表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/179

さあ、数百年振りの狩りを開始しようっ!

 前回、アルが暴れてる頃の保護者達側。

 奴が目覚めたことは判っていた。が、その足取りはようとして知れず・・・だった。だが、とうとう奴の足取りを掴んだとの連絡が上がって来た。


 緩く波打つ艶やかな黒髪に金色の瞳。白皙の美貌を持つ、妖艷な美少年の目撃情報。

 そして同時に、その近辺で吸血鬼を灰も残さず燃やし尽くした業火の発生。


 間違いない。奴だ。


 子殺しの始祖・・・イリヤ。


 奴が現れたその場所を聞いて、頭が痛くなった。


 その場所は、アレクがいた場所だったからだ。


「・・・どう、思う。スティング」

「さぁて? 偶然、だと思いてぇとこだが、そんな楽観視できるような奴でもねぇだろ」

「・・・」


 スティングの言葉に、強く拳を握り締める。


 それは、奴がアレクを追っている・・・ということに、他ならないのだから。


 意図的にか、無意識にか・・・


 奴には、アレクが生きていることを徹底的に隠した。だから、意図的である可能性は低い。


 低い、が・・・


 アレクを戻す、か?

 それとも、このまま様子を見るか・・・


 できれば手元に置いて、自分で守りたい。

 だが、それはできない。

 俺の手元に置くことは、奴とアレクの遭遇確率を高めるだけだ。それは絶対に避けたい。


 アレクを、奴なんかに遭わせて堪るか。


 血に染まる月色の髪など、思い出したくもない。アレクの、呼吸と心臓が止まった瞬間など・・・


「・・・奴は、どう動くか・・・」

「なんで奴は、これまで動かなかったよ? いつもなら、もっと早い段階で動いてただろ」


 スティングが言う。


 それは俺も思っていたことだ。

 今回の奴は、動きがいつもと違う。

 アレクの後を追っているのか、違うのか・・・


「・・・アレクの動向は?」

「アルは今、聖女がいた街から動いてません」


 レオンハルトが答えた。


「なぜ、動かない?」


 一週間程前に、あの街へ入ったというが・・・


 あの街は、アレクの母親…リュースと俺が出逢った……というか、リュースを拐った場所。

 アマンダという聖女として、リュースが軟禁され、人間の権力者共に酷使されていた地。

 アレクにとっても、面白い場所ではないだろう。


「そう言うなって。船の進路を決めンな、船の連中だろ。アルが口出しはできねぇんじゃねぇか?」

「だとしても、自分で移動はできる筈だ。なぜ、わざわざ不愉快な地に留まる」

「俺に言うな。あ、そう言や、アルから消してほしい奴がいるって連絡来てたぜ?」

「? ・・・奴、ではないよな?」


 判ってはいるが、確認する。


「応。全く別の奴だな。エレイスの抹殺リストの上位に入れてくれってよ」

「どんな奴だ?」

「名乗っている名前はトール。自称ギャンブラー。特徴、ストレートの紫がかった漆黒の髪。くら蘇芳すおうの瞳。垂れ目気味で、右目の下に泣き黒子ぼくろ。褐色の肌。ジプシー系の人種タイプ。百八十以上の長身の男。花街に入り浸り、女受けはかなり良い。度を越した女好き。人間ではない。種族不明。今すぐ抹殺リスト上位に望む。迅速な抹殺を希望する。アレクシア・・・以上です」


 レオンハルトが手紙を読み上げる。


「・・・なんだ? それは」

「だから、俺に訊くなよ? ローレル」

「というか、アレクシア…と書かれていることが問題では? いつもの手紙はアル、ですから」


 レオンハルトの指摘。


「アルがそう言って来たのは初めてだな? 愚息」

「ああ、問題になりそうな連中は、そもそもアルには近付けなかったからな」


 アレク自身が、アレクシアと名乗ることはほぼ無い。ということは、それに相当する事態ということだろう。抹殺を望む、か・・・


 アレクとアダマスとの関係に関して、なんらかの情報が漏れた・・・と、考えるべきか? だとするなら、アレクシアとの表記も頷ける。


「・・・スティング。動かせる者は?」

「アルが殺せなかった奴……となると、それなりに実力がある奴を出さねぇといけねぇンだが・・・」


 アレクは弱い。それは事実だ。だが、決してアレクが無能ということではない。


 アレクは弱いが、千年を生きたアンデッドの吸血鬼を、単独で狩れるだけの実力は備えている。

 おそらく、装備を整えて手段を(・・・)選ばなければ(・・・・・・)、傲った純血種の若いヴァンパイアを殺すことも可能だろう。


 アレクは弱いからこそ、暗殺技術が高い。そういう風に、スティングが教育した。だが、地力が低い為、アレクの攻撃が通らない相手がいることも事実。暗殺技術が高くとも、その攻撃力自体が高いワケではない。

 暗殺は、基本的には一撃で仕留めるものだ。その一撃を外したり、相手に防がれてしまうと弱い。


 この狼達が規格外なだけだ。


「無理だな。今、俺とレオンハルトとクレアは動けねぇ。その下の連中は、奴の捜索。ンで、奴が稼働中ンときは、ヴァンパイア、吸血鬼の使い勝手のいい連中は動かせねぇ。下手に動かすと、消される。実力の無い連中も同様。奴が稼働中は、使えンな少数精鋭のみ。毎度ながら、他に手ぇ回す余裕は無ぇよ」

「やはりそうか・・・」


 ヴァンパイアやアンデッドの吸血鬼達は、総じて能力が高い。エレイスの仕事には欠かせない人材なのだが、周知の通り、奴は子殺しの始祖だ。

 基本的には自分の血筋のモノしか殺さないが、それも気分次第。他の血統のモノを襲わないという保証にはならないだろう。


 現に、奴の活動再開に伴い、奴の血筋のモノ達には避難勧告を出している。

 だから、報告にあった、消された吸血鬼達は、全て奴の血筋ではない筈なのだ。

 気紛れにヴァンパイアや吸血鬼の命を刈り取る奴は、ヴァンパイアの天敵とも言える存在だ。


 奴の血筋ではないと言っても、殺されないとは限らない。それは気休め程度にしかならない。


 今回のことが、それを証明している。


「アルには悪いが、少し我慢してもらう」

「わかった」

「・・・」

「不満そうだな? 愚息」

「いつまで、アルを待たせるんだ?」

「あ? ンなの、奴を仕留めるか、奴が活動を停止するまでに決まってンだろ。俺らの働き次第だ。寝言言ってンじゃねぇぞ? 愚息が」

「なら、さっさと仕留めてやる」


 レオンハルトの緑灰色の瞳がギラリと光る。


 そう簡単に仕留められたら、数千年も俺ら子孫は奴に苦しめられていない。やれやれと、苦笑するスティングと目が合った。


「装備はどうなっている?」

「ああ、ビアンカの加護を付与している」


 ビアンカは、シーフェイドの母親。イフリータという炎の聖霊だ。彼女の加護を得ることで、ある程度の炎熱耐性を付与することができる。

 尤も、ビアンカの加護も、あの糞爺イリヤの業火にどこまで耐えられるかは不明だが・・・


「ンじゃ、装備が整い次第、出るぞ」

「わかった」

「呉々も、無茶はしないように」

「応」

「はい」

「ま、それはそれでいいンだがよ。フェンネルの方はどうすンだ? クレアも動くぜ?」

「リリアナイトの船にでも放り込んでおくさ」

「リリアン、納得しますか?」

「フェンネルがアレクに逢いに行くのを邪魔しろとでも言っておく。そうすれば、フェンネルを船に留めておくだろう? リリアナイトは」


 海上の、人魚の領域テリトリーである船の中なら、さすがの奴も手出しはできない筈だ。


「では、奴の追跡を頼む」

「応。手前ぇも装備整えてろ」

「ああ。存分に、奴を追え」

「ククッ・・・」

「アルの、為に・・・」


 爛々と光る深緑と緑灰色の瞳。

 たぎる狼を、野に放とう。


「わたしも後で合流する。そして、この手で必ず、奴を殺してやる・・・」


 さあ、数百年振りの狩りを開始しようっ!

 狩るか狩られるか、互いのどちらかが死ぬまで永遠とわに終わらぬ狩りをっ!!

 獲物は、我らが始まりの真祖にして、我らに仇なす子殺しの始祖・・・イリヤだっ!!!!


 side:ローレル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 父上達の会議でした。

 イリヤのビジュアルは美少年ですが、ローレルに言わせると若作りの糞爺だったりします。

 そして、帰ってからのシーフは実は地味に仕事をこなしてました。

 あと、「煩いよ、ヤブ医者。余計なお世話。」でアルは、ジンに自分の実力を偽ってます。まあ、自分で自分のことを弱いと思ってる主観もありますが・・・

 手段を選ばない、の中には、父上や兄さんの血晶でドーピングも込みです。確実に殺す相手(アダマスの情報漏洩対策で)以外には使えないので、実際には使えない手段です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ