ああ、コイツ、炎属性。
周囲を困惑させるシーフ。
天然は強いですね。
シーフに寝かされたというアルと、奴が二人で部屋に籠って三日が経った。
ヒューとカイル、そしてジンが悶々としている。
つか、シーフの行動がガキの頃と大して変わらないことに驚いたな。奴は、昔からやたらアルにべったりだったし。そして、いきなり突飛な行動を取り、よくアルにシバかれていたような気がする。それが今も然程変わってないようだ。
シーフがアルにプロポーズして、身内同士で結婚がどうの~とかジンが喚いていたが・・・
自分は、特に問題があるとは思わねぇがな?
シーフは昔から、アルが本気で嫌がることは絶対にしなかった。アル本人がキッパリ断ったってンなら、その話はそれで終わりだろうに。
それでもジンが、「アルちゃんが~っ!?!?」と煩いので、アマラに聞いてみろと言った。
後は知らん。
side:御厨。
※※※※※※※※※※※※※※※
『だから、何度も言ってンでしょっ!? なんっ、にもありゃしないわよっ!? つか、二人共気配が希薄なのっ。希薄よっ、希薄っ! だ・か・らっ、全く動いてないンだってば! 寝てンじゃないのっ?』
アマラが言う。船底から引かれた、パイプ越しでのやり取りだ。
「いや、だからさ、それって大丈夫なの? もう三日も経つんだよ?」
『ンなことアタシが知るワケないでしょっ! っていうか、あの小娘半分とはいえ仮にもヴァンパイアなんだから、長期間の睡眠だか冬眠だかしても全っ然おかしかないわよっ!?』
「いや、でもアマラ」
『ああもうっ、さっきっから煩いわねっ!? 睡眠不足はお肌の大敵なのよっ? わかってンのっ!? つか、イフリートのガキなんて人魚らの天敵になんざ関わりたくないわよっ!? 干からびたらどうしてくれンのっ!!!!』
と、言ったっきり、アマラはうんともすんとも言わなくなった。音が遮断されたようだ。
「ミクリヤーーっ!?!?」
アルちゃんとシーフ君の二人と幼馴染だというミクリヤに、どうにかしてほしいと頼んだ。
「・・・はあ? なんでわざわざ自分が」
「頼むよミクリヤ!」
「ったく・・・」
ぶつくさ言いながら、ミクリヤがアルちゃんの部屋へと赴き、声をかける。
「おーい、起きてンなら出て来ーい。とりあえず飯食えー? アルー、シーフー?」
「・・・」
「応答無し。っつーことで、行くわ」
「ミクリヤ!」
ミクリヤが行こうとしたとき、アルちゃんの部屋で、誰かの動く気配がした。
「あ?」
ミクリヤも気付いたようだ。そして、ドアを開けて出て来たのは――――
「っ!?」
「・・・アルなら、寝てる…」
のそりと眠たげなシーフ君っ!? しかも、上半身裸ってどういうことっ!? いや、まあ…足音でアルちゃんじゃないのは判ってたけどさ? あと、アマラの言った通り、本当になんにもなさそう。まあ、多分なんだけど。
「よう、シーフ。久し振りだな」
「? ・・・・・・?」
挨拶をしたミクリヤを見てコテンと首を傾げ、考えるような素振りの後、また首を傾げるシーフ君。どうやらこの様子だと、ミクリヤを認識していないようだ。
「ああ、判ンねぇか。雪路だ。御厨雪路。アルに雪君って呼ばれてた猫」
「・・・ゆき…?」
「おう。雪路だ。覚えってっか?」
「…ん。猫の、ヒト…アルの、友達?」
「ああ。ンで、シーフ。ご飯食べるー? 食べるなら、一応リクエストは聞くよー?」
いきなり喋り方を変えたミクリヤに面食らうこともなく、相変わらずの眠たげなテンションでシーフ君は答えた。
「・・・炭、とか?」
「は? え? 炭食べるの? 君」
「・・・燃やす」
「え?」
なんというか、一々反応が予想外だなこの子は。
「え~と・・・木炭とかでいいか? シーフ」
「ん。薪…とかでも、いい…」
というよくわからないシーフ君の要望により、甲板で火を焚くことになった。
そして――――
「えっとさ、なにしてるの?」
七輪に木炭をセットするミクリヤへ、甲板へやって来たカイルが質問した。それ、俺も聞きたい。
「さあ? 木炭燃やすとこ、かなー?」
ミクリヤが、見たままの状況を答える。
「それは見てわかるよ、ミクリヤさん。っていうか、なんでアンタは上裸なの? 服は?」
と、カイルがシーフ君を不審げに見やる。スラリとした、けれど意外と筋肉質な上半身を。シーフ君は、割と着痩せするタイプのようだ。
「・・・服、部屋…着るの、忘れた…から?」
「いや、なんで疑問系なのさ? っていうか、寒いんならちゃんと服着なよ」
「? ・・・寒く、ない…」
そう言ったシーフ君がおもむろに、七輪へと手を伸ばして木炭を手に取る。そして、
「っ!?」
ボッといきなり赤く燃え出す木炭。
「ちょっ、シーフ君っ! 手っ!?」
「ん。平気…」
淡々とした返事。そして、普通なら長時間掛けてゆっくりと燃える筈の木炭が、一気に燃え上がる。高温の炎が一瞬にして木炭を燃やし尽くした。
蜜色の手の中に残ったのは白い灰。それがほろりと崩れ落ち、風に流されて散って行った。燃え上がった木炭を乗せていたシーフ君の手は滑らかで、火傷の痕など全く感じられない。
「おお、派手に燃えたなー」
ミクリヤの呑気な言葉。
「ミクリヤっ?」
「ん? ああ、コイツ、炎属性。素手で金属溶かして遊ぶくらい、熱に強ぇンだよ」
「ん。酸素は…友達?」
頷くシーフ君。
この間の、アルちゃんを気絶させた方法に繋がるワケか。酸素濃度の操作。
今のはおそらく、アルちゃんにしたこととは真逆のこと。あのときは酸素濃度を低下させたようだが、これは木炭の周囲を高濃度の酸素で覆い、燃焼を一気に加速させたのだろう。※高濃度の酸素に着火すると、爆発する危険があります!
次々と木炭を、一瞬で灰にして行くシーフ君。それを、すごいと見物するカイル。けど・・・
「・・・ミクリヤ」
「なんだ? ジン」
「今更なんだけど。彼って、俺達が思ってたよりも、物凄~~く危険なんじゃ・・・」
「だろうな。多分、純粋な破壊力…火力で言ったら、スティングさん達よりも、コイツのが危険だろうよ。なにせ、見ての通りの炎。そして、空気の操作ができンだぜ? 大抵の生き物は、殺れンだろ」
ミクリヤの言葉に、ざわりと背筋が粟立つ。
アルちゃんとミクリヤは、こんなに危険な子と、よくも普通にやり取りができるものだ。
・・・いや、普通というか、アルちゃんはかなり雑…というか、割と手荒くシーフ君を扱って…いや、シバいていたけど。
「この船だって、簡単…とまでは行かないが、ある程度燃やすことはできるだろうよ」
「・・・」
「ま、それができるっつーことと、実際にするかってこたぁ別の話だろ? ジン」
「それは・・・」
確かに、それはミクリヤの言う通りだ。そういうことを危惧していたらきりがない。だけど・・・
「なにやってンだ? お前ら」
と、そこへヒューがやって来てシーフ君へ言った。
「…ご飯?」
「は?」
「え?」
シーフ君の返事にぽかんとするヒューとカイルの二人。うん、それわかる。この子、色々と・・・すご~く突飛な子だし。
side:ジン。
読んでくださり、ありがとうございました。
呉々も、シーフの真似はしないでください。
危険ですし、普通に火傷します。




