うわ…悪女だね。君は。
百合注意。
「これでよし」
「・・・見事な手際で追い払ったね。一応聞くけど、行くつもりあるの? 君は」
とりあえず聞いてみた、という感じの狼の子。
「ふふっ…後で覚えていたら、ね?」
「絶対行かないパターンだ」
「大丈夫。やっぱり怖くなっちゃって・・・ごめんなさい。とでも言っとけば、きっと簡単に許してくれるから。彼」
あの馬の子は、復讐さえ絡まなければ、基本的には女好きで陽気な…割と頭が残念な子だし。
それに、あの馬の子は、いるだけでアルの機嫌とか神経をささくれさせる。ぶっちゃけ、非常に邪魔だ。今はできるだけ、アルへの悪影響は遠ざけるに限る。
「うわ…悪女だね。君は」
「茶番だな。それで、手前ぇはいつまでそうやってアルを抱えてる気だ? いい加減放しやがれ」
「ふふっ、イ・ヤ♥️」
「クラウド・・・」
低くなる声。じわりと高まる殺気。そこへ、
「ところで、君。シーフ君と少し似ているけど、アルちゃんの兄弟だったりするの?」
狼の子の疑問。
「そうねぇ? 兄弟というか・・・遠い親戚って感じかしら? アルの弟君の、お祖母ちゃんのお祖母ちゃんのお祖母ちゃん辺り……とかで、繋がってたりするかもしれないわ♪」
確か、アルの弟君はイフリータの子だ。
俺は、イフリータ…イフリートの更に上位種の、イーブリースだとも言える。
イーブリースというのは、太古の悪霊だとか堕天使だとか謂われているモノだ。
イフリートやその下位種のジーニーなんかを生み出した存在だと謂われている。
まあ、あれだ。彼らは俺が昔生んだ子供とか、愛した女が生んだ子供達の、更に子孫ってやつ?
永く生きてるだけあって、俺ってば、実は結構な子沢山なんだよね。
因って俺は、彼らの始祖に当たる。
悪霊だとか堕天使というのは、人間が勝手に言っているだけだ。とは言え、正確には、俺も俺がなんなのかは判っていなかったりする。
ただ、遥かな昔。おそらくは、生物が夢というモノを見始めた頃から俺は存在している。
俺は、夢を揺蕩っていた。
まあ、俺が俺という自我を得たのはそれから大分後のことになるんだけどね。
だから、俺は自分を夢魔だと思っている。
そんな俺はきっと、アークとイリヤよりも旧い存在だろう。
「それってもう、ほぼ他人なんじゃ…?」
「そうとも言うわねぇ?」
「・・・それで、本題に入るけど、君はアルちゃんの味方…ってことでいいのかな?」
「ああ。それは明確に断言しよう。俺はアルの味方だよ。多分、誰よりも、ね」
おそらくはアル本人よりも、だ。アルの自由意志よりも、アルの生命を優先させると決めた。
それは、本当は正しくはないかもしれないが。
「だから、いい加減アルを休ませてあげたいのよねぇ? 部屋に案内してくれないかしら?」
まあ、本当は部屋の場所は判っているんだけど。押し通ると後が面倒だ。
案内させる方が、印象が悪くならない。
「君がアルちゃんを、問答無用で連れて行かないのは、君なりの誠意ってこと?」
「そうとってもらって、構わないわ」
※※※※※※※※※※※※※※※
というワケで、猫の子の説得に時間は掛かったけど、アルの部屋に来た。
ベッドにそっとアルを横たえて、靴を脱がせ、服を寛げたんだけど・・・ねぇ、アル。少し、武器を仕込み過ぎじゃないかな? 君は。
白い胸元に浮かぶのは真紅の痣。ヴァンパイアの所有印。これはあの子…ローレルの徴か。
「へぇ……ローレルも、なかなか面白いことをする」
髪留めを外して、白金の髪をサラリと流す。
これで準備はOK。さて、アル。
君の精神に這入らせてもらおう。
まあ、俺は役得だけど・・・
這入るのは、女の方がいいよね。
君は、女の子が好きだから。侵入者…俺に対するハードルが低くなる。
君を壊さないように、ね?
精神に潜るなら身体を繋げる方が効率はいいんだけど、それは合意の上ですることだからね?
それは、君に許可を得てから。
でも、これは・・・
「アレクシア・ロゼット」
俺は君の意志を無視させてもらう。
「ごめん、ね?」
無防備に眠るアル。
その白い手へ指を絡ませて繋ぎ、反対の手を滑らかな頬へ添え、上を向かせてそっと口付ける。
最初は触れるだけの口付けで柔らかい唇をふにふにと啄む。
「ん・・・ふ、ふっ…可愛い♥️」
悪いとは思うけど、アル。
俺も君を好きなんだ。
だから、イリヤには渡さない。
俺は君の精神を侵す。
思い出しかけた君の悪夢を・・・
イリヤの記憶を、沈めてあげる。
「忘れさせて、あげるから・・・ね?」
ゆっくりと口付けを深め、アルの精神に潜る。
side:夢魔。
読んでくださり、ありがとうございました。
夢魔のヒトに関する淫魔、イーブリース云々…あれこれは、書いてる奴の独自解釈です。
次回も百合注意です。




