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・・・重い…そして、暑い。

 シスコン注意!

 ある意味シーフの反撃です。

 身内同士のべたべたが苦手な方は、お戻りを。

 いろんな意味で注意!な話です。

 あと、やっぱりアルはシーフに雑。

 逸らそうとした銀色の浮かぶ翡翠。けれど、頬へ手を添えて逸らせないようじっと覗き込む。と、根負けしたような溜息。


「・・・寝てない、ワケじゃない。ただ、少し・・・熟睡できてないだけだ」


 ぼそりと呟くアルト。


 アルは意地っ張りだが、実は繊細。動物的…とでも言うのだろうか? どこででもすぐに眠れるおれと違って、信頼できる場所でないと眠れないらしい。もしくは、信頼できる誰かがいないと駄目?


 アルの悪夢はよくわからないが、『それ』が酷く(つら)いだろうということは、知っている。

 昔から、よく(うな)されることがあるのも知っている。そういうときは養父(ちち)養母(はは)、またはレオ(にぃ)にくっ付いて寝ていた。狼はもふもふ。あと、偶におれ。そして、父。


 兄貴と姐御(あねご)は、アルがよく悪夢に魘されていることを、知らないだろう。二人とは、あまり暮らしていないから。

 一応、姐御の家族と一時期同居はしていたが――――あのときのアルは、とある(・・・)事情(・・)でへろへろだったので、魘される暇がなかった。おれも、かなりへろへろだったけど・・・


 父とは、普段会うことはあまりない。だが、アルが頭痛でバーサクしているときには必ず駆けつけて来る。そして、アルの頭痛がましになるか、体力が尽きて動けなくなるまで強制的に寝かせるのだ。

 まあ、強制的(・・・)に寝か(・・・)せる(・・)なら、養父達狼に拠る肉体的ダメージで寝かせるより、父の電撃で意識を刈る方がアルへの身体的ダメージが少ないのだろうと思うが。

 繰り返しアルの意識を刈り取るときのあのヒトは、とても辛そうな顔をする。あのヒトの辛そうな顔は、そうそう見られるものじゃないと思う。

 だから、あのヒトはアルをとても大切にしていた筈なのだ。おれにも、よく判るくらいに。


 なのに、あのヒトは、こんな問題を抱えたアルを家から追い出した。そして、エレイスの家からも締め出した。一人切りで。

 意味が、わからない。

 養父達だって、アルがとても弱いことを十二分に理解しているのに。それなのに、あのヒトに同意して・・・アルへ、「帰って来るな」と言った。


 はっきり言って、アルは弱い。真祖の血筋としては、有り得ないレベルの脆さ。父や養父達に、大事に大事に庇護されて、(ようや)く生きて来れたのだ。


 それを、今更アルを放り出す意味がわからない。


 いつもなら絶対アルの味方をする筈のレオ兄や養母も、今回は父の意見に賛成らしい。理不尽。

 まあ、レオ兄は兄貴がアルに逢おうと動くのを止めていたが・・・そして、なぜか微妙にへこんでいた。へこむくらいなら、アルの味方をすればいいのに。変。


 だから、おれがアルの(そば)にいてもいいと思う。おれは絶対、アルの味方。


「・・・なんだよ、シーフ」


 ムスっとした低い声。


「・・・寝た方が、いい…」

「ウルサい」


 そんなことは、アルも判っているだろう。


「・・・不眠症。は、大変…?」

「イヤミかよ…」

「?」

「・・・もう、いい。放せ、このアホ」

「…や」


 身じろぐアルを、逃がさないよう腕に力を籠めてぎゅっと抱き締める。じたばたするが、気にしない。どうせアルは、抜け出せない。腕力は、おれの勝ち。


「は~な~せ~っ!」


 眠いのに、眠れないのは大変。だから、アルを寝かせてあげよう。痛いのは、可哀想・・・というか、体術はアルの方が上。体力や地力は低いが、技術は高い。今も、転がされたばかり。


 それに、アルに暗示や支配の(たぐい)はとても効き難い。『悪夢を思い出すな』という、父の本気の暗示は一応(・・)掛かってはいたようだが・・・

 そして兄貴の、『いいですか? 僕以外の男は全てクズだと思いなさい。ロゼット』という、全力で掛けようとしていたしょうもない暗示は、アルには全く効かなかったし。その後、姐御とレオ兄に、ちょー怒られていた。兄貴は偶に、物凄くアホ。

 ・・・だから、おれ程度の暗示なら、もっと無理だろう。


「や・・・」


 どうする、か…


「や、じゃねぇンだよこのボケがっ!?」


 アルが怒る。そうだ。こうしよう。


「寝て、いい。大丈夫…おれが、いる。から…安心、して? ね、アル・・・」

「はあっ! なんでお前にそんなこ、とっ…? なに…し、た…? しー・・・」


 キッと睨んだ翡翠の(まぶた)がふっと落ち、閉じる。くてんと力が抜けて意識を失ったその身体を支える。成功。


「アルちゃん?」

「おい、アル?」

「ちょっ、どうしちゃったのさ? アル?」

「シーフ君、アルちゃんになにをしたの?」


 眼鏡越しに険しい色で見下ろす薄い琥珀。


「・・・寝かせた。だけ…」

「いや、それは判ってるよ。どうやって、って訊いているんだ。その方法をね」


 低い声が言う。


「…酸素、濃度?」

「っ!? 君っ、そんなことしたのっ!?」


「「?」」


 慌てるのは、銀髪のヒトだけ。あとの二人は意味が判っていないようだ。


「そんな危ないことして大丈夫なのっ!? アルちゃんはっ?」

「ん。平気・・・多分」


 アルの息継ぎのタイミングで、周囲の酸素濃度を低くしただけだ。そしてアルは、低酸素で気絶。普段なら()(かく)、弱っているアルには効いたようだ。※低酸素状態は、脳に重篤な障害を引き起こす可能性があり、大変危険です。


「多分って、そんな…」


 そう心配しなくても、ヴァンパイアは簡単に死んだりはしない。アルも、ハーフの個体としては弱くても、人間よりは丈夫だ。


「ん。寝た。…ベッド、どこ?」※寝たのではなく、気絶、または意識障害です。


 アルを抱き上げて立ち上がる。


「え? あ、こっち」


 と、小さい子が案内したのは、小さめの部屋。


「…ん。ありが、と…」

「へ? あ、うん」


 ドアを閉める。物は少ないが、少しアルの匂いがする。アルの部屋のようだ。気配が染み付いてはいないから、ここで暮らしてからあまり時間は経っていなさそう。例えるなら、仕事などで数週間程滞在中のホテルや宿屋に近い…だろうか? 本人はそこにいても、どこか余所余所(よそよそ)しい感じ。


 アルをベッドに降ろし、ブーツを脱がせる。相変わらず重い靴。蹴られるとそこそこ痛い。おれが作ったけど・・・そして、色々と仕込んでいる上着を脱がせて服を(くつろ)げる。


 アルの服は、姐御の織った布の服。半分、女郎蜘蛛じょろうぐもでもある姐御の紡ぐいとはとても丈夫で、耐刃性に優れている。あと、着心地もいい。けど、火には弱め。一応、普通の炎では燃えにくいらしいが、おれの焔では簡単に燃える。燃やすと、姐御に怒られる。そして、「いつかアンタの焔でも絶対燃えない絲を創ってやるからね!」と姐御が奮起する。燃えない絲、楽しみ。超期待。


 アルの頭を持ち上げ、髪留めを外す。サラリと流れる月色の髪。きらきらして、綺麗。癖が少なくて、するすると柔らかい。アルは、「鬱陶うっとうしくて邪魔」と言って切りたがるが、その度に姐御やリリアン、兄貴が止める。こうして、この美しい髪が守られている。グッジョブ、姐御とリリアン。


 髪を下ろすだけでもガラリと雰囲気が変わり、小柄な美少年から、物語の姫のように見えて来る。姫は、寝ていることが条件だが・・・眠り姫?

 起きているときには凛とした雰囲気の強いアルだが、目を閉じて寝ていると・・・その整った顔は丹精籠めて創られた美しいビスクドールのように見えて来る。

 閉じた瞼に隠れるのは、翡翠に浮かぶ銀色の瞳孔。おれのエメラルドと灰色よりも、柔らかくて淡い色合い。

 兄貴の、灰色の浮かぶセピア色の瞳や、銀環ぎんかんが取り囲む漆黒の瞳を持つ姐御よりも、おれの瞳はアルに近い。色違いのお揃いみたいで、ちょっと自慢。


 寝ているアルも見飽きない程綺麗なのだが、やはりおれは、起きているアルが好きだ。

 早く、いつものアルになってほしい。


 寝ているアルの唇にそっと口付け、軽くついばみながらゆっくりと精気を分け与える。おれの母は焔の聖霊イフリータ。その血が濃いおれは、ヴァンパイアよりも聖霊に近しい。

 だからアルは、純血種の父や兄貴の強い魔力や精気よりも、おれの血や精気の方が吸収し易いらしい。そして魔力許容量の低いアルは、血よりも精気の方を好む。

 今はリリアンの血の方を好むアルだが、おれの方がアルの非常食歴は長い。

 昔から、起きているときよりも、寝ているアルに精気を分け与えることの方が多かった。バーサクの後や、兄貴がやらかした後、アルがへろへろなときなんかは特に・・・


「・・・ふゎ…眠く、なって来た…」


 精気を大量に分け与えると、眠くなる。おれもそろそろ寝よう。上着を脱いで、柔らかいアルの身体を抱き締める。


「おやすみ…アル。ん…」


 白い頬へ口付け、意識を手放した。


 side:シーフ。


※※※※※※※※※※※※※※※


 ・・・重い…そして、暑い。


 気怠く、閉じようとする瞼をどうにか開く。と、身動きが取れなかった。


「?」


 なんだろうと思ったら、シーフだった。

 意味が、わからない。

 なんでシーフが?


「・・・?」


 眠くて眠くて、頭が回らない。

 とりあえず、オレはまだ眠い。

 暑いのは嫌いだ。

 暑いと眠れない。だから、


「・・・邪魔…」


 と、オレに抱き付いて密着しているシーフを引き剥がしてベッドから蹴り落とす。これでよし。


「…ふゎ・・・眠…」


 必要無いのは判っているが、毛布をシーフに掛け、オレも別の毛布に包まって意識を手放す。


 side:アル。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 シーフはキス以上はしていません。念の為。

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