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・・・強いと、アルに尊敬される。

「ハッ!」


 なんでしょう? 今、過去の回想が頭に浮かんで・・・??


「っ!?」


 ドン! と、拳が腹へ衝き刺さりました。息が詰まります。大丈夫ですかね? 軽く、拳が背中を貫通してませんかね? この衝撃は・・・


「ぐっ、ハっ・・・!!」


 とりあえず、確認。穴は空いてませんが・・・まあ、貫通していたとしても、割とすぐ治りますけど。


「弱い」


 僕を地面に沈め、無表情に見下ろすのは、スレンダーな長身、モノクロの女性です。白みが強い灰色のベリーショート、灰色の瞳、どこか凍土を思わせる冷たい美しさを誇るその顔には、鼻筋に痛々しい…爪で引っ掻いたような疵痕が走ります。


「・・・あの、クレアさん? 僕は、然程さほど肉弾戦が得意ではないのですが?」


 むしろ、苦手と言ってもいいくらいです。


「・・・強いと、アルに尊敬される。けど…」

「っ!」

「弱いフェンネルは、尊敬されない。可哀想」


 淡々とした口調。無表情ながらに憐れみの視線。


「鍛えてあげようと思った。でも、嫌ならやめる。私は、アルに格好いいと言われる。ちょっと自慢」


 ふっと無表情な口元が緩みます。


 クッ・・・それは羨ましいっ! 僕も、ロゼットに「兄さん格好いい」とか言われたいですっ!!


「・・・やりましょう。クレアさん」


 ロゼットに尊敬される為にっ!!!


 こうして僕は、クレアさんに鍛えてもらっていたのですね。少し、記憶が曖昧ですが・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・ハッ!」


 パッと目を覚ますと、見知っている場所にいました。

 おかしいですね? 僕は、アダマス本邸でクレアさんに鍛えてもらっていた筈です。


 なんで、船の中で寝ていたのでしょうか?

 理由を訊きに、船の主の下へ向かうことにします。


 仕度を整え、リリアナイトの下へ移動。


「あら、フェンネル様。ごきげんよう。お目覚めになられたようで、なによりですわ」


 にっこりと微笑む赤毛の少女。


 リリアナイトは人魚なのですが、ロゼットをその・・・愛しているようです。ロゼットも女性なのですがね? 趣味嗜好は自由ですが・・・僕とは所謂、ライバルと言った関係に当たるでしょうか?


「おはようございます、リリアナイト。まずは状況の説明をお願いしたいのですが?」

「クレアお義母(かあ)様が、フェンネル様を連れて来られて、具合いが宜しくなさそうなので、わたくしの船でフェンネル様を療養させるように。と仰って、クレアお義母様はお帰りになられましたわ」


 にこにこと愛想よく笑うリリアナイト。

 クレアお義母様とは・・・なんでしょうね? このもやもやする感じは。ロゼットは、ハルトの家の子ではなく、僕の妹なのですが?

 まあ、言うだけ無駄なので言いませんが。


「そうでしたか、ありがとうございます。リリアナイト。僕はもう平気なので、失礼しようと思います。近くの陸地で降ろして頂ければ、自分で帰ります」


 さっさとロゼットを捜さなければなりません。


「そんなつれないことを仰らないでください、フェンネル様。もっとごゆっくり、わたくしの船へご滞在なさいませ。お仕事にもご不便が出ないよう配慮させて頂きますので」

「・・・どういうことでしょうか? リリアナイト」

「どういうも、そういうことですわ。そうそう、フェンネル様の、趣味の悪い使用人方も、後で別の船でお着きになられます。その間、ご不便かとは存じますが、ご寛恕の程、お願い致しますわ」

「趣味が悪いとは、失礼ですね?僕のメイド達は、そこそこ見目麗しいと思いますよ? リリアナイト」


 そう。彼女達は、見目麗しい。まあ、椿やロゼット程ではありませんけどね。


「ああら? では、悪趣味と言い換えさせて頂きますわ。アレク様や、椿お姉様と似た容姿の方々を使用人にするなんて、わたくしには信じられない感性をなさっていますもの。フェンネル様は」

「全く、ヒドい言い種ですね」


 椿やロゼットに似ている女性を、使用人として雇っているだけです。というか、彼女達が妹に似ているので、思わず劣悪な環境から連れ出した・・・というべきでしょうか? 椿とロゼットに似ている彼女達が不幸な状況にいるなど、見ていられなかったのです。


「ヒドいのはフェンネル様ではありませんこと? あ…いえ、失礼致しましたわ。フェンネル様は・・・アレク様にも、椿お姉様にも、お逢いされる機会が少なくて、お寂しいのでしたわね? そのことを失念していましたわ。大変、失礼致しましたフェンネル様」

「っ・・・」


 悲しげな顔で謝るリリアナイト・・・

 その内心は、僕を笑っていることでしょう。

 非常に悔しいです。

 しかし、なにも言い返せません。


 しかし、これは・・・

 明らかに、僕をロゼットの下へ行かせないつもりのようですね。

 ですが、僕は諦めません。

 待っていてください、ロゼット。

 僕は絶対に、貴女の下へ駆け付けてみせますから!


 side:フェンネル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 久々のリリ。この二人は、いつもあんな感じでバチバチ口撃し合ってます。

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