にも、似てる」
母性、のような慈しみの感情。
恋情、は含まれていないように思う。
「ふふっ、ちょっと伝え過ぎたかな? 君に干渉し過ぎたみたい。俺の感情、駄々洩れ?」
「さあ? 思考はわからないよ」
「そう。じゃあ、可愛い娘に、ご飯」
「んっ・・・」
触れるだけだった口付けが、段々深くなる。
とろりと甘く、濃厚な精気が流れ込んで来る。
絡め取られるようなキス。
「・・・は、ぁ…ん…む・・・」
「ん、ふ・・・」
ヤバいな。気持ち悦い・・・
さすが淫魔。
side:アル。
※※※※※※※※※※※※※※※
「は、ぁ…ハァ…ハァ…」
「ん…ふふっ、可愛い♥️」
くちゅりと、絡めていた舌を解放して唇を離す。口の端から垂れた唾液を舐め取り、涙の滲んだ目尻へと口付けて涙を啜る。
とろりと潤んだ翡翠が可愛い♪
「あぁ、可愛い♥️ん、ふ…」
チュッと唇に触れる。
「どう? 俺の精気、美味しい? アル」
「・・・なんか、色々とダメになりそう…」
上気した白い頬。ぷいと恥ずかしそうに逸らされる翡翠。小さな声が言う。
「まだまだ序の口だよ?」
「吸血耽溺症って、あんな感じか?」
「ふふっ、淫魔とのセックスはそんなモノじゃないよ。もっともっと、気持ち悦くなれる。最高の快楽♥欲しい?」
耳元に囁く。
「遠慮させてください。本気で」
「まだキスしかしてないのに?」
「キスでも充分過ぎる」
「ふふっ、可愛い♥️…ねぇ、アル。ダメ?」
かぷりと、耳朶を甘噛み。
「ルー…貴方の方が、その気が無いだろう?」
溜息混じりのアルトが言う。
「あれ? 判るんだ?」
「そりゃあね。これだけ愛情を伝えてくれれば」
好き。愛している。という、俺の感情が、アルから返される。
「・・・驚いた」
「なにが?」
「俺の、君への感情に」
「?」
銀の瞳孔が浮かぶ翡翠が、不思議そうに瞬く。
「複雑過ぎる」
アークに少し似た君への懐かしさ。
友情やら、同情、憐れみ。
昔にイリヤを止めていればという罪悪感と悔恨。
可愛い君への好意と愛情。
君を救ったことが正しかったのかという葛藤。
「なに? 自分でもわかってなかったの?」
「自分のことは自分が一番わからないものだよ」
白い頬を撫でて、アルの上から身を起こす。
「アル」
「?」
手を差し出し、アルの身を起こす。
「愛してる」
「? ありがとう?」
「君はね、頭痛を起こしたんだ」
というより、おそらくはイリヤに呼ばれた…が、正解なんだろうけど。
「・・・そう」
溜息と共に、白い手が額を押さえる。
疵痕の残る額を。
「…ごめん。迷惑、掛けた…よね」
「大丈夫。君が暴れる前に寝かせたから」
「そっか…ごめん。ありがと。ルー」
謝るのは俺の方だ。
もっと、早く君に逢うべきだった。
だから・・・
「君に俺の血をあげる」
「ルー?」
ぷつりと、爪で指先の皮膚を破る。
ぽたりとその血が落ちる前に、
「ほら、血晶化」
「あ、うん」
アルに俺の血を血晶へと変えさせる。
そして、血晶へと強力な眠りを付与。
アルへと差し出す。
「はい。あげる。これは、君にも効く強力な睡眠薬になる。頭痛のときに飲むといい」
「え? ・・・媚薬とかじゃないよね?」
「ふふっ、君が媚薬がいいって言うなら、媚薬にしてもいいよ? 君にも効く、すっごい媚薬♥欲しい? アル♥」
「や、それは丁重にお断りさせて頂く」
「そう? まあ、いいけど。これはね、正真正銘、強力な睡眠薬だよ。夢も見ないで、死んだように眠れる。ただ、非常に強力だからね。即効性で、数日は目を覚ませない。酷く無防備になるから、飲む場所は考えてから飲んでね? 痛み止めや薬の効かない君へ。あげる」
「ありがとう、と言うべきなんだろうけど・・・ルー。貴方は、どこまで知っている?」
銀の浮かぶ翡翠が、俺を見詰める。
「君のことは大体、かな? アレクシア・ロゼット・アダマス」
彼女の名前を、囁く。秘匿された、その名前を。
「いつから?」
「君が、俺を認識する前から」
君がイリヤに殺されたときから。離れ掛けた君のその魂を繋ぎ留めたのは俺だ。
「そっか・・・わかった。ありがとう」
「それと、ね、アル」
「?」
「俺、実は夢魔なんだ」
「・・・淫魔っていうのは?」
「淫魔は夢魔の一種だから。嘘じゃない」
「本当のこと、でもないけど?」
「うん」
君がよく使う手だね。アル。
「・・・道理で。夢に、ね」
「ごめんね? 黙ってて」
「・・・いい。父上の差し金?」
「一応、君とあそこで逢ったのは偶然。あんなところにいる筈の無い君を見て、驚いた。思わず、ローレルはなにしてるんだって、言いたくなったよ」
「・・・父上を呼び捨てにできる関係、か」
「まあね」
呼び捨てどころか、実際は俺の方がすっご~~~く年上で、あの子呼ばわりしているんだけどね?
side:夢魔。
読んでくださり、ありがとうございました。
百合好きの方、お待たせ致しました。
リリよりも絡んでますが…ぬるいですかね?




