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御厨の手伝いするー?

 御厨視点。まだだったなぁ…と。

 鬼百合を名乗る人魚が慌ただしく去ってから、数日が経った。


 怪我が全快してからのアルは、眠そうでもなく、(だる)そうにもしていない。船酔いも特にはしない性質(たち)らしい。それはいいことだが・・・


「雪君暇ー」


 こうして、食堂に来てだらだらしている。


「船旅がこんなに暇だとは思わなかった」


 退屈そうな呟きを、


「ま、アル君はお客さんだからねー」


 微妙に皮肉る。


「暇なら、掃除でもしてればー?」

「カイルが、僕の仕事を盗る気っ? だってさ」


 カイルか。ま、アイツは掃除好きだからな。


「ンじゃ、御厨の手伝いするー?」

「どんなの?」

「アル君はなにができるー?」

「ん~・・・一応、料理はできなくもないかな? 普通のじゃなくて、野戦料理が多いけどさ」


 上品そうな顔でしれっと野戦料理と来やがったか。つくづくコイツは、お嬢様らしくない奴だ。

 まあ、それ以前に、全く女らしくもない…というか、自分(ミクリヤ)は、アルを男か女かで認識したこともなかったが。

 というか、むしろコイツ。そこらの野郎共より(おとこ)らしいのはガキの頃からだったしな。女に甘いってぇ性質(たち)も、昔から全く変わってねぇようだし。


「なに? 動物の丸焼きとか?」

「そうだねー。あと、(きのこ)鍋とか?」

「茸? 見分け方判ンのか? アル」


 茸は食べられる種類より、食べられない種類の方が圧倒的に多い。無論食べられない茸は、毒茸だ。

 幾ら自分(ミクリヤ)達が人間よりもかなり丈夫にできているとはいえ、毒の程度に()っては普通に死ぬ。毒物の見分けは、できるに越したことはない。


「一応はねー? って言っても、オレは毒効かないから、猛毒食っても平気だし。ちゃんと見分けできてたかは不明…いや、何度かレオが当たっていたような・・・?」


 首を傾げるアル。


 なんて、恐ろしい奴なんだ。自分が毒が効かないからと、毒物を兄貴(レオンさん)に食わせるとは・・・


「・・・お前に茸の見分けは、絶対ぇさせん。つか、レオンさん、よく無事だったな……」


 いや、待て。確か今、何度かっつったか? あのヒト、昔からアルにはやたら過保護だとは思っていたが・・・まさか、毒料理を何度も食う程とはな……

 昔はあの過保護さを不思議に思っていたが・・・シスコン、とやらか?


「まあね。レオも、ある程度は毒物に耐性付けてるから。って言うか、ここ海だし。茸無いじゃん」


 どこかの島に上陸する機会は(たま)にある。アルがそれまでこの船にいるのかはわからないが、そこで食料の調達をするようなこともあるかもしれない。だが、コイツに食料調達を任せるのはよそう。他の奴が危険だ。


「・・・他は?」

「保存食作るの上手いよ? 干物とか」

「ああ、あれか・・・」


 トマトを、一瞬でドライトマトにしていたやつ。


「あと、野菜とか果物を長持ちさせるのも得意」

「マジかっ? よし、やれっ!」

「いいよ」


 アルを厨房の方へ通し、食料保管庫へ入れる。


「さあ、やれ」

「ほいよ」


 アルが人差し指を空中へ向けると、


「液体化」


 ドッと空中に水が湧き出、そのまま宙をふよふよと漂う。アルの得意な、水分の操作だ。ガキの頃よりも規模がでかくなっている。


「相変わらず、便利な能力だな。(うらや)ましい」


 水分を含んだ空気…水蒸気さえ有れば、どこにでも真水が出せるのだという。砂漠や乾燥地帯で水を湧かせるのは難しいらしいが。水に困らないのは、有り難いことだ。


 船上に()いて真水の確保は、常に死活問題となる。水も腐敗するからだ。そして当然、腐敗した水は飲めない。下手すりゃ、死ぬこともある。

 船乗りが酒をよく飲んでいるイメージがあるのは、水の代わりに、腐敗し(にく)い液体の酒を飲んで水分補給をしているという側面もある。無論、酒での水分補給は肝臓が強くなきゃ、直ぐ病気ンなっちまうがな。


 一応、アマラにも海水から真水の精製はできる。だから、真水の確保に困窮したことは無い。だがしかし、あの野郎っ・・・「日光はお肌の大敵なのよっ!」だとかのたまって、基本昼は船底から出て来ねぇし。無視されても呼び続けると、しまいにゃ音も遮断しやがる酷ぇ野郎だ。


 この船に乗ってからは真水に困窮したことはしないが、昼間などには困ったことがある。

 真水の確保・・・アルがいる間は、アマラじゃなくてコイツに頼むのもありだな。


「まあね。じゃあ、長持ちさせたい食品を水ン中突っ込んで。芋とか、水分を抜いた方がいいのは入れないでね」


 ・・・コイツ、なかなかわかっている。


 芋や玉葱など一部の野菜は、ある程度乾燥させて水分を抜いた方が長持ちもするし、味もよくなる。干からびるまで行くと、当然ながら味は落ちるがな?


「おう、わかった」


 ぽいぽいと、野菜や果物を宙を漂う水球の中へ放り込む。水の中から落ちることもなく、ふよふよと揺れる野菜と果物はなんだか不思議な光景だ。


「これで終わり?」

「ああ」

「んじゃ、水分浸透」


 アルが人差し指をくるくる回すと、水球がぐぐっと一回り…二回り程も小さくなった。そして、心なしか野菜や果物の張りがよくなり、艶が戻ったような気がする。


 野菜や果物が水を吸っている、のだろうか?


「ほい、終わり。んじゃ雪君、取り出して」


 とぷんと水球へ手を突っ込み、アルが野菜を取り出す。


「おう♪」


 取り出した野菜や果物は、まるで採れたてのような艶と張りで、さっきまで萎びかけていたことが嘘のように瑞々しい。

 更には、水が全く付着していない。野菜や果物を拭く手間が省けた。野菜や果物は、濡れていると早く傷むのだ。


「助かったぜ、アル」


 船旅をするにあたり、生鮮食品の保存は大変ネックとなる。無論、腐らせないようある程度の工夫はしているが、これはとてもそんなレベルじゃない。


「どういたしまして」


 アルが軽く手を振ると、宙を漂っていた水球がパッと霧散。どことなく気温が下がった気がする。


「で、他なんかすることある?」


 暇だというなら、これからもアルに頼むとしよう。生鮮食品の保存が大分楽になる。


 side:御厨(ミクリヤ)

 読んでくださり、ありがとうございました。

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