実は、あたし…この子の婚約者候補なの♥
不快に思うような表現があります。
そして、百合注意。
う~ん。
猫の子のせいで警戒されちゃったな?
狼と鬼の子とは話ができそうだったのに。
困ったな?
さっさとこの場所を離れた方がいいんだけどな。
アルの為にさ。
「なんで手前ぇがここにいる? クラウド」
相変わらず敵意剥き出しだな? 猫の子は。
まあ、あそこにいたから仕方ないんだけどねぇ?
幻獣の子供達を売買していた人間の組織。
あそこ、子供達の扱いが大分酷かったから。あまりに虐待とかする悪い奴を、ムカついて軽~く廃人にした…かな? 何名かくらい。
実は、壊すだけなら触れる必要は無いんだよね。俺は、視線を合わせるだけでその相手の精神を侵すことができるから。
壊した人数は覚えてないけど・・・
さすがに、年端も行かない子供達に性的虐待だとか、サンドバッグ扱いはねぇ? そんなこと、赦せなかったから。
俺、可愛い子が好きだし。小さい子や可愛い子が酷い目に遭うとか、大嫌いなんだ。
というか、虐待をする奴に、された側の記憶を流し込んだら、軽く壊れちゃっただけだしさ?
自分がされたら壊れてしまうようなことを他人にするなんて、間違っていると思う。
「アルに、なにをする気だ?」
「実は、あたし…この子の婚約者候補なの♥」
ぽっと頬を染めて見せる。恥ずかしげに。
「は?」
「え?」
「嘘だろ・・・」
三者三様の驚き。
「あら、嘘じゃないのよ?」
まあ、俺も、アルの記憶をざっと見て、さっき知ったんだけど。
イリヤが動いて・・・この子の父親…ローレル。あの子も、形振り構ってられない感じかな?
一応、ローレルの目論見通り、イリヤからちゃんとアルを守るつもりだけどね。
「・・・アルを、連れて行く気か?」
鬼の子の瞳が剣呑に光る。
「いいえ? そんなつもりは無いわ。というか、アルはあたしか・・・アルの弟君と結婚すれば、今までと同じように暮らせると思うの。自分で言うのもなんだけど、あたし。アルにとっては、かなり理想的な相手だと思うのよねぇ?」
イリヤから守ってあげられるし、アルの頭痛も悪夢も不眠も、夢魔の俺なら対処可能。
「性別、年齢、体型から容姿に至るまで、自由自在に変えられるし? 趣味も合うし、女の子同士でイチャイチャ♥とか? あたしも割と好きだし・・・まあ、無理強いは嫌いだから、嫌がられたら絶対にしないけど」
あれ? なんか俺、本当に条件がいいな。
ま、あくまでもそれはこの子次第だけど。
「女の子同士って・・・アルちゃんには、やっぱりそういう系の趣味が・・・?」
眉を寄せる狼の子。
「ふふっ、ナ・イ・ショ♥」
というかまぁ、この子は元々、種族特性で女の子が好きなんだよねぇ。男女問わず可愛い子が好きっていうのは、アル本人の趣味みたいだけど。
俺とは同好の士ってやつ?
「そういうワケで、アルに逢いに来たの。そしたら、丁度アルの様子がおかしくて。頭痛が始まると厄介だから寝かせただけよ?」
嘘だけどね?
アルの様子がおかしいことを見越して逢いに来たし、俺はその理由も知っている。
その辺りの事情を、彼らに話すつもりが無いだけ。
でも、少しだけホントのことを混ぜる。
狼と鬼の子は、俺の話を聞く態勢。猫の子はまだ警戒しているけど、迷い始めた。
馬の子は・・・まあ、今この場で静かにしてくれればいいや。後で話を付けよう。
「・・・ミクリヤが、アルちゃんの頭痛は強制的に寝かせることくらいしか、対処法を知らないって言ってたけど?」
「ええ。だから、強制的に寝かせたの」
「どうやって?」
猫の子の鋭い声に、
「キスで♥あたしは淫魔よ? 夢をプレゼントするなんて、容易いこと…だから♥」
頬を染めて恥ずかしげな顔を作って答える。頬を染めたり、軽い演技は気分だ。特に意味は無い。
一応、淫魔というのは嘘じゃない。俺は淫魔の大元の、夢魔なんだから。
夢魔から枝分かれして、淫夢や吸精に特化したモノ達が淫魔という種族に成った。
だから、夢魔も淫魔のようなことができる。というか、淫夢や吸精に特化した淫魔は、夢魔よりもできることが少なくなったというべきかな?
最近じゃ、女淫魔と男淫魔とに性別が分かれちゃったりだとか。昔は両性具有が当たり前だったんだけどねぇ?
今は、そういう子や、性別を自在に変えられる子なんかも、非常に減って来ている。
まあ、それもそれで面白いからいいと思うけど。
「・・・一応、聞くけど……どんな夢かな? それは」
狼の子が、葛藤しつつ言う。淫魔のプレゼントする夢だから、心配みたいだ。
「安心して? えっちぃ夢♥じゃないから。というか、夢も見ない程意識を沈めたわ。そうじゃないとこの子の頭痛、治まらないから。肉体的ダメージで寝かせるのも可哀想だし、中途半端に意識を刈り取っても、苦痛が長引くだけだもの。そんなの、可哀想じゃない」
これは本当。
頭痛の始まったアルは酷い。
苦痛にのたうち回る地獄というか・・・
それを、自傷しないよう周囲の保護者達が力尽くで意識を刈り取ることで止める。それはアルにとっても、保護者達にとっても地獄の時間だろう。
まあ、放置してた俺も悪いんだけど。
本当にごめん、アル。
あそこまで酷くなってるとは思ってなかった。
言い訳するつもりじゃないけど・・・多分、実兄の血が混ざったことも原因の一つだろう。
これからはちょくちょく様子を見に来ることにしよう。この子は、見ていないと危なっかしい。
巻き込まれ型というか・・・
ホント、アークを彷彿とさせる子だ。
アークも、色々とやらかすイリヤに振り回されて相当な苦労をしていたし。
全く・・・つくづく、イリヤは碌なことしないな。
「というワケで、いい加減この子を休ませてあげたいんだけど・・・ダメかしら?」
「クラウド。手前ぇが、アルになにかしてねぇっていう保証は?」
「無いわねぇ?」
そもそも、する前提だし。
「でも……そんなこと、言ってられないのよ?」
「? どういう意味?」
狼の子が聞く。
「アルに追っ手が掛かるから。さっさとこの場所から離れた方がいいと思う」
喋り方を変えよう。女言葉だと、どうも真剣みに欠けて軽く聞こえる。ちなみに、身体と声はそのまま。馬の子がまた口を出すと困るからね。
「「っ!」」
「・・・」
驚く彼らと、不審げな猫の子へ続ける。
「俺は別に、君達に無断でアルを連れて行ってもいいんだ。けど、アルの意志を無視するのは嫌だったからね。まずはここに連れて来ただけだよ。でも、無駄な問答を続けてここに留まるというなら、この子を連れて移動する。君らとは、ここでお別れだ」
きっと、二度と逢うことは無いだろう。
俺は寝ているアルを抱えて、イリヤに見付からないよう移動し続けるだけだ。
俺にはそう難しいことじゃない。
ただ、そうした場合、アルには無理矢理寝てもらうことが増える。それが少し、問題と言えば問題だろう。
なるべくなら、この子の自由意志を尊重したいとは思っているけど・・・この子の父親…ローレルもアークも、俺も、アルの意志よりは、命の方を優先させる。
そう、決めた。
まあ、それが正しいのかは、わからないけど。
「それで? どうする?」
「わかった。移動する。少し待ってくれ」
「なるべく早くしてほしいな?」
移動する鬼の子の背中へ言う。
さて、鬼の子の腹は決まったようだし。
次は・・・この子だ。
「ねぇ、おにーさん」
にこりと、馬の子へ微笑む。
「なんだ? 美人のお嬢さん」
「黙っててくれて、ありがと♥」
「フッ、それぐらいお安いご用さっ」
「あたし、おにーさんにお礼がしたいんだけど…」
「お礼なんてとんでもないぜ。美女の言うことを聞くのは男の甲斐性ってやつだからなっ」
「あのっ…ここじゃ、恥ずかしいから・・・その、おにーさん…後で、あたしと…」
恥じらって見せると、
「フッ…皆まで言う必要は無い。そういうことなら、大歓迎だっ! お嬢さん、とっておきの部屋を用意して待ってるぜ。覚悟ができたら、トール♥って呼んでくれ。是非ともハートマークは忘れずにな? すぐに駆け付ける!」
「ええ。じゃあ、メインストリートの時計台の下で待っていてくれるかしら? 後で行くから」
「ああ、わかった。じゃあ、後でな? お嬢さん!」
と、馬の子が張り切って船を去って行った。
side:夢魔。
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