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あ? 誰が、誘惑者だ。クソ野郎。

 前回、あの彼が去ってから。

 武器に興味の無い方は、武器説明を読み流してください。

 何故か謝りながらオレの頬へと触れた男。そして、去って行ったのは、紫がかった漆黒の毛並の馬。


 どう、しよう・・・どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう・・・


 見られたのに、逃げられた・・・

 父上の所有印しるし、を…見られた。

 どうしよう・・・

 駄目、だ。

 見た奴、は…殺さ、なきゃ・・・

 そう、だ。

 殺さなきゃ。

 殺そう。奴を。

 追い掛けない、と。


「・・・は、ぁ…?」


 動こうとした。ら、ガクンと力が抜けた。

 怠・・・

 まずは、動けるようにならなきゃ。

 血、を・・・

 兄さんの……は、駄目だ。他の、アダマスの血を知るヴァンパイアがいないとも限らない。

 リリやシーフの血じゃ、足りない。

 ドーピングが必要。

 養父とうさんの血晶を飲み込み、液体へ。爪でピッと指先を切り、養母かあさんの血晶にオレの血を混ぜ、狼の使い魔を創る。


 灰色の毛並の狼。


 養母さんを模した狼を、ぎゅっと抱き締める。


「…養母さん…」


 これは養母さんではないが、養母さんの匂いに、少し…落ち着いた。

 そして、奴の流した血を狼へと嗅がせる。

 さあ、追跡開始だ。

 今度こそ、殺す。


 side:アル。


※※※※※※※※※※※※※※※


 蒼い夜空の下を、走る。


 罪悪感で胸を一杯にして。


 俺らを滅ぼした連中は憎い。が、彼女はあの連中の血を引いた…全く別の種族。

 本人も、そう言っていた。

 だから、彼女は俺が憎い連中の一員ではない。


 彼女は、俺の復讐の相手足り得ない。


 むしろ彼女は、俺の復讐の・・・ある意味では、理想を体現しているとも言える。

 俺の目的は、俺らを滅ぼした純血至上主義を掲げるあの連中に、俺の血を交ぜることなのだから。


 彼女を酷く傷付けた俺が言うのもなんだが、俺は彼女を祝福する。彼女の存在は尊い。


 連中がみ嫌い、呪った存在だとしても、俺は彼女の存在をよろこび、言祝ことほごう。


 彼女の存在を、全面的に肯定する。


 彼女は、間違い無く愛されるべき存在だ。


 なんと言っても彼女は・・・美人だったしっ!!!! ※ここ、超重要っ!

 美少女だったからなっ!!!!

 絶対に外せないぜっ!


 美しい女は無条件で愛されるべきだぜっ!!


 淡い白金色のプラチナブロンド。冷ややかな翡翠に浮かぶ銀色の瞳孔。顔自体はあの聖女と生き写しだが、印象が全く違う。


 おそらく、初見であの二人が瓜二つだと気付く奴は相当少ない筈だ。それ程に、雰囲気が違う。


 ふんわりと柔らかな、深窓の令嬢然とした雰囲気をまとうのが聖女で、怜悧で凛とした、女騎士のような雰囲気を纏うのが彼女。

 聖女が綻び始めた咲きめの花なら、彼女は固く閉じた蕾と言ったところだろうか?それも、とげや毒を纏うタイプの花。


 おそらく、棘や毒を得たのは後天的にだろう。そうでなければ、生きて来られなかったであろう花。


 無論、蕾の状態でも美しい花だ。


 そう。彼女は美しい。


 女は、女であること自体が美しい。


 その中でも彼女は、とびきりの美少女だ。

 美女、ではない。

 まだ成長の余地を残しつつ、既にその美しさを世界へと知らしめているが、本人にはその自覚が薄く、危うさを伴う凛とした美少女、だ。


 ・・・クソっ! 俺の馬鹿野郎っ!

 あんな綺麗な女の子を、泣かせるなんて・・・


 泣かせるなら、ベッドの上だろうがっ!?

 女をベッドの上以外で泣かせるなんて、最低のクズ野郎じゃねぇかっ!?


 それにしても、彼女は……綺麗だったなぁ・・・


 男物の服の下に隠された、白くて滑らかな柔肌。曲線を描く腰から、ほんのり冷たくて触り心地が良く、引き締まった腹筋の上にごく薄い脂肪が乗った細いウエスト。そして、シンプルな下着を押し上げるふっくらとした形の良い胸。それ程大きくはないが、仰向けでも張りがあって、左胸の真ん中辺りの赤い痣が白い肌に映えていて・・・実に、実にエロかったぜ。


 ・・・そう言や、吸血鬼の所有印が有ったが…

 あれって、なんだ?


 ・・・おそらく、聖女をさらった悪魔ってのが吸血鬼。で、彼女はヴァンパイアだと言っていた。


 彼女の身内の吸血鬼が付けた・・・とか?


 吸血鬼の所有印ってな、獲物や所有物である証。

 吸血鬼が、独占したい相手に刻む愛の証だとかなんとか・・・だった筈だ。


 それはそれで、彼女が愛されているようでなによりだと思う。が・・・


 ・・・もしかして俺、マズったか?


 ・・・まあ、逃げるのは得意だから一応大丈夫として・・・多分。


 足を止め、人型へ姿を変える。


 目を閉じ、白金の髪と翡翠の瞳の彼女を想う。


 謝ったら許して・・・くれるワケねぇよなぁ。


 俺は、酷いことをした。


 彼女を酷く、そして深く傷付けた。


 彼女の存在を否定したワケではないが、それに近しい言葉を彼女へと浴びせた。

 あの連中(・・・・)の、言いそうな言葉を。

 彼女が激昂したのはおそらく、その言葉を、あの連中(・・・・)に言われたことがあるからだろう。


 憎悪に染まったかおと、頬を伝った雫。

 その雫を掬った指を、強く握り締める。


 ・・・胸が、痛い。


 俺は確かにあの連中(・・・・)に復讐を望んでいるが・・・彼女に、あんな貌をさせたかったワケじゃない。


 女を、ああいう風に泣かせていい筈が無い。


 彼女が、どういう生を送って来たかは知らない。


 しかし、存在を否定される痛みを、辛さを、悔しさを、俺はよく知っている。「オレの存在を、誰かが勝手に否定するな」という、血を吐くような彼女の叫びが、酷く痛々しい。それを、言わせてしまったことが慙愧ざんきの念にえない。


 俺もまた、存在を否定されたモノだから。

 そんな俺が、彼女を傷付けていい筈が無いのに。


 俺は、復讐を・・・このたぎ憎悪おもいをぶつける相手を、間違えた。本当に。彼女には、心の底から申し訳無いと思う。


 ・・・ふと、なにか嫌な予感がして、振り向いた。ら、狼が俺の喉笛へ向かって跳躍していた。


「ぬをっ!」


 理解が追い付かないが、身体が勝手に反応。狼を避けた。瞬間、視界に入ったモノを見て、ゾクリと背筋が粟立った。


 美しい、少女が・・・蒼い夜空に、浮かんでいた。蝙蝠こうもりのような翼を、背に生やして。

 見下ろすのは、赤い光を帯びる翡翠。

 その瞳に宿るのは、冷たい憎悪。

 なびく白金のプラチナブロンド。

 ゾクゾクする程に、怜悧さを研ぎ澄ませた蒼白な美貌。その、薄く色付く唇が開いた。


「死ね」


 女の子にしては低めな、硬質なアルト。

 そして、彼女が俺目掛けて急降下。

 その手には・・・


「っ!」


 ショーテルが握られている。

 根元から伸びた刀身が、ほぼ直角に鉤状に曲がり、そこからまた刀身が大きく湾曲して円を描くような形状。三日月のような刃が鋭く煌めく中東地方によく見られる短剣だ。

 ショーテルは、その独特な形状から、切れ味に特化した剣で、扱うのが難しい剣だと言われている。

 そして、扱いが難しい割に、有名な剣だ。

 その、用途は・・・


「くっ!」


 彼女の、俺の首を薙ぐ一撃を躱す。さっきよりも明確な、殺すという強い意志を感じさせる攻撃。ヤっベ、見惚みとれている場合じゃねぇ!


「・・・逃げるなよ」


 冷たい殺意を湛え、赤い光を帯びる翡翠。

 それは、さっき俺が彼女へと言ったセリフ。


 足元から狼が喉笛を狙う。彼女の使い魔か? そして狼と連携を組み、執拗に俺の首へとショーテルを振るう彼女。避けてるけどっ!


「待って待って、待ってくれっ! それガチなやつ! ショーテルって、斬首刑で使うので有名な剣だからっ!」

「ああ、死ねよ」

「いやいやいやいやっ? さすがの俺も、首落とされると死ぬからなっ!? アルゥラ!」

「だから、死ねよ」

「待ってくれっ! 死なない程度になら甚振いたぶってくれてもいいからっ! アルゥラ!」


 それくらいのことは、した。


「あ? 誰が、誘惑者アルゥラだ。クソ野郎」

「あ、そっちで取った? 俺的には、魅惑的アルゥラなんだけど? でも、誘惑してくれても構わないぜ? 大歓迎だ、アルゥラ! むしろ、俺と一発ヤらないか?」

「死ね」


 即行断られたっ!! しかも、武力行使付きでっ!


「そうか・・・それは非常に残念だっ。だがっ、気が変わったらいつでも言ってくれっ! 大歓迎するぜっ、アルゥラ! そのときは、愛し合おう!!」


 ヒクリと、彼女アルゥラの顔が引きつる。


「あ゛? だ…からっ、死ねっつってンだろこのクソ野郎がっ!!!!」


 冷たかった殺意が、温度を上げる。怒りと苛立ちの感情が混じり、ショーテルを振るう速度が上昇した。


 side:間違えた復讐者。


※※※※※※※※※※※※※※※


 なん、なんだ…コイツはっ!?

 攻撃が、全く当たらない。

 いや、厳密には、細かい攻撃は当たっている。

 ショーテルや狼の爪がかすることはある。

 しかし、致命的な攻撃を、絶対に躱すのだ。


 そして、なにより苛立つのは・・・


「っ、……は、ハァハァ……」

「なあ、アルゥラ。大丈夫か? 息上がって来てるぞ? 少し休憩した方がいい。・・・ハッ、なんなら俺が介抱するぜ? 勿論、変なことはしない。…多分。あ、アルゥラの気が向いたら、別な? 手取り足取り・・・愛し合おうぜ?」


 攻撃は、して来ない。物理的な、攻撃は、だ。


 オレと狼の攻撃を躱し続け、相当な運動量な筈なのに、馬鹿みたいに馬鹿なことを喋り続け、挙げ句にオレの心配? 馬鹿にされているとしか、思えない。


 クソムカつくっ!!!!


 そして結局、養父(とう)さんの血のドーピングが切れて、退散した。


「なんだ、アルゥラ。もう帰るのか? 送って行ってやるよ…と、言いたいが、それは嫌だろ? じゃあ、またな? 気を付けて帰れよ、アルゥラ」


 そう言って、見逃されたことが、悔しい。

 絶対に殺してやる。

 エレイスの抹殺リストの上位にじ込んでやる。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 前回あんな感じでしたが、今回はこう・・・

 お気付きかもしれませんが、彼は馬鹿です。

 復讐が絡まないと、基本頭ピンクで残念な奴。

 アルゥラは、フランスの古語で、「誘惑した相手を思い通りに動かす人」や「魅惑的な人」「魅了する人」という意味があるそうです。

 何故にフランスの古語なんでしょうね?

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