火は苦手だ。
暇なアルの視点。
暇なので余計なことを思い出しかけます。
虐待、火傷の痛い表現にご注意を。
船旅って、やること無い。
いや、無いことはないと思うんだけど・・・
真っ先に思い付いた船内の掃除とかは・・・自分の部屋以外は掃除するなって、カイルに言われてしまったからなぁ。
まあ、カイルは屋敷妖精だし?
掃除なんかの家事をするのは、彼らの本能に染み付いた働きというやつだ。「僕の仕事を盗る気?」と言われれば、そこまでの思い入れが家事にあるワケじゃないオレとしては、引き下がるしかない。
忙しくしているヒトの邪魔はできないし。
ジンとヒューはなぁ・・・
ぶっちゃけ、まだ信用してない。
アマラは割と好きだが、邪険にされた。人魚の加護のお陰で、オレにはアマラの領域内での移動制限やら、アマラの魔術諸々が掛けられないらしい。だからこそ、アマラの意志は尊重しなければいけないだろう。
で、雪君のとこでだらだらしているワケだ。料理の仕込みをしながら適当に相手してくれるし。
今も、野菜や果物の鮮度を回復させたばかりだ。そして、暇だと訴えたら、「料理の仕込みが終わったら相手してやるから、もう少し待ってろ」と言われたので、終わるまで待っているところだ。
暇なら、自分の仕事するか。と、言いたいが・・・
ダイヤ商会関係の仕事は、脳内で適当に捏ねくり回せばできるし。つか、基本オレの仕事は口出しだけ・・・あの、基本的にやる気の無いアホ弟に仕事をさせるとかだし。
一応、材料の加工なんかもオレの仕事ではあるが、鉄鉱石などの素材の硬度や強度を変えること…結晶配列に干渉して結晶の均一化や不純物の除去などで硬度を増したりとかして…そうした良質の素材を弟へ渡すことは・・・現物が無いことには、どうにもできないし。
熱や圧力を加えずに結晶構造を弄れるのは、地水火風に適性を持つオレの特性だ。なんと表現すればいいだろうか? お願いしたら、鉱物が言うことを聞いてくれる…というのが近いかもしれない。
大規模なことは無理だが、少量の鉱物の結晶配列を弄るくらいはできる。まあ、中には言うことを聞いてくれない気難しい鉱物もあるけど。・・・ある程度良質の素材から、不純物を取り除いて最高級の品質へランクアップさせたりなどだ。
まあ、水を弄るのが、オレには一番簡単なんだが。水は不定形で形を変え、分子結合が弱い。
柔らかいが故に、どんな隙間にも入って行けて、引っ張ればどんな風にも姿を変えられる。とても面白いと思う。
そして、これは風も同様。飛ぶときに多用する。
火は・・・苦手だな。怖い。熱いのは嫌いだし。火傷は痛くて、非常に辛い。
それに、弟が火属性…焔の申し子だ。アイツを越える程の適性は、オレには無い。
というか昔、奴がまだ自分で焔の制御ができなかった頃、初対面で燃やされたことがある。奴の肩にぽんと触って、手の平の皮膚が炭化した。非常に痛かった。びっくりして泣いたし。
まあ、一瞬の高温だったから焼けたのが皮膚だけで済んだのが不幸中の幸いだが・・・
治るまでのあの、地獄の痛み・・・
因って、火は苦手だ。
あれは、怖い。痛くて……
とても、怖かった・・・
手足に走る鋭い痛みと熱。自分の顔面がじわじわ焼かれる感触と、その臭い・・・『ホント、君って学習しないよね? 馬鹿にも程があるでしょ』冷たい少年の声。『いい加減覚えろよ。僕から逃げるなんて、赦さない』暴れるオレを押さえ付けるのは…『あれ? やり過ぎた? 死ぬ? 全く、これだから脆弱な混血は・・・ねえ、×××? 君さ、勝手に死んでいいとでも思ってるの?』酷薄な金色の『そんなの、赦さない』…瞳、で・・・
あ、れ? ・・・炭化したことあるのは、手の平だけ…の筈なのに、なぜか手足や…顔面に火傷したような覚えが・・・? っていうか、なに今の? 冷たい声? 酷い痛み? なんで、そんなこと…が・・・『アレクシア、忘れろ。奴を思い出すな』父上の声が、脳裏に響く。『もう大丈夫だから、アレク』どこか辛そうな、声で・・・
・・・だから、忘れないと・・・『そう。思い出しちゃ駄目だよ? 忘れてなよ。ね、アル?』甘く、艶やかな声が脳裏に・・・そしてなにかが、深く沈んで行く。
あ、れ? オレは、なにを…考えてたんだっけ?
あぁ…なんか・・・凄く気分が悪いな。
「アル?」
呼ばれた声に、ハッと顔を上げる。
「っ! ……雪、君?」
「お前顔色悪ぃぞ? どうした?」
「いや・・・なんだろ?」
よく、わからない。けど、気分が悪い。
胸が、ざわつく。
「なんだ、調子悪ぃのか?」
「い、や…」
調子は、悪くない…筈だ。
「一応、仕込みは終わったが・・・今日はやめとくか?」
「いや、大丈夫。やろう。身体動かせば治る。っていうか、動かしてないから調子悪いんだよ」
「いや、お前それ、自分の顔見て言えよ」
「嫌だ! 遊ぼう、雪君」
じりじりとした焦燥感が、胸に募る。
「・・・ジンを呼ぶ。ストップが掛かったら、そこで終わりだ。いいな? アル」
溜息混じりの雪君に頷く。
「それでいいよ」
・・・弱いと、駄目だ。
抵抗すら、できない。
一方的に、蹂躙されてしまう。
そんなのは、嫌だ。厭だ。絶対に厭。
そう、ならない為には・・・
どうする?
鍛えるしかないだろう。自分を。
side:アル。
読んでくださり、ありがとうございました。




