掃除の邪魔なんだけどっ!?
やっぱり、アルはシーフに酷いですね。
ふっと、覆い被さるシーフに、気付いた。
「あ、ヤベ。吸い過ぎた」
くたり・・・というか、寝息を起ててオレに凭れ掛かるシーフへのエナジードレインを中止し、治りかけている傷痕の血を舐め取る。
ヤバい。ちょっと・・・いや、やっぱり本当に加減が利かなかった。
血はあんまり飲んでいないから、エナジードレインでの気絶・・・だろうか?
コイツは、普段から場所なんか関係無く、いきなり寝落ちするから判り難いんだよなぁ。
シーフをベッドへ寝かせ、毛布を掛ける。必要無いのは判っているが、気分だ。いや、やっぱり頭から掛け直して、着替えよう。
「さて、どうするか・・・」
認めるのは癪だが、シーフに強制的に寝かされ、血液とエナジードレインとを供されたお陰で、体調がいい。割と、気分もすっきりしたし。
・・・強制的に寝かされたのはムカつくけど。
言いたくはないが、コイツの血は美味しい。あと、すごく飲み易い。魔力とかの問題以外にも、精神的な意味でも、非常に飲み易い。
なんというか、ハードルが低いのだ。
傷付けることへの抵抗…忌避感が、薄い。
オレはシーフのことを・・・物理的になら、傷付けてもいい相手だと認識している。
シーフの血は、オレが好きに飲んでもいいモノ。シーフの精気はオレが好きに奪っていいモノ。
我ながら、酷い言い種だと思う。けれど、オレは真実、そう思っている。
リリは、オレが望めばシーフのように血や精気を分け与えてくれるだろう。おそらくは際限無く。けれど、オレにとってのリリは可愛い女の子で・・・なるべくなら、傷付けたくない相手。
養母さんやレオは、オレに血や精気を分け与えてくれる相手。オレが強請れば、無条件で与えてくれる上位の相手という認識。
シーフとは、違う。
おそらく、実力的にはシーフの方がオレよりも強いだろう。力では、シーフに敵わない。だけど、精神的には、オレが優位に立っている。シーフはオレの下、なのだ。
この辺りは、狼の家で育ったからだろう。明確なランク付けというか・・・
シーフは、オレの下位に位置する。だから、シーフのモノはオレのモノ。そして、シーフの面倒も、オレが見るもの。そういう認識をしている。
シーフも、そう思っているようだし。
side:アル。
※※※※※※※※※※※※※※※
アルとアルの弟だというシーフと二人が部屋に籠って三日後。寝ていたというアルが起きて来たかと思ったら、今度はシーフが寝たらしい。
それから、更に数日。
「なんっなのっ!? このヒトはっ!?」
甲板やら廊下、食堂はまだわかるよ? けどさ、階段の途中や手摺に引っ掛かってるってどういうことっ!? なんでそんな変なとこで寝てるワケっ!? なんでその体勢で寝てられんのっ!? 本っ気で信じらんないんだけどっ!?
「ちょっとアンタっ、掃除の邪魔なんだけどっ!? いい加減起きなよねっ!?」
ぐてーっと床にだらしなく寝そべり、微動だにしないアラブ風な男へ怒鳴り付ける。
最初は毎回驚いてアルを呼んでいたんだけど、あまりに頻度が多いので、「適当に踏んでいいから」と言われた。そのときには、「そういうワケには行かないでしょ」って答えたんだけどねっ!?
これはもう、アルの言った通り、踏んでもいいんじゃないかって気分になって来る。
起きないし、退かないし、動かせない。
本っ当、邪魔!!
「・・・」
そして、この無反応がまた頭くるしさっ!?
・・・無視じゃなくて、本当に寝てるんだよね? 無視だったら、かなり質が悪い。
「起ーきーろーっ!?」
「・・・ん…ぅ? あと、十…五・・・時間・・・」
「はあっ!?!? 三分でも図々しいのに、十五時間なんて待つワケないでしょっ!? 起きろっ!!」
「・・・」
そしてシーフは溜息と共に、あろうことか、転がった。ごろごろと、僕が掃除を終えたエリアへと。そして、数秒後にはもうすやすやとした穏やかな寝息が・・・
「~っ!? 起きろって言ってんだよっ!?」
アルがシーフをアホ扱いする理由が、すっご~くよくわかった。
どうにかこうにかシーフを起こして、話をする。
「あのさ、寝るんならこんなとこ転がってないで部屋で寝なよ。ぶっちゃけ、掃除の邪魔」
「・・・部屋、追い出された。アルに・・・謎」
眠たげな瞳と声で、コテンと首を傾げるシーフ。しかし、どこも全く、一切謎じゃないことは明白だろう。一応アルも女の子なんだし、シーフを部屋から追い出すのは当然だと思う。
「他にも空いてる部屋あるんだからさ、そういう部屋で寝なよ。床とか…手摺に引っ掛かって寝るなんていう、意味不明で無駄にアクロバティックな寝方なんかより、その方がずっといいと思うよ?」
その方が身体にも優しいと思う。絶対に。
「っていうか、あんな信じらんない寝方して、身体痛くないワケ? 首とか腰とかさ?」
「? …痛く、ない…」
「マジでっ!?」
「ん…」
「すご・・・って、そうじゃなくて! 寝るときは、どこか空いてる部屋に行って寝てよ。そこらで寝られると、僕が困る」
「・・・無理…」
「は? なに? 移動するのも面倒とか言うワケ?」
「ん。それも、ある。けど…食堂、とか廊下…アルの部屋。以外、入れない…から?」
「はあっ? なにそれ? 場所がわかんないとか?」
全く、なにこの世話の焼けるヒト? ホンっト、仕方ないなぁ。もう・・・
「ほら、立って。行くよ」
「?」
きょとんとするシーフへ手を差し伸べる。
「ほら、行くよってば!」
驚いたように僕の手を見詰めるエメラルド。
「・・・なんで、手?」
「は? アンタが鈍くさそうだからだよ」
「…熱い。って、思わない? 火傷・・・とか?」
「は? なに言ってンの? アンタ普通にアルにべたべたしてンじゃん。アルはかなり鬱陶しそうにしてるけど、どこも火傷してないし。それともなに? あれ、実はアルに火傷させてたワケ?」
「そんなことっ、してない…!」
シーフにしては、強い否定の言葉。もしかしたらこれ、昔にやっちゃった系? アルに、火傷させたことがあったり? ・・・まあ、別に聞かないけどさ。
「そう。なら、大丈夫なんでしょ。ほら、もういい加減さっさと立ちなよ?」
僕の手を見詰めるエメラルド。おずおずと差し出される蜜色の手を取る。と、
「…ありが、と…」
仄かにシーフが微笑んだ。
なんだ、眠たいだけじゃない普通の顔もちゃんとできるじゃん。・・・ヤバい、なんか照れる。
「べ、別にっ」
そして、シーフの手を引いて近くの空いてる部屋へ入ろうとした――――ら、シーフだけが入れなかった。入ろうとすると、なぜか弾かれる。
「は?」
「ん…入れない…」
「いや、待って! 意味わかんないから!」
「・・・船の主…が、許可。してない、から? ・・・リリアンの、船。でも、行動…制限される…」
「へ? は? アマラに、ってこと?」
「? …多分?」
「なんで? なんかした?」
ゆるゆると首を振るシーフ。
「…水…属性の、ヒト。には、よく…嫌われる…」
「はあ? なにそれ?」
「…リリアンも、言う。船、燃やされたら嫌…って。だから、移動…制限?」
「・・・僕、ちょっとアマラに頼んで来るから、ここで待っててっ!?」
・・・とは言ったけど、結局駄目だった。アマラからの返事は無し。時間的に、寝てるみたいだ。
シーフに謝ろうとしてとぼとぼ戻って来たら・・・床に転がってまた寝てたっ!!
そして、また起きないし!
だから、代わりにアルに言うと・・・
「気にしなくていいよ。コイツ、本っ当どこででも寝るから。地面とか、雨風も雪も、雷が落ちても、全く関係無く寝続けられる奴だし」
「や、さすがに雷はウソでしょ?」
「さあ?」
アルが薄く微笑む。その顔は、全く似てない筈なのに、どこかシーフの微笑んだ顔と似てる気がた。やっぱり、姉弟…なのかな? 全く似てないのにさ。
side:カイル。
読んでくださり、ありがとうございました。
掃除がしたいカイルと、眠たいシーフの攻防?でした。ちょっとコミカルに。




