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愛しているわ。わたしのロゼット。

 重めな話です。

 アルの幼少期。

「アマンダ様っていうみたい。聖女様は」

「へぇ・・・」


 さっき美術館で見た聖女様の絵を、アルへ説明。


「金髪碧眼の、すっごい美少女」

「ふぅん……」


 あんまり興味無さそうな返事。


「すっごく綺麗な女の子だったんだけどさ? なんかこう、どっかで見たことあるような気が・・・」


 なにか引っ掛かる。緩く波打つハニーブロンドをした、とても綺麗な女の子。


「ま、聖女やら天使なんかの絵は結構よくあるからね。しかも、金髪碧眼の美形は割とスタンダード。絵を見たことがない、そして字が読めない人にも、それが聖女だって一目で判るようにしないといけないからね。自然と、どこかで見た気がする絵になるんじゃない?」

「そう、なのかな?」

「そうだよ。天使や聖女は、ヨーロッパ系の見目麗しい美女や美少年として描かれるのがテンプレだからね。ある程度似通っていて当然」

「へぇ……そうなんだ?」

「そうなんだよ。それに、美人じゃない聖女を描いて雇い主からくびになった画家の話も有名だし」

「え? なにそれ可哀想っ!」

「そうそう美人なんている筈がない。ってことで、華美でない地味な女の人を聖女として描いたら、聖女が普通の女である筈ないだろ! って、雇い主が激怒。アトリエから追い出された画家の話。つまり、聖女は美人であって当たり前ってこと」

「ぅゎ……なんか、世知辛いね」

「そんなもんでしょ」

「えっと、なんの話してたんだっけ?」

「さあ?」

「・・・そういえばさ、聖女様の絵を異様な目付きで見てる変な男がいたんだよね」

「ふぅん」

「この辺りでは珍しい感じの男。えっとね、この辺じゃあまり見ない…ジプシー系、かな? 黒髪に褐色の肌。更に珍しいのは、暗い赤色の瞳。それが、食い入るように絵を見ていたんだ」

「変質者か?」

「う~ん…そんな感じ。だけど、なんていうかな? 人を、殺しそうな雰囲気?」

「カイル。変質者には近寄らない方がいいぞ」


 真剣な顔で忠告された。


「そんなの当然でしょ。なに言ってンのさ?」


 side:カイル。


※※※※※※※※※※※※※※※


 聖女、か・・・


 (いや)な場所に来た。


 リュース・アマンダ・ホーリレは、聖女と呼ばれていた・・・オレの母親だ。

 で、聖女を拐った悪魔が父上。


 ある意味テンプレというか・・・


 彼女が聖女として人間に軟禁されていたのは十数年程。その間、彼女は年を経らず、若々しい少女の外見のままだったという。それは、聖女の奇跡の一環だとわれていたが・・・


 なんのことはない。


 彼女が、人間ではなかっただけの話だ。


 深い森の、更に奥に棲む、超ド田舎の種族。

 それが、リュースだった。


 好奇心旺盛でお人好し。森の浅い部分へ遊びに行った彼女は、偶々人間の一行を見付けた。

 物珍しさから数日程観察していると、そのうちの一人が大怪我をした。優しい彼女は、大変だと思って、その怪我を治してしまったのだ。それが、彼女へ不幸を(もたら)すとも知らずに・・・


 そして彼女は、聖女だと祭り上げられた。

 後は知っての通り。

 彼女は父上に拐われた。


 父上が彼女を拐った理由は明解。その治癒の力を利用しようとしたからだ。おそらく、子殺しの始祖との戦闘に使うつもりだったのだろう。


 しかし、父上の最大の誤算は、利用するつもりだったリュースを愛してしまったことだろう。


 緩く波打つハニーブロンド。慈愛に満ちた翠の瞳。柔らかく甘い声。彼女は、美しい。


 そして、オレがいる。


「ふふっ、ローレル様に逢えたのだもの。お姫様をしてみるものね? そのお陰で、こうして貴方にも出逢えたわ。わたしの愛しい宝石ロゼット


 よくそう言って笑っていた。


 アマンダという名前の通り、愚かな程にオレへ愛情を注いでくれた愛しいヒト。リュース。


 多分、森の中で暮らしていたと思う。父上の張った結界の中にあった小さな家。彼女とオレの二人は、偶にふらりとやって来る父上を待って。

 彼女との暮らしは、幸せだった。おそらく、オレの人生の中で、一番穏やかな日々。


 ふわふわと甘く、可愛らしい彼女を愛していた。いや・・・今でも、愛している。


「愛しているわ。わたしのロゼット」


 甘く柔らかなその声音が(かげ)りを帯び始めたのは、彼女の一族のモノに、オレの存在がバレてから・・・


 彼女の一族は、ヴァンパイア以上の、純血至上主義を誇る種族だった。

 その思想は苛烈で、それなりの(ふる)い歴史を持つ一族の中ではおそらく、混血を生んだのがリュースが初めてであろう程の徹底振り。


 当然、殺せとなるワケだ。


 まあ、物心付いたくらいのときだったから、ちょっとあやふや・・・というか、頭割られる少し前のことだから、記憶が少し怪しい。

 許すまじっ! 折角せっかく十数年しか一緒に暮らしてないリュースの記憶をあやふやにしてくれやがった変態め。


 その変態は許せないが、覚えているのは・・・


 かく、毎日毎日、家の外から男の声が聞こえたこと。「(けが)れた忌み子を殺せ」「一族の恥晒しめ」「いやしい女」「穢れの浄化を」「大罪を犯せし女」「殺せアマンダ」「その子供を、アマンダ」「殺せ」「穢れの浄化を」「殺せ」「忌み子を消せ」「その子供を殺せば、お前は赦してやる」「アマンダ、その穢れを」「浄化」「アマンダ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」


 ヴァンパイアの純血主義の方が、甘いんじゃないかと思える程の、強烈な殺意混じりの狂気。


 彼らは父上の張った結界を壊すことは出来なかったが、その代わり・・・


 リュースを、蝕んだ。


「ごめんなさい、ロゼット・・・愛しているわ。愛しているの、ごめんなさい・・・貴方は悪くないのに。ごめんなさい……ロゼット」


 外からの声を聞かせまいとオレの耳を塞ぎ、泣きながら「ごめんなさい」と「愛している」とを繰り返し続けた彼女。

 ぽろぽろと零れ落ちる涙。

 どんどんとやつれて細くなって行った彼女。

 今でも、忘れない。忘れられない。

 彼女の泣き顔と、優しくて痛々しい声を。


 そして、あの日がやって来た。


 リュースがオレを、殺した日。


 断崖から投げ落とされた、あの日。


「ロゼット。五つ数えたら、飛びなさい。そうすれば、貴方は助かるわ。そして、ローレル様の下へ行きなさい」


 そう言って、飛び降りた。リュースに抱かれて。


「愛しているわ。ロゼット」


 途中でオレを放したリュースは、最期に笑顔でそう言って、一人で墜ちた。


 オレは父上のところへ行った・・・のだと思う。いつの間にか、父上といた。


 記憶が曖昧だ。


 父上は、リュースが精神的におかしくなったと思っているが・・・おそらく、そうじゃない。

 多分、限界だったのだ。

 父上の張った結界が。だから彼女は・・・

 自殺に見せ掛けて、オレを逃がした。


 彼女の種族は、飛べないから。


 彼女は、その名前のようなヒトだった。


 アマンダの名が意味する通り、愚かな程の愛情をオレへと注いだ、リュースのような・・・愛しいヒト。


「今も、貴女を愛してるよ。リュースちゃん」


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 「リュース」は北欧の言葉で光。

 アマンダは、アーモンドのことです。

 アーモンドの花言葉は「無分別」「愚か」「永遠に優しく」「愚かな程の愛情」などです。

 彼女は、聖女と呼ばれていただけで、人間ではありません。

 普通に人間の聖女だと、面白くないので。

 種族については追々。

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