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約束通り、君の悪夢を食べに行くよ。

 新キャラのヒトです。

 少々ややこしいヒトでもあります。

 懐かしい、魔力の波動を感じた。


 これは、ふるい知り合いのものだ。


 双子の彼らの・・・弟の方だね。これは。


 彼、割と壊れてるんだよね。

 まあ、かなり素直だから、ある意味可愛いけど・・・って、やってることは全く可愛くないか。


 子孫を殺して歩いてるんだから、彼の子孫側からすると、特大に迷惑な存在だね。


 様子を見に行って軽く話したけど・・・


 彼の八つ当りで、街にいた吸血鬼達が燃やされていた。灰も残さず、徹底的に燃やすのが彼の流儀。おそらくは、復活も叶わないだろう。

 可哀想に、単なる八つ当りで消されてしまった。


 彼は相変わらず・・・


 本当に、ろくなことをしない奴だ。


 まあ、嫌いじゃないけどね。

 彼は自分に素直で、嘘を吐かないから。


 あたしは他者の感情を察知するのにけている。彼の感情は苛烈に過ぎるが、いつだってとても真っ直ぐだ。その極端な真っ直ぐさが、怖くもあるけれど。


 嫌いじゃないからこそ、あたしは忠告する。


 なのに、奴には全く聞く気が無い。


 小さい子とかさ? 虐待だとか、殺すのはいい加減やめればいいのにね。


 そんなことを続けても、兄の方は絶対に戻って来ない。それを、何時いつまで経っても理解しようとしない…できない彼は愚かで・・・憐れだと思う。


 それに巻き込まれた方は、堪ったもんじゃないだろう。もう、彼らに弓引いた最初の子供達は、とっくの昔に死んでいるのにさ?


 自分で殺したクセに・・・まだ、止まらない。


 少し前。彼らの因縁に、小さな女の子が巻き込まれた。兄に関わった為、弟の恨みを買ったというか・・・随分と手酷い扱いを受けた。


 あれは酷いね。本当に酷かった。

 小さな子供にすることじゃない。


 殴られ、蹴られ、首を絞められ、骨を砕かれ、奴の炎に焼かれて・・・何度も与えられる恐怖と激痛。そしてなにより酷いのは、死にかける度に、奴の血で再生させられたことだ。


 酷い悪夢だったよ。全く・・・


 あんなに弱い子が、奴の血に耐えられる筈も無く・・・可哀想に。あの子は、壊れてしまった。


 何度も、壊されてしまった・・・奴に。


 完全に命がついえる前に、あの子の父親と、元兇げんきょうの片割れの方の彼、そしてあたしとであの子の命を繋いだ。


 身体が死なないよう父親が維持し、奴の血を抑えるのを彼が。そして、離れかけていた魂を繋ぎめたのがあたしだ。あれは、我ながらいい仕事をしたと思う。


 まあ、それが果たして、本当にあの子の為になったかはわからないけど・・・


 だってあの子は、酷い悪夢にうなされるようになったんだから。


 奴のせい・・・そして、彼女を無理矢理救ったあたし達のせいで、ね?


 悪夢を食べたり、配ったりするのはあたしの領分。だから、あの子のくつうを食べてあげた。


 けれど、それだけじゃあ駄目だった。


 奴…イリヤに与えられた血が、多過ぎた。


 それに、あの子は・・・元々可哀想なくらいにつらい記憶を持っていた。それは、あの子の幸せな記憶と切り離せなくて・・・

 それまで食べてしまうと、あの子があの子でなくなる可能性が高かった。


 何度も壊されたあの子を、あたしはそれ以上壊したくなかったんだ。あの子があの子でなくなることを、あの子の父親も望まなかったから。


 そして結局、あの子の悪夢きおくは封印するに留めて・・・中途半端に残したままだ。


 可哀想なことを、したと思う。


 けれど、あたしは、あのときのあの子の父親の気持ちも、イリヤがしたことへの償いをしたいアークの気持ちも、全部わかってしまったから。


 それから、あの子に再会したのはおよそ五十年程経ってからのことだった。


 思わず目を疑ったよ。


 だってあの子は、あんな場所にいるような・・・いていいような子じゃないんだから。あたしは、悪夢を食べる為にあそこにいたんだけど。


 幻獣の子なんかを、売買する人間の組織。そこに、あの子が来たんだ。一人で。


 父親はなにをしている、と言いたくなったね。あれだけあの子を失うことを恐れていたクセに…と。

 まあ、あの子の記憶を軽く覗くと、父親とは別居中。狼に育てられていることがわかったけど・・・


 父親との別居を、イリヤ対策か・・・と。そう、納得できてしまった辺りが悲しい。


 まあ、それはそれとして……狼の家でもなんらかのトラブルに巻き込まれたようだった。あの子…彼女に、悪意が纏わり付いていたからね。


 つくづく、運の悪い子だと思った。


 そこでもまあ、色々とあって・・・


 狼の保護者が来るまで、あたしが彼女を保護することにしたんだ。


 元々(あたし)は、可愛い子が好きだ。男女問わずに。

 そんなあたしと彼女は、趣味が近くて意気投合した。


 あたしは、彼女と話せることが嬉しかった。自分が救った子だからね。元気そうで安心したんだ。


 彼女が、悪夢にうなされるまでは。


 睡眠時間に彼女の悪夢を食べてあげて・・・


 そこであたしは初めて、彼女に酷いことをしたのかもしれないと、思ったんだ。

 だって、救った側はそれで満足かもしれないけど、つら記憶あくむを背負うのは、救われた側の・・・彼女なんだと、気付かされた。


 悪いことをしたと、思う。


 けれど、あのとき・・・どうすることが正解だったのか、未だにわからない。


 彼女を助けたかった父親とアーク。あたしも、小さいあなたを見殺しになんかしたくなかった。


 その結果、あなたは今も苦しんでいる。


 あなたの悪夢はもう、あたしのものでもある。


 (あなた)が辛いことは、わかり切っている。


 イリヤが活動を再開した。


 だから、それに呼応して、あなたはイリヤの悪夢を見ていることだろう。


 イリヤは、あなたを殺したと思っている。

 だけど、無意識にかな? あなたを追い掛けている。


 イリヤが血を分けたあなたは、ここにいたんだから。


 その、意味を・・・

 イリヤはまだ、わかっていない。

 わかろうとしない。

 イリヤのすることは、したことは間違っている。


 いい加減、気付けばいいのに・・・


 本当に・・・イリヤは愚かしい。


 だけど、その方があなたの為ではある。


 あたしあなたに言った。「あなたの悪夢はあたしが食べてあげる」と。


 責任を、取らなくてはいけないよね。


 月色の髪に翡翠の瞳の可愛いあなた

 傷だらけで、それでも優しくて綺麗なあなた


 あなたはもう、大きくなっているよね?


「約束通り、君の悪夢を食べに行くよ。アル」


 side:???。


※※※※※※※※※※※※※※※


「?」

「アル君どうかしたー?」

「いや、なんでもない・・・」


 なんかこう・・・誰かに呼ばれたような…?


「多分、気のせい」


 今日は、やけに額が疼く。

 気分が悪い。


 弱いのはいやだ。動いてないと、胸がじりじりとするような焦燥感に苛まれる。


「おい、アル? 頭、痛いのか?」


 心配そうな雪君に首を振る。


「大丈夫。さあ、雪君。遊ぼうか」


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 アルの調子が悪いのは、活動を再開したイリヤの影響だったりします。彼は起きているだけで、アルの調子を悪くさせるんです。

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